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日本安全保障

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2014年8月 2日

集団的自衛権で徴兵は不要

7月1日の閣議決定は、一部のマスコミや政党によって、「徴兵制への道」であるかのように喧伝され、中間層も安倍支持を控え始めている。1960年岸内閣による安保改定が、実際には米国の日本防衛義務の明確化をはかる等、1951年の第1次日米安保条約が米国による日本占領を実質的に継続するだけに近かったのを改善したものであったにもかかわらず、これは対米従属強化、自衛隊の海外派遣につながるものであるとの見方が国内に広まってしまったのと類似している。但し、日米安保の地理的範囲(漠然としているが)を越えて自衛隊を派遣することについては、歯止めをかけておく必要がある。

集団的自衛権は、国連憲章第51条にも明記されている国家の権利なのだが、内閣法制局は日本国憲法9条第2項が「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と書いてあるのにひっかけて、「日本は権利を持つが、行使はできない」という解釈を長年奉じてきた。そのことで法制局を詰る向きもあるが(憲法9条の下でも個別自衛権は行使できるのに、国連憲章で認められている集団的自衛権をなぜ行使できないのか、というわけである)、自衛隊の前身である保安隊を朝鮮戦争に出動させるよう求めたダレス特使に対して吉田総理が、憲法9条を楯にこれを断った時から、論理的には当然の解釈であったと言える。因みに、政府がその解釈を変える時、それが憲法違反かどうか審査する最終権限を持つのは法制局ではなく、最高裁判所である。

ところでその吉田総理なのだが、「安保条約の成立」(豊下楢彦、岩波新書)を読むと、日本の独立回復に備えて第1次日米安保条約締結の交渉が始まった当初、米国は在日米軍基地の存続確保に焦点をしぼってきた。武装解除したばかりの日本に防衛能力があるとは認めず、米国が在日基地を使用する権利を得る代わりに、恩恵として(義務としてではなく)日本を防衛することも「できる」という立場を取ってきた。だから、1951年の第1次日米安保第1条は、「(米国の)軍隊は、・・・外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するために使用することができる」となっている。

日本政府は当初、これでは対等な安保条約にはならない、国連憲章51条がお墨付きを与えている集団的自衛権に基づき、日米が対等な立場から日本防衛に当たる条文にしたいと考えたが、米国にはねつけられた。当時は、何も武力を保有していなかったのだから、それも当然だった。そして日本政府の要求は、第1次安保の前文「日本国は、武装を解除されているので、・・・・・固有の自衛権を行使する有効な手段をもたない。・・・・・  (サン・フランシスコ)平和条約は、日本国が主権国として集団的安全保障取極を締結する権利を有することを承認し、さらに、国際連合憲章は、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有することを承認
している
」に痕跡を残すだけとなった。吉田総理も、おそらく朝鮮戦争に引きずり込まれる危険を察知したのだろう、第1次安保締結交渉では日本側の要求を引き下げ、「弱い日本」をことさらに演出した上で、それを逆手に憲法9条を盾に取り、ダレスの朝鮮戦争への参戦要求を拒絶したのである。つまり、自ら集団的自衛権を行使しないとし、その根拠を憲法第9条に求めたのである。それは、憲法の法的な解釈と言うよりは、朝鮮戦争への参戦を断るための政治的方便に近かったと言えよう

しかしそれ以来、日本は着実に国力を着け、自衛隊も力をつけた。1970年には岸総理は第1次日米安保の不平等性を改めるべく、安保改定を行う。新しい第5条「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」は、米国の日本防衛義務を第1次よりは明白なものとした

しかし野党勢力は、日米安保が初めて結ばれ、日本は対米従属を恒久化させるかのごときキャンペーンを張り、岸政権を退陣に追い込んだ。他方、米国では、「米国は日本を守る義務があるのに、日本は米国の防衛に何もしない」(基地を提供しているのだが)と言って不満を示す勢力が常に存在する状況になった。日本人は米国を忌避し、米国は日本に不満を示すという構図は、この頃から続いているのである

