安倍さん、やりすぎでは?
せっかく元総理経験者、という安定感をもって再登場した安倍さんなので、長期の政権になってほしいと思う。自民党が骨粗鬆症にかかりでもしたように、勢いのある人材が見えないのが気になるとしても(それは民主党も同じだった)。
で、当面安倍さんの独壇場といった趣なのだが、夏の参院選まで安全運転のはずが、マスコミや支持者に煽られたのか、いくつかやり過ぎではないかと思う。
「日銀が犯人」ではないでしょう
ひとつは金融政策。「金融を緩めれば景気は良くなる、そうならないのは日銀が金融緩和に抵抗しているからだ」という思い込みが強すぎる。民主党の議員たちも同じことを言っていたが、これは日ごろ地元の銀行が融資してくれないという支持者の不満を、そのまま繰り返しているだけの感がある。
地元の銀行が渋いのは、日銀のせいだけではないだろう。もともと今の日本には収益性の高い融資案件が少ないこと、銀行側に有望案件を発掘する能力と勇気がないこと、の方が問題だ。ここにいくら上からお札をざぶざぶ浴びせても、融資としては出ていくまい。自民党がこれを無理に融資とさせても、それは不良債権となったり、地元代議士への「謝礼」となってしまう可能性が高い。
アメリカの場合、銀行の融資を債券に変え、リスクを分散してしまう手段が発達しているので、金融を緩めれば景気は活発化しやすい。日本では、それがない。アメリカで有効性が証明されている政策を取らないことで日銀を非難している浜田教授等は、その点をどうお考えなのだろうか?
もし建言が思った効果を生まず、1980年代後半のようなバブル景気、資産インフレを呼ぶだけで終わった場合、政治家に間違ったアドバイスをした学者の責任というのは、いったいどうなるのか?
日米の政策の方向に齟齬?
もう一つの心配は、安倍総理が軸足を置こうとしている対米関係で、政策の方向に齟齬が見えてきたのではないかということ。
今回の金融緩和は円切り下げ効果も持っている。これが対米貿易にどのくらい影響するかはわからないのだが、アメリカの輸出を増やすことで景気浮揚をするのだと言ってきたオバマ大統領にしてみれば、好ましい動きではない。
安倍総理の脳裏には、小泉政権の時代、「平成の大介入」と呼ばれた介入で円を40兆円強も売ってドルを買いこんだ記憶が残っているのかもしれない。この介入の結果、2008年のリーマン・ショックまでは円の実効為替レートはプラザ合意以前の有利なものに戻り、輸出に牽引された日本経済は復調を強めていたのだ。
だがこの「平成の大介入」、他国が通貨レートを操作するのを嫌う米国がどうして黙認していたかというと、それは円を叩き売って手に入れた大枚のドルで、日本政府が米国政府の国債をしこたま買っていたからだろう。折しも当時はイラク戦争たけなわで、日本政府はイラク戦争の戦費を融通してアメリカに恩は売れるわ、円は切り下げられるわで、一石二鳥の政策だったはずだ。
今はイラク戦争はない。円切り下げは、米国政府にとってネガティブなだけだ。
米国は日本が起こす紛争には巻き込まれたくない
もう一つ。それは日本の対中、対韓政策だ。安倍さんをこれまで支えてきた保守寄りの人たち、マスコミは、わが世の春とばかり総理に対中、対韓強硬政策を吹き込んでいるのだろうが、これがひいきの引き倒しで、対米関係をおかしなものとし、安倍政権の足を引っ張ることになりかねない。
戦後日本は、「日米安保のために、アメリカの戦争に引き込まれること」をいつも心配してきた。時代は変わり、今やアメリカが、「日米安保のために、日本が起こす紛争に引き込まれること」を心配するようになっている。安倍政権がアメリカの支持を頼りにして対中、対韓関係で強硬姿勢を取ると、それはアメリカをかえってうんざりとさせる可能性があるということである。
最近、もろもろのシンポジウム、セミナーの類では、アメリカ側参加者の中国に対する宥和的姿勢が目立つと言う。国防費削減の動きがあること、国務長官、国防長官が交替すること、中国で習近平政権が本格化することなどを総合すると、オバマ二期目では米中関係が再び和解・提携の方向に動く可能性もある。安倍さんにいろいろのことを焚き付けている人たちは、そこらへんの潮目の変化をちゃんと見てくれているのだろうか?
折角、安定政権の芽がある安倍さんなのだから、みなさんひいきの引き倒しはやめて、もっと大事に使っていったらどんなものだろう?
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