世界は変わる その本質 講演記録
(以下は3月に都内のある団体で講演を行った時の記録です。スライドの写真は手間が大変なので、それほどアップしていません)
日本というのはものすごく特殊な国で、われわれは日本にいる目で世界のことを見るんだけども、世界では、日本の常識は彼らの非常識であるとも言えます。もちろんそのあたりのことは、外国の経験がおありの方には釈迦に念仏になると思いますけれども。
日本にいると、物事は法律どおり、規則どおりに動いて、サービスはよくて、それで、一応安全で、JRは時々止まるけれども、そういった便利で保障された社会になりすぎてるんですよね。しかも、物事の序列が変わりません。東大出はいいとか、慶大だ、それから早大だ、ハーバードだって言って、序列が変わらないと思い込んじゃっているんです。ところが、外国に出ますと、東大とか慶大なんて関係ないし、やっぱり自分の個人の力でやっていかなきゃいけない面が多い。
それから、日本人の場合には特にそうなんだけれども、新幹線という技術が素晴らしければ、どこの国も買って当然だと思っておられるかもしれないんだけれども、外国人は、物で買うよりは人との関係で買いますから。まあ、日本の国内もそうなんだけれども、人と人の間の信用関係と、それから利害関係で売買がされるんで、それが、何か、われわれは外国に行くと、物を前面に立てて後ろに隠れていようとしがちだから、そういうことでは駄目だっていうことですね。
で、日本人は、特に戦争に負けてからそうなんですけれども、世界のルールは外から与えられるもんだっていうふうに馴らされちゃったから、なかなか、こう、何ていうのかな、気概がないっていうのか、要するに、言葉は悪いけれども、去勢された民族になっちゃって、ルールと、それから世界の枠組みは外から与えられるってことに、もう、それを当然視してるんだと思います。
そういうことではいけないのです。特にこれからの世界では、自分で考えてやんなきゃいけないことがほとんどになるので、ほんとに自分たちも変わらなければいけないと思います。ですから、今日はまず、そのあたりの頭の柔軟体操から始めたいということで、次のスライドをお願いします。
ものの見方は柔軟に
これはどこだかお分かりですか? 3年前ですけど。
(会場より)「中国」。
河東 ああ。中国ですよね。で、中国の北京の都心部ですね。日本で行けば、青山通りの裏に入ったらば、こういう光景が広がっていたっていう感じ。日本の青山通りだって裏に入れば、この北京ほどではないにしても、20年前はそうだったのではないかと思わせるところもあるんでね。これは2009年の3月の北京の胡同ですね。で、今はちょっと変わったかもしれないけども、これとほとんど同じかもしれない。で、表通りは、今の日本の青山通りとほとんど同じぐらいの、表面上はすごい近代化ぶりですからね、中国の都心部は、それのすぐ裏にこういう光景が広がってるってことです。
で、こういうところへ行くと僕なんかは本当に懐かしく感じちゃって、小さい頃の豆腐屋のラッパとか、それから納豆売りの声が聞こえてくるようなね。で、貧乏に見えるんだけれども、ほんとはみんなそんなに貧乏じゃありませんから。あの粗末なうちの中に入っていけば、テレビとか電気掃除機とか電気冷蔵庫とか、全部そろってると思うんですよ。入ったことないけど。まあ、そういうところです。次のスライドをお願いします。
で、これも同じく、中国の天津で、その1年後の2010年の9月の天津ですね。で、これは、天津の都心からかなり離れた、海岸に近いところにある開発区です。工業地区ですね。これがまたすさまじくて、一直線の鉄道が造られていて、それに乗ってる時間が大体新宿から立川ぐらいまでの時間に相当します。で、その沿線が、両側が、こういう情景がずっと広がってんですからね、新宿から立川まで。更地にどんどん新しい工場が建ちつつあるという。多分、今ごろは随分建ったと思いますけれども。その中で、トヨタとか、そういった工場がどんどんできてるわけです。次のスライドをお願いします。
ですから、その中国の発展というのは、ほんとに、何ていうのかな、活力があって、古いもの新しいものごた混ぜで、突進してる、驀進してるわけなんですけれども、その中では、当然生活水準が上がってきますから、中産階級と呼ばれる人たちも出てきてるわけです。中国の中産階級が何人いるかについては、いろんなことを言う人がいるから、そんなことは分かりませんけれども、都市に住んでる人数が、何人だったかな、6億人かな、6億人が都市人口ですから、そのうちの半分が中産階級だとすれば、3億人が中産階級だということですね。
で、その人たちが、これは、北京の故宮のすぐ裏にある「北海」というところの、週日の情景です。ウイークデーにもかかわらず、家族連れでこんなに楽しんでる。ここは昔、モンゴルのフビライが造った湖なんだけれども、当時はモンゴル人が南のほうから物資を船で持ってくる港でもあったんですよね。まあ、それはどうでもいいですけど。次のスライドをお願いします。
で、中国の近代の最先端を突っ走る、新幹線なんですけれども、彼らは、さすがにもう「新幹線」という言葉使うのやめて、「高速鉄道」という言葉を使い始めてますけれども、これは、長春から乗ったときの新幹線ですね。ただ、長春と北京の間の新幹線というのは在来のレール、つまり昔の満州鉄道を使いますから、スピードはせいぜいヨーロッパのインターシティ列車並みなんですけれども、特に温州での事故後またスピードが落とされているのですが、とにかく乗り心地はいいし、揺れないんですよね、静かだしね。
ところがね、いろんなちぐはぐなところがあるわけです。ここでは、僕を見送ってくれた中国の大学の先生たちが、僕の荷物を網棚に載っけてんですけれども、あれは大きなスーツケースで20キログラムあるんですよ。で、それを、日本の新幹線はたしかスーツケースを置く場所があったと思いますけれども、中国の新幹線はそれがないんですよ。で、網棚に置くしかない。背骨が折れるんじゃないかと思われる重さなんですけども。そういうちぐはぐなところがあります。次のスライドをお願いします。
もう一つちぐはぐな例ですが、長春駅のプラットホーム、新幹線用のプラットホームというのはまだ未完成なんですね。ですから、コンクリートがザラザラしていて、表面が滑らかでない。で、そこをみんな車付きのスーツケースを引っ張ってくもんだから、車のねじとか、そういうものが落ちるんですよ。ですから、随分ホームに、ねじとか、そういうものが転がってる。大連のホームは立派なんですけれども、そういったところね。
それから、切符ね。切符を売るところがまた前近代的で、コンピューター化されてないわけですよ。で、自動化されてないし、新幹線の切符を売る窓口は一つだけ。そこに行列ができるわけですね。それに、長春の駅でハルピンから大連までの切符を買いたいと思っても、長春の駅ではそれは買えなかった。「それはハルピンに行って買ってください」って言われました。そこで大学の人に聞くと、「ハルピンに行くと切符売り場では行列があるので、観光の時間がなくなります」と言われました。しかもハルピンでは、新幹線の切符というのは3日ぐらい前から売り切れるとか言いますので、事前予約はできないのかと聞くと、「切符売り場でしか買えません」って言うんですよね。だから、日本では当然考えられないことが行われてるわけです。
それから、改札。改札もまた中国の新幹線のネックであって、駅に行きますと、駅に入ること自体、規制されてんですけれども、切符がないと、駅の建物、改札口の外にさえ入れないんですね。で、駅の構内に入っても、自分の新幹線が発車する20分ぐらい前にならないと改札が開かないんですよね。ですから、改札の前にみんな行列をして待ってるっていう、そういう感じです。
そこで終わりかっていうと、今度は、新幹線を降りるときね、例えば大連で。これで、やれやれと思って町に出ていこうとすると、当然改札があるわけで、そこの改札の出口が一つしかないんですよ。そこでまた阿鼻叫喚の騒ぎがあってね、はるか向こうで出迎えの人たちがこう待ってるわけ。
ですから、中国というのは、各省庁の間の連絡が悪いっていうか、もうほんとに、違う省っていうのは敵なんですよね、彼らは。例えば外国では、外務省に属している大使館と、それから文化省に属している文化センターかな、彼らの間ではほとんど連絡がないみたいだし、新幹線でもやっぱり、そういういろんな部門でちぐはぐなところがあります。
それを貫いてるのは何かっていったらば、それは役人の論理。だから、新幹線なるものをちゃんと運営して、皆さんのお役に立つとか、そんな発想は、役人にはゼロですね、鉄道部の役人には。彼らの目指してるものってのは、新幹線という、日本が造った、それからヨーロッパが造った、世界の最先端の技術を自分が造ったことにして、とにかくそれプラス50キロを足して、世界で一番速い列車を走らせることが彼らの至上命令であるわけです。文字通り、それは上部による命令となってね、で、その命令を達成できないと、彼らは昇進できない。その結果は、事故が起ころうが何であろうが、事故の責任は他のやつにぶつければいいんで、それはこの前起こったわけですよね。
ですから、彼らは、ビジネスの論理で動いているのではなくて、役人の論理で動いています。ですから、いろんなことがちぐはぐになるわけです。すべての用意ができないうちに、ホームがちゃんと整わないうちに、もう開業してしまうわけですよね。
