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インド

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2015年6月10日

インドへの過剰な期待 モディ政権1周年

(これは5月26日発売の"Newsweek"誌に掲載されたものです)

 インドのモディ政権が経済成長への期待を担って発足してから、一年になる。グジャラト州首相の時代、規制緩和、外資導入で目覚ましい成果を挙げたナレンドラ・モディ首相、そして彼を金融面から支える準備銀行(中央銀行)総裁ラグラム・ラジャンのチームはしかし、目立った成果はまだ上げていない。

 世界がモディ政権にかけた期待は二つある。一つは停滞色を強める中国に代わって、世界経済の機関車、直接投資の受け皿になってくれないかというもの。もう一つは中国に対する抑えとしての役割である。しかしインドの経済は伸びたと言っても、とても中国にとって代われるものではないし、中国主導のAIIB(アジア・インフラ投資銀行)に加入を表明したり、14日にはモディ首相が中国を訪問して経済面での協力深化に合意したりで、とても中国に対する抑えとなるどころではない。

保護主義の残滓と「権利の過剰」が成長を阻害する
 インドと言うと、人は「カーストがあるから発展しない」と言う。しかしカーストは後れた経済においては、特定の階層に職を保証するギルドのようなもの、経済が進んでくると後退する。例えばIT企業等、新しい業種においては、カーストはもはや意識されていない。肝心のモディ首相自身、出自は低位のカーストである。

 インドの経済成長を阻害しているものの一つは、独立以降インドが採用していたソ連型の社会主義経済の残滓である。外国製品・資本を締めだしていたため、後れた国内企業が既得権益を築き、規制緩和、自由化に抵抗している。発電の50%以上を支える石炭産業は国営で、低価格に抑えられている発電用石炭の供給増に応じない一方、民営化と外資導入には抵抗している。大型のショッピング・センターはまだ少ないし、外国製自動車の輸入・現地生産自由化も、1980年頃から時間をかけて進めている。

もう一つは英国植民地主義時代の遺産なのだろうが、「権利」が横溢していることである。28の州の多くは地元の言語も公用語としており、経済法制・規則も州間の差異が大きい。そして現在の連邦議会において、モディ首相のインド人民党は上院での過半数を持っておらず、既得権益を破る法案を通しあぐんでいる。 

そしてインドの法律は所有権を厚く保護する。アパートの居住者は借家権をたてに低家賃のまま居座るので、大家は建物への追加投資を嫌う。ハイウェーや工場を建てようとしても、地元の農民が土地をなかなか売却しない。従って、インフラ建設で成長率の半分以上を稼いでいる中国のような行き方はインドにはできない。

このように経済が今一歩だから、モディ首相は就任後一年経った今になっても、投資を求めて世界を行脚し、中国にもその面で大きな期待をかけているのである。

インドには過剰の期待を持たず、じっくりとつきあう
インドは中国と山岳地帯で国境問題を抱えるが、最大の脅威と見られているのはパキスタンである。消費財や建設業においては、中国はインドに深く浸透している。スリランカ等インド洋方面への中国の影響力浸透がインドにとって危険だと言われるが、インド洋の制海権は米印豪がしっかり抑えている。インドは安全保障面で自立性が高い国なので、米、中、ロシアなどのどれにも過度に傾かず、経済的利益を最大限絞り出す外交を続けるだろう。インドが中国に対するカウンター・バランスとなる構えを米、日、ASEAN、豪州等に見せて来るのは、中国との同等性を確保するためである。

日本では、中国に代わる投資先、あるいは中国の台頭を抑えるための存在としてインドに期待する向きがある。近年インドは、かつての中国に代わって、日本の円借款の最大の受取国(毎年四千億円近く)になっている。

しかし、インドをあまり安易に考えない方がいい。インドへの直接投資は、現地当局・住民との複雑な交渉を必要とするし、インドは中国と張りあう一方で深い提携関係にもある。過剰な期待を持たず、双方の利益になる方向でじっくりとつき合っていくべき相手だろう。

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