日中協商が日米同盟にとって代わる日
(これは、4月25日に「まぐまぐ」社から発売したメール・マガジン「文明の万華鏡」第72号の一部です。
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日米同盟とかNATOとか、国々の合従連衡は変遷常なきもの。トランプ大統領がボートをしきりに揺すぶる。ひょうたんから駒が出て来るかも。以下は、頭の体操です。こうなって欲しいと思っているわけではありません。
トランプが東アジアで起こすガラガラポン
トランプは、秋の議会中間選挙で勝つこと(今のままでは下院で共和党が過半数を失い、民主党に弾劾手続きを開始されてしまう)、自身の再選をはかること、この二つを至上課題として、そのためには何でも「使う」。使われた人間、あるいは国家が擦り切れようが、なくなろうが、構わない。まあ、在日米軍基地をあっさり放り出し、日本からの輸入全体に高関税をかけるようなことはまだしないが、朝鮮半島をめぐっては、ものごとを安易に考えて、地域諸国の組み合わせに「ガラガラポン」(他に適当な言葉が見つからない)を起こしてしまうかもしれない。
6月にも予定される北朝鮮との首脳会談で、ICBM(米国に届く)の開発停止だけを条件に手を打ち、スカッドやノドンなど韓国、日本に届く(核)ミサイルのことを放置するなら、日本での米国不信は高まるだろう。
まあそれは、米軍が核弾頭付きの巡航ミサイルを西太平洋の米原潜にでも配備すれば(以前はトマホークに装着されていたが、ブッシュ政権がこれを取り外す決定をし、オバマ政権はこの弾頭を廃棄している。しかし今年の1月米国防省が発表した新「国家防衛戦略」では、小型核弾頭の再開発を示唆)かなり抑止できるものではあるが、トランプが更に踏み込んで(と言うか金正恩の口車に乗せられて)朝鮮戦争の平和条約を結ぶ用意がある、米国は北朝鮮の体制転覆を図る意志はない、とでも言ったらどうなるか?
それが口先だけの誘い言葉で終わればいいが、ひょうたんから駒で、本当に平和条約を結ぶ方向にものごとが転がり出したら、それは当然「もう米軍がいる意味はない」ということで、在韓米軍の撤退につながっていくだろう。韓国政府がそれはまずいと思っても、文大統領の背後の「386世代」は朴正煕大統領の親米政権時代に投獄までされた経験を持つ反米の連中だ。彼らが声を上げて、米軍は出ていけという運動が韓国社会で高まるかもしれない。
米軍が撤退すると、韓国は次の日から、素っ裸で寒風にさらされているのに気が付くだろう。誰も後ろ盾がいない。自分だけで、北朝鮮、ロシア、中国からの圧力に対処しなければいけない。ロシアより大きいGDPを持っていると言っても、その多くは輸出で稼いでいるので、米国や中国との関係が悪くなると脆弱さをさらけ出す。
そうなれば、韓国は北朝鮮との連携を強めようとするだろう。北朝鮮の金正恩も20日の労働党第7期3次全員会議で、今後は経済建設を政策の主軸にすると言っている。連携が一度始まると、それは深度をどんどん高めていくだろう。ドイツ再統一の場合、西独はNATOを後ろ盾に、東独を上から目線で実質的に吸収合併してしまったのだが(その代わり、東独を低賃金国として搾取するようなことがないよう、東独のマルクを西独のマルクと等価として扱い、大きな財政負担を背負い込んだ)、韓国は後ろ盾を持たない「弱虫の金持ち」だ。カネをむしり取られやすいし、そうなるだろう。
韓国の民主主義社会は親米・向米、親北朝鮮・反北朝鮮、親中・反中等に分裂していて(日本については、反日の連中が声をあげると穏健な大多数の人たちは黙り込む構図)、方針が揺れ動く。となると、ドイツ再統一の時とは反対に、北朝鮮の方が再統一の過程でイニシャティブを取りかねない。
戦前、日本に抵抗するパルチザン運動を始めたのは、北朝鮮出身の金日成、北朝鮮の方が本当の朝鮮国家、韓国はそれに対して米国が擁立した傀儡国家に過ぎない、というコンプレックスが韓国の年長層にはあるようなので、北朝鮮が統一へのイニシャティブを取れば案外通ってしまうかもしれない。そうやって誕生するのは、核兵器と中距離ミサイルを持ち、かつロシア以上のGDPを有する経済・軍事大国なのだ。
朝鮮統一で日本はどうする?