それから、いろんなところに、日本の新幹線を輸出するっていう話がありますけれども、僕はロシアに長いんだけれども、日本の新幹線を、例えばニジニ・ノヴゴロドとモスクワの間に走らせるという話が長い間転がってますけれども、それは大変素晴らしい話なんだけれども、ほんとにできるのかなと思うわけですよ。直ちに思うのは、それは、ロシア側に保線の能力があるのかなっていうことです。
日本のJRが、新幹線を外国に出すっていう場合、やっぱりよそから見てると真面目すぎるように見えちゃうわけですよ。日本の新幹線というのは事故がないことが素晴らしいわけでしょ? 速くて、事故がない。それをそのまま外国に出したいと思うんだけれども、外国の役人にとっては、事故があろうが、なかろうが、かまわないわけですよ。事故があったらば、他のやつの責任にすればいいんで、または日本のJRの責任にすればいいわけですよ。とにかく欲しいものはスピードなんでね。そこで、JRが技術を総体として輸出できないと駄目だとか言ってるうちに、他のところにさらわれちゃうし、それから、中国に技術を盗まれてしまうんだと思います。もうちょっと日本人は人が悪くなってですよ、平然として責任を他の人になすりつけることができるようにならないと駄目だと思います。もちろん、表面上は誠実そうな顔をしてればいいと思うんですけれども。
ですから、総体としての輸出にこだわるよりも、むしろ早くすべての技術にパテントを確立して、そのパテントを切り売りしたほうがよっぽどもうかるし、楽だろうと、僕は思います。素人の考えですけれども。次のスライドをお願いします。
で、これは中国の東北地方の、瀋陽の大ショッピングセンターなんですよ。で、この吹き抜けたるや、すさまじい広さでね、そこに大スクリーンが掛かっていて、そのスクリーンの下でファッションショーが行われてる情景です。このファッションショー、これ生ですけれども、ものすごい、もうほんとにモダンでね、日本でもめったに見られないような情景です。満員ですよ。ウイークデーの午後ね。で、瀋陽の人口600万人超えてるでしょ。、中国の東北地方だけで、人口600万人超えてる都市っていうのは五つぐらいあるわけですから、中国全土には無数の大都市があるという感じです。
僕は今回、旅順にも行ったんですけれども、旅順の人口が20万人ですね。さっきの中国の都市人口は6億6,000万人だそうです、ちょっと修正すると。で、旅順は20万人。で、20万人っていいますと、僕が今、東京で住んでいる西東京市の人口が20万人なんですね。、西東京市のスカイラインをちょっと旅順市と比べると、西東京市というのは非常に田舎に見えるんです。西東京市の高層ビルってのは、私の家のあたりではひばりタワーっていうマンション一つだけですね。ところが、旅順には、そういうタワーはたくさん建ってるわけです。
それから、同じくね、人口20万人ぐらいの地方都市、アメリカでとりますと、これは、僕の知ってるアメリカの地方都市は、もう僕が留学して以来、だから、もう50年ぐらいスカイラインが変わらないっていうような都市がいっぱいですからね。だから、建物やインフラを建設してそれでGDPを増やすっていう手はね、アメリカはもう今あまりやってないんですよね。
中国の経済成長率のほとんどは、建設によって達成されています。今から10年ぐらい前には、中国の成長率の半分は貿易黒字の伸びでしたけれども、今はもう成長率のほとんどが建設になってるわけです。それは、マンション、それからオフィスの高層ビル、それからハイウェイ、新幹線の建設。ハイウェイが年間で数千キロメートルずつ伸びてくわけですから、これはもう大変なことで。で、そのうちに建てるところがなくなるだろうと思われるかもしれないけれども、建てるそばから壊れてきますから、これをやってる限り、中国経済の成長は止まらないわけです。だから、それは、GDPっていう概念自体がおかしいってことなんですけれども。
というわけで、旅順みたいな20万人の都市、そこに大変な建築ブームがあるわけで、20万人の都市なんていうのは、中国にもう無数にあるわけですよね、数えられないほど。そこが、半分ぐらいが建築ブームだろうと思う。
それから、中国人の物を食べる量って半端じゃないですから。どこでも山盛りに食物が売ってるし、食べ物は売ってるし、それから、食堂に行ったって、山盛りで出てきますよね、1人前がね。で、安いんですけれども。インフレが激しいって言いながら、食べ物はまだ安いんです。ところが、あれに西側並みの価格を付けてみると、それは購買力平価ですけれども、そのときの中国のGDPたるや、すさまじいものになると思いますよ。多分、今の時点でもアメリカの経済をもう抜かしてるかもしれない。購買力平価で中国のGDPを計ると、まだアメリカのGDP抜いてないってことになってますけれども、実感からいくと、もう抜いてるかもしれないですよ。
おととい世界銀行が報告書を発表して、2030年には、中国のGDPが、購買力平価だけではなくて、普通のドルベースで計っても、アメリカのGDPを上回るだろうという報告書を発表してますけれども、中国GDPが世界のナンバーワンになるってことは、もうリアルな話です。ですから、もう日本人はね、中国は反日だとか、中国はここが駄目だとか、中国は怖いとか言って、いろいろおたおたしてると、中国人にはもう笑われるだけの段階になってますね。もうちょっと日本人は泰然としてないと駄目だと思って、帰ってきました。
で、泰然としてればいいっていうのは、いくら中国がGDPで世界1位になったところでですよ、世界における力っていうのはアメリカにはかなわないわけです。どこがかなわないかっていうと、通貨と金融、これ、アメリカに握られたままであると思いますよ。で、元はだんだん国際的に使われてくると思うし、日本もそれに加担していますけれども、ドルにはかなわないだろうと思いますね。大体、まだ元が交換可能になってませんからね。
それから、マスコミ。マスコミの力では、中国は、アメリカとイギリスの英語のメディアにまだ全然かないません。中国がいくらじたばたしたって、漢字が読める人っていうのは世界で限られてますし、彼らがいくら英語で発信してもね、たくさん発信してますけれども、みんな読まないですよ、つまらないから。だって、中国政府の見解なんか読んだって、つまらないんだから。だから、世界世論の形成力はないわけです。
それから、軍事力からいきますと、それは、中国の海軍が怖いとか言い始めていますけれども、実際にはまだ怖くないんで、とてもアメリカの軍事力には、これから20年以上はかなわないでしょうね。ということです。次のスライドをお願いします。
ということで、現在の世界では、これまででは考えられなかったことがいろいろ起こってるってことなんですけれども、さらに続けて、物事を見るに当たっては柔軟でなければならないという一つの例で、地図を見る角度によっていろんなことが見えてくるっていうお話です。これは当たり前の日本地図なんですけれども、太平洋側が表ってことになってますよね。もう使っちゃいけない言葉になってるけど。それから、日本海側が裏だってことになってるでしょ? で、日本海地方のかたがたが何となく裏だっていう意識を持たされちゃっていて意気が上がらないんですけれども、次のスライドをお願いします。
これは、そういうことだから、富山県の県庁が作った地図なんですよね。県庁に貼ってありますけれども。売ってますけど。これは普通の地図を逆さまにしたわけです。で、ここが富山で、日本海が地中海ならば富山はローマに相当する位置にあります。歴史からいきますと、それもあながち外れた話ではありません。なぜなら、日本にとって外国と言うのは中国と朝鮮半島しかなかったんですからね、長い間にわたって。日本史ってのは、中国の陰の中でずーっと、西暦0年ぐらいからずっと一貫して推移してきたんで、そうでなくなったのは戦後だけですよ。戦後、われわれは中国を忘れちゃったけれども、昔は日本海側が表だったわけです、富山県がおっしゃるように。但し地中海になぞらえると、日本はむしろアフリカでね、日本が原材料を、こっちの進んだローマーーつまり大陸に供給していたわけですよ、銅とか、金とか、銀をね。日本海が交通の盛んなところでありました。次のをお願いします。
ユーラシアは一つつながり
で、同じ伝でいきますと、次は話を大きくして、ユーラシア大陸全体のお話なんですね。今日も、アメリカ人のロシア専門家と話してきたばかりなんだけれども、彼は相変わらず、ユーラシアを別々に分割して考えてんですね。インドとか、中国とか、ヨーロッパとか、そういうふうに分けて考えてるわけ。
ところが、例えばインドですよ。インドってのは、昔、ペルシャ系の白人が、アーリア人が入っていって、それで支配層となった国です。ですから、今でもインドにはアーリア人が随分いるんだけれども、あれはペルシャ人ですよね、元はね。ですから、インドの北部にはスタンっていう名前が付くところがいっぱいあるんで、スタンっていう名詞はペルシャ語ですから。地方とか、そういう意味で。ウズベキスタンとか、パキスタンとか。それから、インドにあるのはヒンドゥスタンですよね。ヒンズーのスタンなんですよね。ペルシャ文明圏です。