7月1日の閣議決定は、「内閣法制局の解釈を変える」と正面から明言して法制局の面子をつぶすようなことをしていない。そのようなことを避けながらなお、集団的自衛権を実質的に「解禁」しようとするものである。これは、在任僅か1年で病に倒れた小松法制局長の置き土産と言っていいだろう。前述のように、保安隊の朝鮮戦争参戦を断るための方便として憲法第9条を援用したのであれば、新しい国際政治状況の下では憲法第9条の解釈は変えてしかるべきだろう。1951年の第1次日米安保は前述の如く、その前文で「国連憲章は、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有することを承認している」旨謳っているのだから。

7月1日の閣議決定の肝は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使すること」は憲法上許容される、という箇所にある。実質的に集団的自衛権を解禁したのである。

しかし本当にそうなるかどうかは、来年通常国会に上程されるであろう関連法案が採択されるかどうかに拠っている。今の所は、日本の防衛体制には何の変化も起きていないのである。

何回も言うように、集団的自衛権とはあらゆる国連加盟国が持つ権利であり、これの解禁が日本国憲法に反するかどうか最終的に審査する権限は最高裁が持っている。内閣法制局は別に食言したわけではない(黙っているだけである)。それでも、この閣議決定が世論の反発・疑念を呼んでいるのは、「集団的自衛権解禁=世界中での米軍との共同行動=徴兵制導入」という連想が起きているからに他ならない。

しかし、「米軍は日本を守るが、日本は米国を守らない。それは仕方ないとしても、日本を守ろうとする米軍を自衛隊が守るかどうかさえもはっきりしない」という現状のままでは、日米同盟を維持しにくくなる。自衛隊が単独では尖閣を持ちこたえることさえ覚束ない現状では、米国との同盟は日本にとって本当に不可欠なので、そのためには集団的自衛権くらいは行使できるようにしておくべきだろう。

(7月1日閣議決定の三つの柱)

 7月1日の閣議決定には、三つの柱がある(と自分は思う)。一つは個別自衛権行使の際の「防衛出動」命令の手続き迅速化、一つは「集団的自衛権」、そして三つ目は多国籍軍(国連憲章第51条の定める「集団的自衛権」に基づく)への参加を恒常的に可能とすることである。

 防衛出動とは、自衛隊が自衛行動に実際に出るためには、総理大臣の「防衛出動」命令を要することを言う。尖閣に「中国漁民」が上陸し、海上保安庁がこれを強制排除しようとして中国官憲との争いになり、中国軍が出動した場合、自衛隊が直ちに応戦しないと中国に有利な事態が固まってしまう。従って今回の閣議決定では、手続きの迅速化をはかるべきことが謳われているのである。

「集団的自衛権」については、いろいろ整理して考える必要がある。まず、日米安保の範囲内で──その地理的範囲は一応「フィリピン以北並びに日本及びその周辺の地域であって、韓国及び中華民国の支配下にある地域もこれに含まれている。(「中華民国の支配下にある地域」は「台湾地域」と読替えている。)」(昭和35年2月26日政府統一見解」)ということになっている──、日本あるいは米国の防衛のための共同作戦を行うことがある。日本を防衛している米軍を自衛隊が護衛する場合は、「憲法に違反しない個別的自衛権の範囲内である」と中曽根総理が昭和58年2月5日の衆院予算委で述べているが、7月1日閣議決定ではこのような自衛隊の行動を
法制化すると同時に、日本周辺地域で米国を防衛するために自衛隊ができること(例えば米国向けミサイルを撃ち落とす等)も法制化し、明示的に合法化しようというのである。

「集団的自衛権」の一環としては、在外の日本人、あるいは日本の資産がテロ攻撃等を受けた時、当該外国の政府の承諾があれば、自衛隊を派遣できる、つまり自衛隊の海外単独行動ができることも、今回閣議決定には含まれている。その表現ぶりは、「多くの日本人が海外で活躍し、テロなどの緊急事態に巻き込まれる可能性がある中で、当該領域国の受入れ同意がある場合には、武器使用を伴う在外邦人の救出についても対応できるようにする必要がある」となっている。これは運用如何によっては、将来ベトナムやフィリピン、あるいは世界中への自衛隊単独派遣を可能にするもので、歯止めが必要である。

