ロシアのふらつく対日姿勢
ロシアが日本に硬軟両様の出方を見せている。
「北方領土など、もう諦めて、ロシアとの関係を良くし、対中カードとして使おう」という、日本側の(一部の)期待に水をかけるものだ。
メドベジェフ時代のロシアは、「日本はアジアで孤立している。韓国とは竹島、中国とは尖閣、ASEANとは戦争の記憶の問題を抱えている」という悪口をたたいていたものだが、昨年9月尖閣をめぐる情勢が先鋭化した時には口をつぐんでいた。明らかに意図的で、中国側は随分あわてた。
そして10月にはプーチンの右腕パトルシェフ国家安全保障会議書記があたかも中国を包囲するかのように日本、韓国、ベトナムをまわって、「安全保障面での協力」をぶち上げたから、中国の外交官は泡を食って情報収集に走り回った。
そして中国は逆転攻勢に出る。11月にはショイグ国防相が年次協議で訪中、久方ぶりに対中武器輸出商談(第4世代プラスの戦闘機スホイ35Sを24機)があったかのような報道が流れる。そして12月6日には定期協議で訪ロした温家宝首相が共同プレス発表で、「第2次世界大戦で得た成果と、その後の秩序を共に守ることで合意」している。これは、北方領土と尖閣、双方について中ロが互いの立場を支持し合うという意味である(尖閣は戦後、米国施政権下に置かれた後、日本に返還されているので、それが戦後の秩序だ。それを守ろうという、中国の言い分もよくわからないのだが)。そしてこの時、温家宝首相は、中国でロシアが原発をさらに2基建設すること、大型航空機を共同開発することも合意している。中国は経済的利益でロシアを釣ろうとしているのである。
そして1月9日、中ロ戦略的安全保障協議第8回会議で訪中したパトルシェフ書記は、「米国のMDに対応して、中ロはMDにおける協力を強化する計画」と発言、8日にパトルシェフと会談した習近平は、「ロシアとの戦略的協力パートナー関係を揺らぐことなく発展させる」と発言した。
もっともパトルシェフは訪中した際、尖閣、中韓間の海域係争問題について聞かれたようで、「領土問題については、ロシアは日本、韓国の立場も考慮する」と述べたようだ(1月25日付Jamestown)。これには、中国はぎゃふんときただろう。
そして2月7日午後、ロシアの戦闘機2機が北海道の西岸、利尻島周辺領空を侵犯して(CNNは「日露間で係争になっている地域」と報道したが、でたらめだ)、自衛隊機のスクランブルを受けた。領空侵犯は約5年ぶりだそうだ。そして9日にはロシアのIL38哨戒機2機が佐渡島の北まで日本海上空を南下しながら飛行(領空侵犯なし)、同じく自衛隊機のスクランブルを受けている。
尖閣で黙っていたことで、日本国内での評判を少し上げたのに、これじゃ台無しだ。
いずれにしても、「北方領土はもう諦めるとロシアに言って、関係を劇的に改善してもらい、ロシアを対中カードにしよう」という安易な考え方――外務省のOBでもこういうことを言う人がいる――は成り立たないということだ。
僕は、ロシアとの関係を経済でも安全保障でも推進することに全く賛成だし、いつもそう書いている。そしてそれは、ロシアが極東、シベリアで中国に圧倒されてしまわないためにも必要だ。だがそうするために、北方領土問題の解決をあせる必要は全くない。
スピッツみたいにキャンキャン騒ぎ立てるのは品を落とすが、政府の間、首脳の間では返還をいつも要求し続ける。だからと言って、経済・安保面での協力を断るようなことを、ロシアは絶対しない。それはロシアの方がむしろ必要としていることだからだ。
そして日本がロシアと協力関係を発展させたとしても、ロシアは中国と日本の間で二股をかけることを止めない。中国とは何千キロもの国境を有し、極東の守り、経済力が薄いロシアとしては、いざという時助けてもくれないだろう日本のために「対中カード」になってやろうなどという気は全然持っていない。日本にとってもロシアにとっても、相手は中国に対する限定的な「対中カード」にしかならないし、双方ともそれで十分と思ってプレーしている。
だから、ロシアに「日本は北方領土をあきらめた。だから仲良くしよう」というプレゼントをひっさげて行く必要はない。天然ガスも、ロシアは中国より日本に買ってもらいたい。3月習近平国家主席が訪ロして、天然ガス輸入で合意に達したかの報道があったが、価格で折り合いがついていないので、商談はまだ成立していないのである。
日本はロシアと協働する用意がある。ロシアも日本とプレーする用意がある。それでも、本格的に動き出すとしたら、夏の参院選後だろう。それまでロシアも日本の領空を侵犯したりせず、じっくり経済、安保関係を進めていけばいいではないか。
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