ところが、インドにはどんどん北のほうから遊牧民族が入っていって、先住民族は南のほうに押し出していったわけですね。日本人に言葉がよく似ているタミール人とかね、そういった連中をどんどん南に押し出していった。で、その中のある遊牧民族が、インドのムガール王朝を作ったのです。千五百何年かな、ムガール王朝っていうのはどの民族が作った王朝だかご存じですか? いや、僕も知らなかったんですよね。
で、ウズベキスタンに行ったときに初めて知ったんだけど、インドのムガール王朝を作ったのは、ウズベキスタンから下ってきたウズベク人の王子であります。ウズベク人というよりも、モンゴル系のプリンスであったわけです。彼はウズベキスタンの地で自分の支配できる土地を得ることができず、結局しょうがなくてアフガニスタンを通り、インドに下っていって、ムガール王朝を作ったわけです。ムガールというのは、モンゴル王朝っていう意味です。
だから、インドの文明っていうのは決して他から切り離されているわけではないんで、オリエントの文明の一部なんですよね。それはいろんな文物から分かるんで、これはたしかウズベキスタンの楽器屋かな。こういう楽器を今でも使って、演奏をやってんですよ。こういう楽器でそろえたオーケストラもあるぐらいでね。僕はそれで君が代を弾いてもらいましたけど。で、これはですね、ユーラシア大陸全部に広がってんですよ、この手の楽器は。例えば、中国の琵琶でしょ。日本の琵琶でしょ。それからヨーロッパのリュートでしょ。ご存じのとおり、世界の楽器の起源のかなりの部分が、中央アジア、それからイラン、ペルシャのほうにあると思われるわけです。バイオリンもそうですよね。
それから、これは、日本の飛鳥にある、昔の石像なんですよね。で、噴水に使われていた石像なんですけれども、これは中国のスタイルじゃないですよね。見て、明らかに。ものすごくペルシャ的でしょ。多分、ペルシャなんだろうと思います。ですから、聖徳太子はペルシャ人であったっていう仮説があるぐらいで。斉明天皇のあたりには、日本にペルシャ文明の強い影響力があったんですね。中国を通じてなのか、それとも直接やって来たのかは分からない。で、次のスライドをお願いします。
ですから、このユーラシアっていうのは一つにつながってんですね。中国も、5,000年にわたって漢民族が営々として築いてきた独自の文明だっていうふうに、漢民族は言いますけれども、漢民族ってのはものすごく相対的な概念であって、要するに、日本人と同じで混血の産物ですから、漢を作った時代の漢民族と現在の漢民族とは、ものすごく違ってるんですよね。
例えば中国のお話を続ければ、中国を初めて統一したことになってる秦の始皇帝ね、あれは漢民族じゃないんですよね。記録にも残ってますけれども、その秦の始皇帝の家系は、中国の西のほうの夷狄ね、蛮族、それの出身の家系であって、周辺からはさげすまれていたっていう記録も残ってんですよ。
それから、そのあとにやって来た隋の王朝、唐の王朝、あれは、われわれは中国人、それから漢民族の王朝だと思ってるけれども、実際には、中国の国境地方を守っていた将軍たちが、国境地方の遊牧民族と混血してね、それで、血の半分は遊牧民族の人たちが作ったのが隋の王朝であり、唐の王朝であるわけです。
ですから、中国の長い歴史ね、まあ、1年たつと、彼らは何か1,000年ぐらい歴史を長くする悪い癖を持ってるんですけど、だから、今5,000年ぐらいになってるのかな、そのうちに1万年になると思いますけど。だから、いわゆる純粋の漢族が作った王朝ってのは、一つは漢ですよね。それから次が宋ね。その次が明ね。その次がもう現代ですよね。四つですよ。その他は大体、異民族の血が入ってる。だから、この中国ってのは、近代的な国家の概念でわれわれは考えるんだけれども、実際には昔のヨーロッパと同じく、一つの開かれた統一市場みたいなもんですよ。で、そこの市場を差配する者が皇帝と呼ばれて、その市場から上がりを取ってね、偉そうな顔をしていたっていう、そういう感じに、僕には見えます。
中国の歴史ってのは、元、それから、ものすごく長かった王朝の清、これは完全に異民族の王朝ですからね。だから、日本が300年ぐらいにわたって異民族に支配されたと思ってごらんになれば分かるんだけれども、やっぱり中国人の心理をものすごく変えたと思います。
インドについては、先ほど申し上げたように、これも本当に一つの地域であって、いろんな民族が入ってきたところですね。
それから、ヨーロッパのほうなんですけれども、ヨーロッパこそ独自だというふうにわれわれは教わってきたんだけれども、そんなことは全然ないんで、ヨーロッパも、このオリエントの文明の一つの派生物みたいなところがあります。
数年前に出版されて評判になった『黒いアテネ』っていう本がありますけれども、翻訳物ですけれども、これは、ギリシャの、古代のアテネの文明っていうのは、エジプトであるとか、今のシリアであるとか、つまり「オリエント」のほうからやって来たものが混合して、アテネの文明を築いていると。例えば神話です。女神のアテネは大体どこの神であったかっていう、多分オリエントで信奉されていた神であっただろうという、そういうことです。
それから、ローマ帝国。これは、民主主義とか、そういうものと結びつけられますけれども、当初は民主主義であったにせよ、そのあとは全くアジア的な専制独裁主義です。皇帝の。ですから、これもオリエント文明の一つの派生物みたいに見えるわけです。
で、西欧になりますとちょっと違ってくるんですけれども、それはまたあとで。それに、西欧ってのは、西暦の1,100年ぐらいまではかなり後れた地域でありましたから。広い地域にわたって森林に覆われていたわけですね。
そういった中で、このオリエントね。ここは、今では後れた地域になってますけれども、それはもとから後れていたんではなくて、昔は進んでいたわけですよ。この地域から、遊牧民族たちがいろいろ文明を持ち出してはね、こっちの中国に持っていき、ヨーロッパのほうに持っていき、例えば青銅器を使う文明、それから鉄を使う文明、あれが、世界史を習いますと、大体、中国とか、インドとか、それからエジプトとか、同じような時期に青銅器、それから鉄器を使い始めてますけれども、おかしいと思われません?
習ったときは「ああ、そうかな」と思って終わっちゃったけど、今考えてみると、そんな、同じ時期に同じ文明が現れるのは、絶対誰かが仲介してるに違いないんですよね。それは遊牧民族、スキタイとか、そういった連中だろうと思われます。ですから、スキタイの遺跡を掘り返してみると、製鉄の遺跡が随分出てくるわけですよ、ユーラシアの各地からね。
それで、その中で、今では後れてしまったオリエントですが、ここではモハメットのあと、大イスラム帝国が作られるわけなんですけれども、それが西暦700年頃。西ローマ帝国が滅びて間もない頃です。
そのとき、このアラブのイスラム帝国がやったことは何かっていうと、ギリシャ・ローマの古典を片っ端からどんどん翻訳したんですよ、アラビア語にね。第2代目か第3代目のカリフが。それでもって、ギリシャ・ローマの古典を自分たちのところに保存し、そのあと自分たちでどんどん発展させていったわけです。ですから、代数のアルジェブラっていう英語ありますけれども、あれはアラビア語ですから。アル・ジェブラですから。それから、数学、医学、天文学、あらゆるものがアラブで独自に発展したわけです。それが、すべて今は忘れられて。
そのあと、アラブはスペインのコルドバを拠点とする王朝も作りました。そのコルドバで、今度は、アラビア語からラテン語に翻訳し直す作業が行われたわけ。で、それによって、ギリシャの古典の一部が、アラブから今度は中世の西欧に還流します。
それからもう一つは、東ローマ帝国のコンスタンチノープル――今ではイスタンブールですが。そこに保管されていたローマ古典、それからギリシャ語の古典が、今度はフィレンツェを中心にしたルネッサンスの諸都市によって翻訳されて、それもまた西欧に還流するわけですね。アラブは、その中で、二つのうちの一つの役割を果たしたわけです。
ですから、われわれの習った世界史ってのは、ユーラシアをバラバラに教えますけれども、本当は一つにつながってるんで、この真ん中、つまりオリエントについての理解なしには、ユーラシアは一つにつながったものに見えないんですね。ほんとはつながってるんですけど。次のスライドをお願いします。
世界の変動の意味1 「プロメテウスの火」――経済
今日は別に世界史のお話するんじゃなくてですね、今っていう、われわれが生きてる時代の意味についての話なんです。今どんどん変わっていってね、大変な変動の時代にあるんですけれども、あんまり「変わってる、変わってる」と思うと足をすくわれちゃうんで、その根本にある意味をちょっと考えてみたいと思うんです、短く。
それは、経済と、それから国の、国家というものの形態に関わってくると思うんですよね。で、世界の経済というのは、われわれの経済というのは、産業革命によってものすごく変わってきました。「プロメテウスの火」っていう言葉がありますけれども、神ゼウスが独占していた火をね、プロメテウスっていう神がゼウスから盗んで、人類に与えて、それによって人類は文明を得たんだけれども、プロメテウスはゼウスに怒られて、それで罰を食らったんですけれども、産業革命というのはそのプロメテウスの火に相当するんですね。