この時日本はどうする? 対応するしかない。止めることはできないからだ。まず早い段階で北朝鮮と国交を設定し、基本条約を結んでおくべきだと思う。日本と韓国は「基本関係に関する条約」を結んでいるが、経済協力の規模等をめぐって交渉は難航、何度も中断した末、やっと1965年に締結されたものである。
韓国では、慰安婦問題、「強制労働」への賠償問題等を念頭に、この条約を改定したいとの声が強くある。朝鮮半島が統一されれば、統一政府は当然、新たな基本条約の締結を要求してくることだろう。この時既に北朝鮮と基本条約を結んであれば、これをそのまま適用するなり、あるいは改定するにしても小幅のものということにしやすいだろう。日本と統一朝鮮の間で、基本的な条約がないという事態が何年も続くという事態は、避けたいものだ。
統一朝鮮は反日の旗を掲げるか? 日米同盟がなくなって日本が経済でも更に弱化すれば、統一朝鮮は中国、ロシア等と語らって日本を徹底的に絞り上げてくるかもしれない。軍事的にも威嚇してくることだろう。
しかし二つ、制約要因がある。一つは、その頃の統一朝鮮の経済力、社会状況がどうなっているかということ。在韓米軍が撤退すれば、米国は韓国を優遇する理由はなくなり、サムスンや現代自動車の輸入を絞ってくるかもしれない。中国ではサムスンの携帯電話は既にシェア1%以下に転落しており、現代自動車も減少傾向にある。
もう一つは、統一朝鮮が置かれるだろう地政学的状況である。今の北朝鮮は古代の高句麗、あるいは中世初期の渤海国に相当する。この2王国と中国の諸王朝の関係は基本的には敵対的なもので、隋は2度にわたって高句麗を攻め、668年には唐が新羅と連合してこれを制圧(高句麗は滅亡。その後新羅は唐と抗争を繰り返し、935年には新興の高麗王朝に帰順している)している。
中国の学界では今でも、高句麗は雑多な民族が作ったもので、中国史の範疇に入るものだと主張する声が絶えず、北朝鮮の反発を招いている。そしてロシアは1860年の北京条約で、ウラジオストクとその周辺の沿海地方計150万平方キロ(日本の面積の約4倍に相当)を清王朝から奪っているのだが、その中には旧高句麗、旧渤海の領土も入っている。今でも北朝鮮とロシアの間では漁業紛争などが起きるが、統一朝鮮の軍事力は極東ロシアのそれを大きく上回るものになるだろうから、ロシアとの関係も平穏なもので終始するわけではない。
何を言いたいかというと、統一朝鮮にとっての主要な懸念の種は日本などではない、まず中国、次にロシアなのだということ。中国、あるいはロシアとの関係が緊張すれば、統一朝鮮のミサイルの照準はそちらの方に定められる。日本は古来、朝鮮半島が分裂していようと、統一していようと、中国の諸王朝と朝鮮との間で三者、四者の間のバランス外交をやってきた。時には半島の利権に入れ込み過ぎて白村江の惨めな敗戦(当時、日本側は簡単に勝てると思っていて、司令系統もばらばらだったらしい。まるで約1200年後の日清戦争を逆さにしたような構図)のような目にもあったが、こうしたバカな行動は絶対避け、つまり海千山千のすれっからしばかり揃っているユーラシア本土での騒動には絶対加わらないことを国是として、バランス外交をやっていくしかない。
なお現在の状況でも、日本が日米同盟をバックに、北朝鮮を友好国として扱い、米国と共にその経済建設を助けていくことにすれば、別の意味でのガラガラポンーパラダイムの転換―が起きる。朝鮮戦争の惰性で、北朝鮮を敵国として扱い、北朝鮮に政権転覆の恐怖感を持たせるから、彼らは核ミサイルにしがみつくのだ。北朝鮮も韓国も統一朝鮮も友好国だということにしてしまえば、ものごとははるかに楽になる。北朝鮮も拉致した日本人を返しやすくなることだろう。
そしてそうやって凌ぐうちに、ロボット、AIで地域諸国の社会が豊かになれば、今までのように「国家」を先頭に角突き合わせるようなばかげたことは、次第に不必要になっていくだろう。
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