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日本安全保障

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2019年1月13日

内向き米国の下での日米同盟

(これは、一般社団法人 日本英語交流連盟のサイトhttps://www.esuj.gr.jp/jitow/552_index_detail.php#englishに投稿したものの原稿です)

最近、ボストン郊外の民宿に1週間泊まり、大衆の生活ぶりを拝見する機会があった。全米で最も古いボストンの地下鉄は、市が予算をまわさないため、ますます古び、不愛想なプラスチックむき出しの座席には「世界中の」人種・民族が坐っている。1965年、移民法を改正し、欧州白人以外の移民を大量に受け入れるようになって50年、米国(の都市部)は予想通り完全に多民族国家となり、街頭に欧州系白人はまばらにしか見られない。都市インフラのメンテの悪さ、そして低所得層の粗末な生活ぶりを見ると、途上国にいるのではないかという錯覚に襲われる。

そのくせ郊外の森の中には高所得層向け老人ホームが城のようにそびえ、ここは圧倒的に白人社会。時給10ドル程度の低賃金で、モテルの一室など仲間とシェアして何とか暮らす人達と、社会は上下に分かれてしまい、間を填めるべき中産階級の存在感がない。人口の10 %の高所得層がGDPの47%を独占する今の米国社会(1)では、中産階級の生活水準は自ずと下がっている。

米国では1970年代以降、製造業の海外への流出が止まらない。それは、中西部の工業地帯を中心に、主として白人中産階級の没落を招いた。今の米国社会がどこか空洞化した印象を与えるのは、このためだろう。

そして中西部の白人労働者層は、これまでの民主党支持から寝返って、トランプを大統領に当選させた。トランプの「アメリカ・ファースト」の内向きスローガンは、彼らの琴線に響いたのである。トランプはTPP、パリ協定などいくつかの国際取り決めからの脱退を表明し、NAFTAを実質的に改定した。そしてシリア、アフガニスタンからは米軍を撤退させると声明した。

今トランプは種々不正をつかれて揺らいでいる。しかし彼の去就に関わらず、これからも中部のラスト・ベルト諸州が大統領選でのキャスティング・ボートを握り続ける以上、米国は内向きであり続けるだろう。本年度急増した国防予算も、2019年度は減額になる構えを見せている。シリア、アフガニスタンからの米軍撤退を見て同盟国は、「自分のことは自分でやれ」というトランプの言葉を額面通りに受け取るようになるだろう。
 
この中で、日本はどうしたらいいか? 中国経済は、米国との対立に耐えかねて、これから崩れるかもしれない。それは、中国の軍事力の脅威を低下させるかもしれない。しかしそれでも日本は、米軍のプレゼンスが次第に後退していくことに備えて、自前の防衛力を整備していくべきだろう。

12月末政府が決定した「中期防衛計画」は、その方向に沿ったものである。右計画は、自前の空母(現存のヘリ空母を改修し、米国製の戦闘機F35-Bを運用するもの)の整備、長距離・超音速巡航ミサイルの配備などを提示しているが、これは従来の日本の防衛態勢に比べて一段と大胆になったものである。「陸海空軍その他の戦力を保持しない」と定めた憲法9条は、改正するのが難しいだろうが、自衛のための兵力は着々と整備されている。

但し核抑止力だけは、米軍に引き続き期待するしかない。そして同時に、米国の後退を政治面で補わないといけない。例えば米国、豪州等をも含めて、東アジア版の国連のようなものを構想する等である。

経済面では、日本は対米輸出への過度の依存を自ら是正しなければならない。2017年日本の対米貿易黒字は7兆円強で、2017年の日本の貿易黒字総額の2兆9072億円をはるかに上回っている。つまり日本は、米国との貿易で大きな黒字をあげて、それで他の諸国への貿易赤字を賄っている構造なのだ。日本の企業は、米国内での生産を益々増加させ、それによって過度の対米貿易黒字を減らすとともに、米国自身の蘇生をも助けるべきである。

なお、対米依存から脱却することは、日本が戦前の超国家主義に帰ることを意味しない。日本の歴史では絶対主義・専制主義の伝統は薄く、権力が集中していた時期は稀であった。江戸時代の農村では地主・小作関係より、自作農が形成する村の集まりでのコンセンサス形成が主流であった。

この平等性、そして草の根民主主義の伝統に乗って、日本は格差の小さな先進社会を実現しているので、これを維持していきたい。これは、中国・ロシアより、米国・西欧の文明との親和性が高いものである。

日本では、自由と民主主義と市場経済が根付いており、同様の価値観を根強く維持している米国の復活を助けることは、日本の利益でもある。

(1) "How to Save Globalization" in the November 2018 edition of Foreign Affairs

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