あとでまた、次のスライドでお話し申し上げますけれども、現在行われてることってのは、産業革命がどんどん世界に拡散して、まだ拡散してんですよ。宇宙のビックバンみたいにね。最初はイギリスで起こり、それからヨーロッパに広まり、それからアメリカに広まり、次は日本にやってきて、で、その日本がいい顔してるうちに、今度は韓国、それからASEAN、それから最後に中国に火がついちゃって。
で、今の問題っていうのは、そういってどんどん産業革命が広がったことによって、世界経済全体のパイが増えればいいんですよ。でも、もしパイが増えなければ、それはプロメテウスの火の奪い合いになるわけです。ですから、中国・インドの発展で、われわれも得をするのか、それともわれわれは割を食うのかっていう、そういう基本的な段階だと思います。僕は、結局はみんなが得をするのだと思います。ただ、そのときには、僕は生きてるかどうか分からないって、そういう話だと思います。いや、多分、あと10年ぐらいで、みんな得すると思います。今も得してんだけど。
世界の変動の意味2 「国家」の変質
それからもう一つの問題というのは、近代国民国家っていうのがだんだん変わってきたんだと思います。で、近代国民国家ってのは、国境がカッチリ決まっていてですよ、それから、その中に単一の民族がいるっていうフィクションね。日本人は、日本人という確固とした人種がいると思ってるんだけども、実際には日本人だって大変な混血の産物でしょ? それから、ドイツなんか行ってみると、もっとはっきりするんで、北のプロシアに住んでるドイツ人っていうは、それは背が高くて、金髪で、青い目、それから南のミュンヘンに住んでる人たちは、黒髪で、黒い眼で、背はそんなに高くないっていう、まるで別の人種でしょ? フランスも同じですよね。ですから、一つの民族というのはフィクションなんです。
それから、近代国家では全員が一つの言語をしゃべるっていう建前になってますよね。ところが、日本だって、鹿児島の人と青森の人が英語でないと通じ合えないという時代もあったらしいんだから。半分、冗談なんだけれども。それから、ヨーロッパだって、いろんな一つの国の中に、例えば、ベルギーだって二つの言葉に分かれてますよね、あの小さな国が。ですから、一つの言葉ってのもフィクションです。
あとは、一つの法律体系。これは人工物だから、近代国家と言われるところは大体、一つの法律体系になっています。それは、ほんとに大事なことなんだけども。
それから、一つの軍隊を持ち、一応、民主主義によって治められてるってのが、近代国民国家なんですね。で、これが今ちょっと変わってくるんじゃないかっていうことです。
一つは、メガ国家って僕は名づけていますけれども、それは、単一民族ではなくて、多民族国家ですね。アメリカは白人の国家ではもうないんで、多民族国家であります。ロシアも中国もインドも、大きい国は全部そうであります。そういった多民族国家が単一民族国家の顔をして、一つの巨大な軍隊を持ち、巨大な警察と諜報機関を持って、われわれ、ほんとの老舗の国民国家に向かってきたら、とってもかなわないですよね。その中で、日本とかドイツとかフランスみたいな国はどうしたらいいんだっていう、そういう問題があると思います。ですから、これは安全保障の問題ですね。
それからもう一つは、人口の問題ですね。産業革命の以前と以後では決定的な違いができてきたってことは、人口が持つ意味がマイナスからプラスに変わったってことです。産業革命の以前は、経済が農業に依存していたから、人口が増えてくると、みんなが貧しくなったわけですよね。マルサスっていう人の言った「マルサスの原則」ですが、人口は幾何学級数的に増えるんだけれども、土地はそれほど増えないので、人は貧しくなるっていうことです。
ところが、産業革命で、新たな富を無限に作ることができるようになりましたでしょ?だから、そうしますと、人口はあったほうがいいんですよ。人口がないと、市場が大きくならないから。ですから、人口はプラス要因になりました。
ですから、僕なんかは、日本の人口が減るっていうんで喜んじゃうんですけどね。通勤電車の混雑がなくなるでしょ? それから、住宅は広くなるでしょ? いいじゃないかと思うんだけども、なぜかマイナス要因と皆さん捉えられてるんだなと。
それから、経済の中心地。これが、産業革命以前と以後で変わりました。以前は、中国とインドだけで、1850年の段階でも、世界のGDPの45%を中国とインドで占めていたという、そういう推計があります。それから、もう一つの世界経済の中心地は、もちろん地中海でありました。ヨーロッパは、まだそのころ森。地中海は、イタリア、それからアフリカ、シリアのあたりを中心にした通商圏、農業圏であります。それが、産業革命以降のあと中心地はまず西欧、それから米国、それから日本にやってきて、今では中国とインドに移りつつあるっていうことであります。
産業革命以前の世界のGDPは、ほとんど伸びなかったっていう、そういうことを経済学者は言いますね。統計がない時代にどうしてそんなことがわかるのだと思いますが、まあ事実でしょう。それが産業革命以降は、GDPは数百倍になりました。それは当然です。だって、小麦1キログラムを作るのと同じぐらいの労力でできる自動車1台を比べてみれば、価値は全然違うでしょ。当然、GDPは数百倍になります。
今、非常に面白い現象が起きてるんだけれども、中国、インド、この2国が伸びてきたことによって、世界における生産の中心と消費の中心が、かつてのアメリカに次いで再び同じところに位置することになりました。これまで中国は輸出ばっかりやってきましたけれども、どんどん賃金が上がってきましたから、もう輸出基地としては、外国の企業は中国を考えてません。その境目は、多分、去年。そこではっきり企業の考え方には変化が起きて、もう彼らは中国の国内市場向けに作ることしか考えてないですね、ほとんどね。
ですから、生産の中心と消費の中心が一致したっていうことなんですけれども、心配なのは、そうすると、中国とインドだけでよろしくやっていくんじゃないかと、われわれは後に置かれていっちゃうんじゃないかということが心配になるんですけれども、多分、日本は大丈夫だろうと思います。というのは、日本はもう消費財ではなくて、生産財を輸出する国になっているからで、現在、パナソニックとか、そういった電機会社が相次いで業績が悪くなって、『日経』は「心配だ、心配だ」って書いてますけれども、ほんとに心配なのかと。もうちょっとよく調べて欲しい、または新聞記者はほんとのこと知ってるんだろうって言いたいんだけれども。
日本は中国に対して貿易黒字だと思われます? 貿易赤字だと思われます? 赤字だと思われるかたは手を挙げていただけます? 黒字だと思われるかた。・・・・・統計を見ますと、日本と中国の間っていうのは、日本の赤字になってんですね。ところが、その中国との間の貿易っていうのは2種類あって、中国との間と、それから香港を通ずる貿易というのがあるんですよ。日本と香港の間の貿易っていうのがあります。で、香港から中国以外のところに行っちゃうものもあると思うんだけれども、それがほとんどないと仮定すれば、香港を通じて中国本土に行ってるわけですよね。で、日本は香港に対して黒字なんですよ。両者を合わせると、日本は中国に対して黒字なんですね、かなり大きな。中国に対して貿易黒字である国ってのは、世界でほとんどないんですよ。これはやっぱり日本が生産財を輸出してる国であるからです。
ただ、問題は、その生産財の多くが、中国で操業している日本の企業向けに機械とか部品が出てることであって、別に、中国の企業とか、中国にいる第三国の企業が広く日本の生産財、機械、それから部品を使ってくれてるってことではまだないということです。努力の余地があるんですけれども、日本はそういう状況にあります。次のスライドをお願いします。
それから次は、もう一つの、経済ではなくて、国のほうのことなんですけれども、国家というものなんですけれども、メルト・ダウンっていう現象が起きてると思うんですね。今われわれが生きてる国家っていうのは、国民国家というふうに名付けられますね。ネイション・ステート。で、これは、先ほど申し上げたように、きっかりした国境の中にあって、それで単一民族であって、単一言語であるという、そういうフィクションですよ。
で、この国民国家というものが確立したのは、17世紀のヨーロッパ、30年戦争の結果結ばれたウエストファリア条約だっていわれてます。実際にはもっと後なのですが、典型的な国民国家がまず最初に成立したのは、イギリスであります。17世紀後半のイギリスでね。これはやっぱり、17世紀の前半に、彼らは清教徒革命をやって、それで、国王の首を切ったでしょ? 国王の首を切ったのはイギリスが最初であって、フランス革命じゃないんですよね。フランス革命を実に150年先回って、イギリス人は国王を無力化してるんですよね。それによって議会を根拠にしているブルジョア、ジェントリたちが、国の権力を握ったわけです。