但し、軍隊を持っている国で、その使用範囲を細かく規定している国はあまり見たことがないのも確かだし、日本と同じ敗戦国のドイツでさえも、NATOの一員として軍をNATO域外に派遣することにはもう踏み切っているのだが。

7月1日閣議決定の三つ目の柱は、PKOで出動した自衛隊(1992年の「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(国際平和協力法)によって、自衛隊のPKO参加は可能になっている)の行動への縛りを緩めること(つまり武力の使用をもっと認め、「他の国の軍隊に守ってもらわなければならない日本自衛隊」という惨めな立場から少しでも脱する)、そして「多国籍軍」への参加も特別法を一々採択することなく、恒常的に可能なものとするということがある。「多国籍軍にはどうせ参加せざるを得ないのに、一々特別法を国会で通さなければならないのでは、そのたびに政局マターとなって大変だ。いつでも派遣できるように、しておきたい」というのが政府の魂胆だろう。今のオバマ政権は海外での軍事介入を嫌うので、今すぐ恒久法を作る必要はないかもしれないが、オバマの次の政権はどうなるかわからない。

この多国籍軍への参加が、日本の世論の懸念を最も掻き立てるものだろう。「アメリカの戦争に巻き込まれる」、「アメリカの戦争に加わるために徴兵制を敷かれる」というわけである。

(バランスをもって)

冷戦時代の日本外交をめぐっては、日本に対する脅威の実態とか、何をどう守るのかという、ごく当たり前の議論が欠如していた。
1960年、そして1970年の安保闘争の後、国会では、安保政策の根幹よりも、言葉の枝葉末節に関する議論で政府の揚げ足を取り、それで審議を止めては自民党との取り引き材料にするという、閉塞したやり方が数十年もまかり通った。そのあげく2009年、民主党が政権を取ると、長い間逼塞していた左翼・反米主義者達が若き頃の夢を実現する最後のチャンスとばかり、鳩山政権を対米関係再考の方向に引っ張り、対米関係を流動化させて、政権の基盤も崩してしまう。

そして安倍政権では、これも戦後の平和主義の中で長く逼塞していた保守派がチャンス到来とばかりに声を上げ、自衛隊の海外派兵のフリーハンドを獲得しようとしている。この保守の声は、かつて左翼・反米主義者達が自分達の政権を引きずりおろしてしまったのと同じように、安倍政権の足を引っ張りかねない。極端な立場は右であれ、左であれ、政権を孤立させる。集団的自衛権の話しは、バランスの取れたものでなければならない。

そして安倍政権から距離が遠く、特ダネが取れない一部マスコミも、「集団的自衛権=徴兵制」という極端な見方を広めて、政権を引きずりおろそうとしている。これもひどい話だ。あれだけ戦争をやった米国でも、ベトナム戦争の後では徴兵制は廃止されているのである。そして現代の装備は高度技術化が進んでいて、徴兵制を必要とするような「歩兵」的存在は少数化しつつある。尖閣で戦闘があったとしても、地上兵力として派遣できるのはせいぜい1000名内外で、それも「徴兵」してきたような新兵ではとても使い物にならない。「集団的自衛権、即徴兵制」とはならないのである。

むしろ、集団的自衛権の問題で政府の手を縛れば、日米同盟は米国にとって片務的性格が強いものに止まり、日本を守る義務の遂行にも気が乗らないことになる。その場合、日本は自主防衛力を強化しなければならなくなる。自主防衛、つまり日米同盟を破棄すると、日本はロシア、中国だけでなく、米国に対しても防衛体制を整えざるを得なくなる。それは自衛隊を大軍にすることを意味、つまりこの方がよほど憲法違反、そして徴兵制につながり得るのである

日本のマスコミは戦前、朝日新聞に至るまで戦争支持になっていた。今回も、戦争に反対して、結局戦争をおびき寄せてしまう愚を冒すことになるかもしれない。


(以上は「まぐまぐ」社から発行しているメルマガ「文明の万華鏡」第27号からの抜粋です。全文をご覧になりたい方、メルマガを購読予約されたい方は、次をご参照ください。

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