北方領土問題は今は塩漬けに
(これは1月23日に発行したメルマガ「文明の万華鏡」の一部です)
22日の日ロ首脳会談では、目新しいことは起きていないように見えます。ただ心配なのは、昨年11月シンガポールでの首脳会談以来、安倍総理が「1956年の日ソ共同宣言をベースに交渉」ということを言い続けていることです。ロシアが「歯舞・色丹のことを話す前に、この2島にはロシアが主権を持っていることを先に認めろ」と繰り返すようになっている意味を、もっと吟味してみないといけません。
共同宣言の第9項「日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする。」を、吟味してみる必要があります。
これを交渉した時フルシチョフは、「歯舞・色丹はロシアのもの、つまりロシアに主権があるから返す義務はない。しかし平和条約を結べば、ソ連国民からの好意の証として日本に引き渡す用意がある」という趣旨を言っているのです。つまり、平和条約では国境・領土問題はいじらず(そんなものは平和条約とは呼びませんし、共同宣言がまさにその領土問題抜きの平和条約に相当します)、条約締結後、日本がいい子にしていれば2島を「引き渡す」(返還するのではない)こともあるよ、ということです。
安倍総理が言った、「56年共同宣言をベースに交渉」というのはこういうことだよ、ということを、ロシアは今念を押したがっているのでしょう。総理がこれに「OK」と言って、外交官に交渉させるとどうなるか? 領土問題には言及しない(悪くすると4島はロシアの主権下にあることを認めた)「平和条約」なるものを結ばされ、夏の参院選に向けての安倍総理の一大業績として喧伝されることになるのでしょう。この問題で30数回総理官邸に入り浸って助言をしてきた鈴木宗男氏は、参院選で自民党から国会議員に返り咲きということになるでしょう。
そしてその後は・・・これまでとよく似た光景が繰り返されることになるでしょう。ロシアは、「日本が平和条約を十分実施し、友好の実を見せてくれなければ、ロシア国民が島を引き渡す気にならない」とか言って、種々の要求を無限に繰り返してくることになるでしょう。日本は哀れなことに、国後・択捉に言及する根拠も失って、歯舞・色丹を引き渡してくれと懇願を続けることになります。
もともとクリミア併合後米ロ関係が悪化している時に、北方領土問題を進めようとしたら、日本がベタ下りするしかないのです。そのような「成果」は日本での選挙にはマイナスだし、安倍家に末代の汚名を残すことになるでしょう。今、急いで解決、と言うかベタ下りしなくても、ロシアとの関係は是々非々で互恵関係を発展させることができます。ベタ下りしてロシアとの関係を推進しても、日本が得られるものは何もありません。
領土問題の真剣な話し合いは、将来米軍が日本から撤退し、東アジアに小型国連のような国際的枠組みを作る必要が生じた時、中ロ関係が決定的に悪化した時、あるいはロシアが分裂した時等まで待っているのが、賢いやり方だと思います。
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