で、彼らがその議会を中心にして何をやったかっていうと、要するに、金持ちになりたいっていうことですね。金持ちになったわけです、彼らは。で、最初は、スペインの船がアメリカから銀を積んで帰ってくるのを襲って金持ちになったわけなんですけれども、次は、オランダを敵視して、オランダが世界の海運を握って大変金持ちになったもんですから、イギリスも同じことをやってやろうと。ついては、オランダの利権を押さえるためには、イギリスの海軍を整備してやろうっていうことでやったのが、イギリスの国民国家の起こりであります。
イギリスの議会は当時、17世紀の後半としては、ヨーロッパで最高の物品税率を国内で掛けたんですね。それでもって財政を豊かにして、そのほとんどを海軍の建設に使ったんだそうです。しかも、イングランド銀行をそのころ創立して、そこにオランダの進んだ金融技術を輸入してね、国債を発行してイングランド銀行に買わせ、その収入のほとんどをまた海軍の建設に回したわけです。そのお金でオランダの海軍をやっつけちゃった。日本は今、中国に対して、当時のオランダのような立場にあります。17世紀のイギリスはオランダの商圏を押さえ、今度はフランスのルイ14世と戦って、アメリカの植民地、それからインドの植民地を独占したわけです。
で、これは、国家の収入を豊かにして、それでもって、イギリスの政府の役人の数ってのは、数十倍、数百倍に増えたわけですね。それまで数百人の官僚しかいなかったものが、数万人の規模になっていくわけですから。お金を数えないといけないし、海軍を管理しなきゃいけないから、そうやって増えていくわけです。で、最初はほとんど伏魔殿みたいな様相を呈していたわけですよ。役人たちは暴利をむさぼってね、利権をむさぼって。それが国民国家の起源ですね。
で、植民地を取ったと。イギリスはかつてインドから綿織物を大々的に輸入して貿易赤字になったことがあるのですが、今度は綿織物を自分たちで作って、それをインドの植民地に売りつけるわけですよね。ヨーロッパの本土と、イギリスの国内だけでは、あれだけのたくさんの綿織物は当然はけなかったですから。大量生産で綿織物を作り出して、それを全部売ることができて、それで豊かになることができたのは、やっぱり植民地があったおかげだろうと僕は思います。
ヨーロッパ人とかアメリカ人は、産業革命がどうしてヨーロッパで起きたかってことについては、植民地という市場があったからだってことは、口が裂けても言わないんですよね、なぜかね。なんかね、「イギリスは技術が優れていたからだ」、それから「科学的に思考する能力があったからだ」などと言います。冗談を言うなっていう感じなんですけどね。
中国だって、技術はイギリス以上に優れていたわけですから。例えば、西暦1000年ぐらいの宋王朝の時代には、中国人はコークスを使って鉄を作っていたわけですよ。1万トン以上の鉄を、毎年。コークスを使って鉄を造るっていうのは、イギリス人が18世紀になってやっと始めたことですよ。それでも、中国で産業革命が起きなかったのは、それはもう市場が飽和していたからだと思います。大量生産をやったって売れないし、もうからないから、産業革命をやらなかったんだっていうこと。ところが、イギリスはもうかったら、もうけるために産業革命をやったんだということです。
ですから、この国民国家と植民地と産業革命っていうのは三位一体であって、そのうちのいずれかが欠けても、現在のヨーロッパはないんだと思います。
ヨーロッパの産業革命の出自について言えば、奴隷の取り引きもありましたしね。奴隷というのは、1人車1台ぐらいの値段で取り引きされましたら、大きな意味を持っています。長年にわたって数百万人が取り引きされたわけですから。そういう、非常に罪のある出自を産業革命は持っているということです。
でも、そのおかげで、中産階級っていうのが伸びたわけですよね、イギリスは特に。で、社会の浄化運動というのが起きて、政党は、最初はものすごく腐敗していたんだけれども、それがどんどん浄化されて、しかも、政党は、自分の票田を増やしたいもんですから、選挙権を限りなく増やしていくわけですよね。中産階級のほうも投票したいって言ってくるし、そうすると、与党や野党が自分たちのところに投票してくれるだろうと思って、どんどん拡大していって、最後は普通選挙が成立するわけです。
搾取する国家から搾取される国家へ
普通選挙が成立しますと、選挙ってのは、基本的には、政党と、それから投票者の間の、利益のやり取りみたいなもんですから、福祉のばらまきになるわけですよね、どうしてもね。福祉ってのは言葉は美しいけれども、結局は、国民を買収してるようなもんですから、福祉の費用ってのは限りなく膨らんでいきます。ですから、みんなが1人1票になったポピュリズム、国民が言うことはすべて聴かないと落選してしまうっていう、そういうポピュリズム。それは、限りない福祉のばらまきによる財政破綻を必ずもたらすっていう、そういう状況になっております。
現在では、先進国の間では、戦争は多分ないでしょう。以前は、国民国家というのは、特にイギリスは、フランスと戦争するために国民国家を作ったようなもんなんですけれども、戦争のマシンですね。現在の国民国家っていうのは戦争マシンである必要はないわけです。ですから、軍隊はどんどん小さくなっています。
その中で国家の役割というのは何かっていうと、以前の国民国家ってのは、国民の血と汗を絞るものだったんですよ。血と汗を絞って戦争をやるものだったんですね。血というのは徴兵ですね。それから、汗は税金のことです。
ところが、今の国家っていうのは、戦争をやる必要がなくなったもんだから、昔は国民から絞っていたのが、今は政府が国民から絞られる存在になっちゃったんだと思うんですね。政府は、企業、それから国民から税金を取らないと何もできないのですが、国民にはそれが見えないから政府に要求ばっかりするっていう、そういう感じです。現在の国家の役割ってのは、安全保障と治安と、それから社会保障、これがあればいいんだと。で、もしかすれば、これは民営化できるかもしれない、そういうことですよね。だって、警備会社と、それから保険会社があればいいんでしょ?
日本にいますと、尖閣列島の問題であるとか、北方領土であるとか、国家であるとか、主権であるとかね、「主権は聖なるもので、命を捨てても守るもんだ」っていうことを言う人もおられるんだけれども、それは僕もその通りだと思いますよ。だって、そういうふうに思わなかったらば、「国家」は終わりでしょ? 国家の仕事ってのは、その国境を守ることであり、それから単一民族、それから単一言語の神話を守るのが政府の役目なんだから。
だけれども、国境というのは人工的なものなんですよ。中国人と日本人ってのは、人種的にはそんなに変わらないでしょ? メンタリティものすごく違いますけどもね。だから、一緒にやっていこうと思えばできるし、それから、アメリカだって、あれは多民族の国であって、あれは国じゃなくて一つの世界なんですよね、アメリカというのは。だから、日本がアメリカと一緒になったってかまわないのかもしれない。言葉ができればね。言葉―――多分そこに国家の最後の拠り所があるのでしょう。
日本語でいい仕事につくことができ、日本語で生活ができ、日本人の常識で他人と付き合える、そういう空間ですよね。それはやっぱり守りたいと思うでしょ。だから、それが国だと思いますよ。で、国を守るためには、国境を守らないと、限りなく削られますからね。尖閣列島を取られれば、次は必ず南西諸島、沖縄に要求が来ますから、守んなきゃいけないという。
そうするとすぐ「国のために命を捨てる」ということを言う人がいるのですが、国という何か至高の存在のために犠牲になるということではなく、自分自身の生活を守るために守りを固める、抑止力を整備しておくという話しなのです。それをすぐ「命を捨てる」などというから、議論がややこしくなる。
僕は以前、自衛隊員にね、聞いたことがあるんですよ、自衛隊の将校に。「大変でしょう」と。例えば、戦争に行ってね、自分の部下たちに対してね、「突撃」ってあなた言えるんですかと。で、刀を持って、刀じゃないんだけれども、「俺に続け」って言ってね、それで、飛び出したら後ろに誰もついてこなかったっていう、そういう恐怖にかられることないですかって聞いたら、ニヤリと笑ってね。要するに、「皆、死ぬのは怖くないんですか」って僕は聞いたんだけど、「そういうふうには俺は言わないんだ」と。「俺についてくれば助かるかもしれないというふうに思わせてるんだ」っていう。ですから、発想は全然180度違うんですよね。軍隊は、死ぬためにあるんじゃないですよ。尖閣列島を守るからっていって、すぐ自分が死ぬっていうことではないんですよ。次のスライドお願いします。
EUみたいになる?
話を戻して、では日本はメガ国家に対して対抗できるかってことなんですね。例えば、よく人が言うんだけれども、じゃあ、EUみたいになろうと、日本も。そういった人たち、大体、日本政府に対して批判的な人たちがEUを理想化して考えるんですけれども、無能な日本政府に代わって、EUみたいなもっと大きな政府がどっか上のほうにあってね、いろんな問題を解決してくれるんじゃないか、と夢見ておられるわけです。
でも、よく考えてみると、日本にとって共にEUみたいなものを作る相手って、どっかあります? 中国と一緒にならないと始まらないでしょ? 中国と統合します? 中国と統合するとどういうことが起こるか、そのシミュレーションをやってみるとこうなるのではないでしょうか?
例えば、中国と統合、あるいは同盟関係を結ぶと、1週間ぐらいたって、「私は中国共産党の日本支部を作りました」と、こう名乗りを上げる日本人が出てくるでしょう。そうすると、中国共産党はこれを一生懸命支援せざるをえないでしょ? で、この「日本支部」はどんどん大きくなって、議員が増えていく。みんな、中国共産党日本支部に投票すればいいことがあるかと思って投票するから。そうすると、その中国共産党日本支部は、他の政党をつぶし、最後には一党独裁を敷くわけですよ。
で、一党独裁って、あんまり気持ちよくないですからね。中国人だって、気持ちよくないって言ってるわけだから。戦後の日本ってのはほんとに自由な社会になって、今の、特に若い世代なんてのは、世界の中でも最高レベルの自由をおう歌してるわけですよ、気がつかないけど。アメリカ以上の自由ですよ。アメリカ以上の豊かさと自由ですよね。それを簡単に失っていいのか、失っちゃうことになりますよということですね。ですから、中国とはちょっと統合できないだろうと思います。
それから、韓国、もちろんこれはいいパートナーなんだけれども、韓国と日本だけではちょっと力不足ですよね。じゃあ、ASEANかというと、ASEANと一緒になったら、何にも決まらなくなりますよ。いい人たちなんだけれども、なんかこうね、コンセンサスを重視するところがあって、決めるのが遅い。
それから、EU自身はどういうメカニズムかっていうと、EUは一つの国家じゃないんですよね。僕はいろんなヨーロッパの国の首府に行って、その政府の話も聞いたし、それからEUにも行って話聞いて確かめたんだけれども、要するにEUっていうのはバラバラですよ、今でも。一つの国家じゃないですよね。
EUが持ってる権限というのは限られていて、外交の権限は持ってませんからね。で、外交というのは、あれ、あんまりお金かけずに、大統領とか総理がいい格好をできる、非常にいい道具ですからね、サルコージとか、それからメルケルが手放すはずがない。だから、外交はEUの権限じゃないんです。
それから、財政政策。財政政策は各国の権限です。だから、今回のギリシャみたいな問題が起きてるわけ。金融だけはEUの権限が大きいですけれども。ユーロは各国バラバラに発行されてるというのはご存じですよね。紙幣のデザインは統一されてますけれども、コインのデザインは各国バラバラですから、ユーロは。それから、発行量は、それは各国それぞれEUの中央銀行に統制されているとはいえ、各国バラバラに発券してるはずだからね。その面でもEUの権限は限られております。
それから、貿易交渉の権限はEUに属しているんですけれども、そこでもEU委員会の権限というのは限られております。貿易問題っていうのは、各国の利益に直接関わりますから、例えば日本だってTPPに加盟するかどうかであんな騒ぎになってるわけで、EUの各国だって、貿易交渉においては、農業セクターであるとか、それから自動車企業が、みんな騒ぐわけですよ。で、それを調整するのはどこだかご存じですか? EU委員会じゃないですよ。各国の政府がまず最初に国内を調整するわけですよ。
例えば、日本とFTAの交渉をやるっていうことになると、最初の調整ってのは各国の政府がやります。農業省、それから工業省であるとか、そういった省の間で調整をする。で、その調整した結果が、ブラッセルにある、例えば英国代表部に伝えられるわけですよ。で、その結果を元にしてですよ、ブラッセルにあるイギリスの代表部っていうのは、これまた大変な人員を持ってますからね、数百人か、もっといるんじゃないかな、外交官が。それがイギリスの各省を代表してるわけですよ。小さなイギリス政府みたいなものがブラッセルにあります。
で、そういった連中が、フランスの代表部、それからドイツの代表部、そういった連中たちと一緒に、最初は書記官レベルで調整を始めて、それが次は参事官レベルで会議をやって、次が公使レベルでやり、次が大使レベルで調整をやって、やっと各加盟国の間の統一された見解を作って、それをEU委員会に付託するわけですね。ですから、EU委員会の交渉の方針ってのは、もう最初から縛られちゃうわけ。それから、さらに、EU議会の権限もどんどん増えてますから、そこからも縛られる。
だから、EUってのはとても一つの国家ではないんで、日本が理想視して、ああいうふうになりたいと思うような相手ではないんです。
そういうわけで、今まで申し上げたことは、枠を外して、自分で考える必要があるということですね。
それから、もう一つは、われわれはコンピューターを動かすときに、OSで、オペレーション・システムで動かしますけれども、いろんな外国で何かをやろうというふうにお考えのときには、そのシミュレーションは、日本のOSではなくて、中国なら中国、それからインドならインドのOS、つまり現地の枠組みで考えないといけないっていう、そういうことです。
神話と現実
で、その関連で、主な国について、神話と現実のかい離についてお話ししたいと思います。これで、やっと本論になります。今までが前置きで。
この写真はどこだとお思いになります? アフリカの南アのヨハネスブルクとか、イギリスのロンドンの郊外とか、アメリカとかいう感じがあるんだけれども、ヨハネスブルクとお思いのかた。どこだとお思いになります?
(会場より)「アメリカ」。
アメリカについてのパラダイム変化
河東 そうです。これはアメリカなんですね。アメリカのボストンのデパートの横です。2009年の2月ですね。で、これは一般の日本人が思い浮かばれるアメリカのイメージとはちょっと違ってると思うんで、これがヨハネスブルクの情景であったって全然不思議じゃないわけですよ。所得水準は低いほうです、むしろ。で、多民族です。たまたまそういう情景なんだけれども、純粋な白人を見つけるっていうのは、ボストンみたいなところではかなり少なくなってるんですね。次のスライドお願いします。
アメリカというのはどんどん変わってるんで、日本の政治家なんかもそうなんだけれども、アメリカっていうと、どうしても白人の顔を思い浮かべてね、やっぱりマッカーサー時代からのコンプレックスを引きずってるわけですね。いろんなことを強引に圧力を掛けて日本にのませる国っていう、そういうイメージでしょ? だから、TPPに対しても、あんな過度の反発が出てくるんだけれども。
それから、アメリカっていうと、すぐ人種差別がある国だって言って、みんなビビるわけですよね。ところが、現実には、アメリカはもうすでに完全な多民族の社会になっていて、特に都市は。それから、元から移民の社会ですから。その結果、何が起こるかっていうと、実際には白人主導なんだけれども、他の異民族も自己主張をする余地っていうのは、もう、ものすごくたくさんあるわけですよ。
アメリカ人って言いますけれども、アメリカ人っていう人種はいないんですよね。それから、中国人って言いますけれども、中国人という人種もいないんですよ。アメリカ人というのは何かっていうと、アメリカに長年住んでいて英語を話せば、もうアメリカ人と見做されるんですよね。だから、日本人だってアメリカに行けば道を聞かれるし、英語ができればもう「フレンド」って言われますよね。もっとも、アメリカ人はすぐフレンドって言うんだけれども、それ以上に近づくことはかなり難しいんですが。
ですから、アメリカの社会ってのは、お金を持ってる人、それから票を持ってる人が強くなります。例えば、カンボジアの難民のような場合、権利がないと思われるかもしれないんだけれども、ボストンの中にカンボジア人が固まって住んでるところがありますからね。そうしますと、政治的な力を持つわけですよ。そこの選挙区から選出される州議会の議員であるとか、それから連邦議会下院の議員であるとか、そういった連中っていうのは、そのカンボジアの難民の声に従わざるをえないわけです。
金と票を持っていても、自己主張しないと駄目ですよ。声の大きいものが勝つ社会なんです、アメリカは。人種差別なんて言ってビビってると駄目なんで、差別されたと思ったら、「それは人種差別だ!」って大声を出せば、相手はひるむんですよ。アメリカはある程度正論が通る社会ですから、"You are racist."って言えばいいんですよ。コンプレックス持ってる必要ないんで、日本人は強いんですって。
アメリカについてはたくさんの誤解があって、アメリカについての神話と現実の間には随分かい離があります。一つは、アメリカ人自身が言うんだけれども、「アメリカは公平で、法と契約の国だ」って。それはかなりほんとなんですよ。西欧・日本以外の国と比べれば、それは、アメリカは確かにその通りですよ。
だけれども、西欧もそうなんだけれども、アメリカでも、少人数だけによって事前に手を握ってしまうことはもう日常茶飯事ですよ。普通ですよね。根回しね。アメリカ人は日本の根回しであるとか談合を批判するんだけれども、他ならぬアメリカ人が談合をやってんですから。談合をやって、日本人を排除するわけですよ。ですからNPOの総会、そういうものは、基本的にはしゃんしゃん大会ですよね。「それについてどう思いますか。採決を取ります」って言うと、みんな、「はーい」とか言ってね、それでもう、机を木槌でドンと叩いて、「採択されました」とやってるわけだから。
それから、ボストンに、日本のベンチャー・キャピタルの人が支店を開いたこともありましたけれども、1年で撤退しましたね。それは大手のベンチャー・ファンドだったんだけれども、何が起こったかっていうと、いくらお金を持っていても、もうかる話には入れてくれないんですよね、ボストンの金融界は。当たり前でしょ? そんな、よそ者にもうかる話を自ら渡すはずがない。だって、ボストンの金融界自らが大変なお金を持ってるわけだから。
他方、アメリカ人っていうのは悪い癖で、他人にはオープンであることを求めるんですね。「おまえは裸になれ。だけど、俺は下着を着たままだ」と。で、自分より強い者は何としても倒します。相手が強ければ、やり方は問いません。例えば、この前のトヨタの訴訟なんかはそうですよね。
じゃあ、アメリカはほんとに、すべてがコネと、それから人的な関係で決まる、どうしようもない国かっていうと、そんなことはまたないんで、人間関係だけでは駄目です。アメリカってのは他面、本当に真剣勝負の利く社会であって、実力があればかなりのところまで行けるんですよ。コネがないと、最後まで行けませんけども。製品の品質ももちろん重要です。でも、プラス、人的関係がないと、アメリカは最後まで行けません。
それから、アメリカのいいところは、アカウンタビリティがないと駄目だっていうのは、これは社会常識になってるんですね。エンロンみたいに、アカウンタビリティがないこともたくさんあります。でも、やっぱりエンロンみたいに、最終的には駄目になることが多いんですよ。最後は正義が勝つんですね。ですから、ヨーロッパ、中国よりも公平なチャンスはあります。でも、こっちが能天気に、アメリカはオープンで公平な国だと思いこんでいたら大間違いなので、人的関係でいつもチェックして、確かめていないと駄目ですよ。
で、そういったところを申し上げるのは、いい本があったからなんですけれども、これは桝田淳二って人がいるんですけれども、この人はコロンビア大学に留学したことはあるにしても、50歳ぐらいまで日本で弁護士として地位を築いたあと、自分がやるしかしょうがないと思って、ニューヨークに一人で飛び出て、それで国際弁護士になって、成功して、それで『国際弁護士』っていう本を書いたんです。これはほんとに、何ていうのかな、アメリカの、いろんな裏とか、汚いやり方とか、そういうのをもう如実に描いてあって、これは必読の書だと思います。
それから、もう一つのアメリカについての誤解なんですけれども、アメリカは没落するんだ、それから孤立するんだっていう最近の理解があるんですよね。アメリカっていうと、日本人はほんとにコンプレックスっていうのか、恨みっていうのか、いろいろな感情が交錯して見方がおかしくなるんですけれども、もうちょっとこう、平静な気持ちでね、公平に見なきゃいけないと思うんですね。
一つは、アメリカの経済が、製造業がかなり空洞化したっていうのは、一つは日本のせいですよね。最近の若い人たちは全然覚えてないんだけれども、1971年に僕がアメリカに留学したときには、アメリカのスーパーマケットの、電気ポットからいろんな電気製品というのは、すべてメイドイン・ジャパンですよね。そういう時代。だから、アメリカのカメラ産業、それからアメリカの家庭電器の会社、そういったものは日本の会社によってどんどん破産していったわけです。そん中に、ゼニスっていうテレビを作る会社がありましたけれども、これは後に韓国のLGに買われて、で、現在はLGっていう名前で日本に仕返ししてるわけですね。だから、アメリカは、日本にかなり富を移転してくれて、その結果、自国の製造業を空洞化さしてるんで、したがって、しょうがないから、金融とか、そういったところで稼がなきゃいけないから、金融で世界にのして、それをグローバリゼーションだって言って他のところに押し付けるから嫌われてるんで、だけれども、そうした現象の元のところには日本がいたわけです。
じゃあ、その製造業が空洞化したからアメリカは駄目かっていうと、そんなことは全然ないんで、今でも世界の金融、通貨、それから言論形成を担ってるわけでしょ? それから、製造業が駄目になったかっていうと、そんなことは全然ないんで。
僕はアメリカに勤務していたときに、いろんなものを、いろんな装飾品とか、そういうのを注文して作ってもらいましたけれども、例えば、ベルリンの壁が崩壊して、そのベルリンの石のかけらが3ドルで売られていて、それを置くケースを作ってもらったんだけどね、ガラスで3方囲んで、それを注文して作ってもらったら、ほんとにきれいに作ってくれました。つまり加工技術、それから工作機械、そして完璧な仕上げに対する想い、そういったものは残っているということっです。
それから、何より一番の強みは、世界中のベンチャー精神にあふれた連中が、アメリカにやってきてはいろんな新製品のアイデアを考えて、それを世界中から部品を集めて組み立てさせるもんだから、例えばアップルみたいな製造業もどきが、世界の最先端を行ってるわけです。だから、コンピューターのハードだって、日本のコンピューターのハードはどんどん駄目になっていって、またアメリカ製のヒューレット・パッカードとか、デルでも買おうかっていう、そういう話になってるでしょ。実際にはアメリカで作ってるんじゃないんですけれども。ですから、アメリカは駄目になってないんですよね。
それから、一番大きな要因は、アメリカは人口がこれから大きく増加する唯一の先進国であるということです。現在のアメリカの人口ってのは3億1,000万人ですね。で、これが、2050年には4億人になろうっていうふうに推測されています、移民と、それから新生児によって。2050年まで、アメリカは若い国です。人口が1億人も増加するんです。人口増加はプラス要因ですから、経済にとっては、今は。なんか、10秒に1人、アメリカ人は増えてるらしいですよ。生まれてる数から死んでる数を引いても、10秒に1人増えてるらしい。
それから、もっと短期的なことを申し上げますと、現在のいろんな指標ってのは、アメリカが金融緩和の中で経済回復する兆候を示しています。大統領選挙の前ですから、そういうふうにことさらしている面もありますが。同じような現象っていうのは、クリントン大統領の第2期にも見られたんですね。クリントン大統領の第1期っていうのは、まだ景気がよくならなくて、日本たたきをやって輸出を増やそうとしていたでしょ? で、アメリカってのは、1985年のプラザ合意で、円に対してドルを2分の1に切り下げて、それで、1985年から90年の間に、ドルベースでの輸出を2倍にしたんですよね、2倍に。で、オバマさんは、今、全く同じことを言ってますよね、輸出を2倍にするんだって。そんなことはできるはずないだろってみんな思ってんだけれども、現在のテンポだと実現できそうなんですよね。ドルがまた上がらなければ。
で、クリントン政権の第2期で、アメリカ経済が非常に好調になったことに対していろんな理由が言われてんだけど、一つは、ITによって生産性が向上したからっていう、そういう説明がもっぱらなんだけど、それもあるけれども、ITで生産性が向上してんのは企業にとっての話であって、例えば今のアメリカの空港なんか行きますと、インフォメーション・カウンターに行きますと、誰もいないんですよね。それから、銀行なんか行きますと、開いてる窓口がね、一つだけだったりして、長蛇の行列ができたりしていて、それは、そういうことによって銀行の生産性は上がったかもしれないけれど、客の生産性は下がってるっていう、そういう感じなんですよ。ですから、ITだけでは無理ですよ。
一つには、1990年代のアメリカってのは移民によって人口が急増してんですね。で、それが経済成長にもたらすファクターについては、みんな黙ってるしね。それから、プラザ合意でドルが切り下がって輸出が2倍になったことの効果ね、これもまたみんな黙ってるのね。で、日本人もなんか、それにだまされちゃって全然指摘しないんですけれども、でも、今同じことが起ころうとしてるわけです。
ただ、問題は、アメリカの経済が、製造業の空洞化っていうのがいかにも甚だしくて、金融バブルによって支えられてる面が非常に強いんですよね。ですから、金融バブルが崩壊する間隔がどんどん狭まってるっていう、そういう感じがします。
唯一望みがあるのは、空洞化した製造業が、ひょっとするとまた回復するかもしれないなと思わせるものがある。それは、南部の賃金が安いところを中心にして、製造業が戻ってきてんですね。フォルクスワーゲンとか、日産とか。アメリカ南部の賃金というのは、多分、中国の沿岸部の賃金ともうほとんど変わらないと思いますね。移民が多いから。しかも、労働組合が弱いでしょ、米国の南部というのは。アメリカの製造業が空洞化した大きな理由っていうのは、労働組合が強すぎて、高い年金を要求したりとか、そういうことをしたから企業はどんどん海外に逃げちゃった。だから、日本のせいだけじゃないんですけども。次のスライドお願いします。
これはどこの町だかお分かりになります? サンフランシスコだと思われるかた。香港だと思われるかた。ドバイだと思われるかた。どこも同じような光景ですが。これ大連ですね、大連。で、大連においでになった方、多いと思うんですけども、おいでにならなかった方っていうのは、やっぱり驚かれると思うんですよね。すごいですよね。次のスライドお願いします。
中国についてのパラダイム変化
これは中国のお話です。もうすでにやったから繰り返しませんけれども、中国についてのパラダイムの変化というのは、現在、輸出主導から内需主導に移行しつつあるってことです。国内のインフラ建設で経済を膨らます段階。賃金がどんどん上昇していく。内陸部でも上昇していってるわけですね。ですから、これからの中国の経済の課題っていうのは、輸入を可能にするだけの貿易黒字は維持していかなきゃいけないと思うんですね。輸入を可能にするだけの輸出は維持していかなきゃいけない。だけれども、国内インフラを壊れるそばからどんどん建設していけば、成長は永遠に続くであろうと、そういうことです。次のスライドをお願いします。
それから、日本とか世界で現在見られる、中国経済は駄目になる、駄目になってほしいっていう、そういう希望的観測がありますよね。中国経済は破綻して、国は分裂するという。だけど、そんなに簡単にいきませんからね。
で、話はちょっと脱線するんだけれども、中国の国家ってのはどういう性質を持ってるかっていうと、「中国」という名前、それから「中華」っていう名前、これは比較的新しい概念みたいでね、明の時代にはそういうふうには呼んでなかったらしいですね。明の時代には何て呼んでいたかっていうと、「明」って呼んでいたんですよね。それから、その次の清の時代には、最初は「清」ですよ。だけど、だんだんね、清の時代に頭を押さえられていた漢民族のインテリたちね、彼らもある日、満州族によって、髪の毛を後ろに垂らす弁髪か何かにされちゃって嫌がっていたんだけれども、でも、周りを見回してみると、自分たちの国がいやに大きくなってるわけですね。中国が現在の規模に大きくなったのは清の時代ですから。そうしますと、漢民族のインテリも、うれしくなっちゃってね。自分たちの国は何かというふうに考え始めたわけですよ。そのときにその中国っていう概念を考え始めたらしいです。それから、多民族国家としての空間、これを表わすものが中華なんだそうです。比較的新しい概念。
で、その中でね、中国の国家っていうのはどういう性質を持っていたかっていうと、何回か分裂してるわけですね。最初はもちろん都市国家に分裂していて、それから春秋戦国時代ですね。孔子であるとか、孟子であるとか、そういった人たちが現れた時代。これはものすごく長いんです。それから、次が五胡十六国かな。この五胡っていう、「胡」っていう字は、これは西域からやってきた異民族という意味ですからね。ですから、これは西域の遊牧民族等が中国の中原に入りこんで、中国のポリティカルゲームのプレーヤーになったっていう、そういうことを如実に表してるわけです。これが春秋戦国時代よりははるかに短い。それから、次の分裂時代が五代十国時代ですね。これになりますと、たしか100年ぐらいかな。それから、次の分裂時期が辛亥革命後の内戦です。これ、たしか30年ぐらいかな。どんどんね、分裂してる時期が短くなるんですね。
で、やっぱり現在の中国人に聞いてみますと、国としての一体感というものを持っていますから。それから、中国国民っていうのはみんな、豊かになりたいと思ってます。この一体感と、それから豊かになりたいっていう、こういう二つの気持ちがある限り、国は大崩れしない可能性は高いです。と思います、僕は。
それから、短期的にいいますと、中国経済は駄目になるということを言うことを今言っている人の根拠は、これは、不動産価格がバブルでしょうということです。確かにバブルなんですよね。住みもしないマンションを買っては、高く転売してもうける市民たちが多いですから。で、それに対して、リーマンブラザーズ金融恐慌のあとに、地方の銀行がどんどんお金を貸してね、それで、景気を支えたわけですよね。それがバブルを生んでいてね、そのバブルは不動産に表れてるわけです。その不動産の価格が今どんどん下がってんですよね。そうしますと、そこにお金を貸した銀行は不良債権を抱えて、企業にお金を貸さなくなるから中国経済は不況になるだろうという、金融危機になるだろうという、そういう論理なんですけれども、それは西側の論理で考えてるんであって、中国のOSで考えてるんじゃないんですよね。
中国では、不動産価格が落ちると何が起こるかっていうと、それは確かに銀行は不良債権を抱えますよ。だけど、そのときに何が起こるかっていうと、一つは、中国では、「金を貸すアホ、返すアホ」っていうことわざがあるんですね。分かります? 「金を貸すアホ、返すアホ」ね。だから、不良債権が起きたって、銀行はどこ吹く風で平然としてればいいんですよ。返さなければいいんですね。
これはロシアでも起こったことなんだけれども、リーマンブラザーズ金融恐慌のあとに、ロシアの銀行は、ヨーロッパの銀行に対してたくさんの不良債務を抱えたわけです。で、日本だったらば、借金を返せなくなったらば、自殺する人さえ出ますよね。ですから、その金融危機のロシアで、さぞかし自殺が増えただろう、鉄道での人身事故が起きただろうと思われるかもしれないんだけれども、1件も起きてないですよね。むしろ、ロシア人がお金を返さなかったことによって、ベルリンの銀行家が自殺したとか。それは脚色なんだけれども。ですから、社会主義の国では、お金は返さないことも当たり前であったわけです。
それから、または逆の方向からいけば、中国の当局は、そういった銀行をつぶして平然としてるかもしれないですよね。で、つぶして、別の銀行を作って、地方の当局は、その新しい銀行とつるんで、また地方の経済にお金を流していくっていう、そういうことも考えられる。それから、その新しい銀行には、中国の外貨準備からお金を流すことも考えられるわけです。そういうことを中国はもうすでに1回やってますから。外貨準備から、それを銀行の資本金として注入するわけですよ。日本では起こらないことだけど。ですから、この不動産価格の下落っていうのは、中国経済にあんまり大した問題は起こさないだろうと思われます。次のスライドをお願いします。
で、じゃあ、中国ってのは本当に超大国になって日本と大差がつくのかっていうと、あんまり慌てる必要もないだろうと思うんですね。というのは、中国というのはグローバル・スタンダードの国には多分なれないだろう、世界のルールを作る国にはならないだろうと思うからです。中国は盛んに、世界はみんな一つの家庭だというようなことを言います。ああ、そうですかと。「じゃあ、お父さんは誰なの?」って聞くと、それは「中国であるぞ」と言うわけですね。で、こっちは、そんな、中国に子供扱いされたくないですから、そんなの嫌だって言うんですよね。
そういうわけで、中国の押し付ける価値観ってのは、世界の標準にはなりえないのです。しかも、中国自身が、アメリカの価値観であるとか、ヨーロッパの価値観ね、それを、例えば市場経済のルールであるとか、そういうのを一生懸命勉強しようと思ってるわけでしょ? そういう傍らで、自分の昔の価値観を他の国に押し付けようとするのは、それはおかしいんですよね。
要するに、中国っていうのは、自分のことしかまだ見えないんですね。自分自身が抱える課題が大きすぎるんで、利己的なんです。ですから、尖閣列島の周辺の石油は今すぐにでも欲しいし、南シナ海の小さな島は自分のものにして周辺の石油を掘りたいし、ベトナムのような小さな国を、それでいかにいじめてもかまわないと、そういう利己的な気持ちでいるわけです。
それから、中国は近代産業社会になろうとしていますけれども、近代産業社会に生きる人間ってのは、これは経済的に独立しますからね、収入が増えるから。そうすると、権利意識が増えるんですね。自由になるし。そういう人間が使える価値観の体系っていうのを中国は持っていませんよ。儒教の価値観ってのはそういうことにはならないですから。そういうわけで、先ほど申し上げたように、特権層の利害が西側文化の流入で侵されそうな場合にのみ、彼らは伝統的な価値観を持ち出すんですね。
そういう中で、その中国についていくのは、西側に疎外された国ね、それから中国からもらう経済的な利益に目のくらんだ国ばかり、そういう状況になっています。
日本人の価値観、中国人の価値観
で、価値観のお話を申し上げますと、日本人ってのは、日本ってのは、哲学とか思想、それから絶対的な価値観のない国ですから分からないんですけれども、西ヨーロッパの人たちは明確なOS、つまりオペレーション・システム、価値観を持っています。ヨーロッパのエリートたちは、哲学を明確に示して行動します。
例えば17世紀のジョン・ロック、これは自由が大切だってことを言ったんですね。これは大体、ヨーロッパの経済が発展するに従って現れてきた哲学なんですけれども、自由の確立ね。ただ、それは、自分の自由だけではなくて、他人の自由も大切だっていうことをロックは言ったわけです。で、このジェレミー・ベンサムっていうのは、ロックを少し補って、自由だけだとやっぱり格差も増えますから、そこを何とかしなきゃいけないと。で、社会主義的な発想をベンサムが付け加えたんで、彼が言ったのは、最大多数の最大幸福を目指すべきだと言ったわけです。このロックとベンサムの二つを合わせると、非常にいい社会ができるでしょ? これがヨーロッパの市民社会なんですよね。
それから、ヨーロッパの市民社会の政治はどういうふうに治められているかっていうと、政府と、それから個人の間の関係ってのは、これは契約関係であって、別に服従関係じゃないっていうことをジャン・ジャック・ルソーが言ったわけです。それから、政府が強くなりすぎると個人の自由を抑圧するから、独裁を防がなきゃいけないってことで、フランスのモンテスキューが三権分立を言ったわけです。経済については市場経済、アダム・スミスの「神の見えざる手」ね。
ところが、日本の若い世代なんていうのは、ここら辺はあんまり意識せずに、就職が厳しくなってくると、僕が教えていた大学でも、政府が自分たちの就職を世話してくれてしかるべきだっていうことを言う学生がいるんですよ。これは自分たちの自由を自ら政府に譲り渡してしまうことなんだけれども、そういう依存意識ね。もうちょっとこういうことを意識してもらいたいですね。
それから、そういう人たちこそ、今の若い世代っていうのは、政治家も官僚も区別つかないですからね。三権分立の思想もないから。だから、上のほうで偉そうな顔をして物事を決めてるように見える人たちは、全部、政治家っていうふうに、彼らはひとくくりにするんです。皆さんもその中にくくられていると思いますよ。そして、誰か一人優れている政治家がいれば、社会のすべての問題、自分たちが抱えてる問題はすべて解決してくれるだろうと思っているから、今みたいに総理を1年間に1度替えてるわけですね、世論は。基本的な理解が欠如してるわけです。学校で教えないし。
こういう明確な思想ってのは、中国にも全くないです。中国にあるものは、古来からの官僚独裁政治ね。それからもう一つは、ソ連から輸入した、これもまた官僚独裁政治、つまり「政党国家」なんだけれども、それプラス帝国主義ですね。力の外交ね。非常に悪い混合物があるんです。次のスライドをお願いします。
もう時間終わっちゃうのかな。いいんですかね。
司会 どこか切りのいいところまで。
中国人との付き合い方
河東 じゃあ、もう、そろそろ終わります。
中国でビジネスおやりになるときには、もうご案内だろうと思いますけれども、要するに縦割り、つまり政府、地方当局の力が強い、それから横割り、つまり関係省庁間の調整不足が甚だしいっていうことですね。それから、合弁をほとんどすべての場合、求められます。知的所有権は軽視されます。それから、労働者や社員は終身雇用ではないですから、どんどん移転します、平気で。そして商業機密をもってライバルの会社に移転しますから。ですから、日本での経営モデルは通用しません。次のスライドお願いします。
それから、中国人は反日だって言ってわれわれは最近ビビりますけれども、中国人は日本のことを四六時中考えてるわけではありませんからね。そんなにわれわれのほうで過敏になる必要はありません。ただ、中国人ってのはメンツをものすごく大事にする人たちですから、そういったことを中心にして、中国人に対して言ってはならないこと、やってはならないこと、それを頭の中に叩き込んで、それを守っていれば大丈夫なんですよ。
あと、もちろん、昔、日本が戦争のときにやったことはひどいことやったんですから、それについては基本的に申し訳ないという気持ちは持ってなきゃいけないんだけれども、だけど、四六時中謝っていなきゃいけないなんてことはないんで。中国人もそんなことまでは求めていません。
それから、日本に住んでる中国人は、日本社会の自由が好きなんですよね。彼ら自身、そう言いますからね。中国より全然いいと。
それから、ここには書いてないんだけれども、中国人に対しては、日本側の主張、日本側の利益を徹底的に、強硬に主張しないと駄目ですよ。こんなことを言ったら、中国人は礼儀正しいから、気分を害して、どっか行っちゃうんじゃないかと思ったら大間違いなんで、120%ぐらい言って、やっと50%ぐらい伝わったかなと思うといいんで。われわれとはメンタリティ全然違いますから。西側、むしろヨーロッパ的な、アメリカ的なメンタリティですから。だって、いろんな民族の中でもまれて育った人たちなんだから、当然そうなります。自己主張は徹底的にやらないと駄目です。次のスライドをお願いします。
インド
これはインドですね。2週間前撮ってきたばっかりのインド。これはムンバイの、中の下ぐらいの住宅街ですね。ほとんどスラムに等しいんじゃないかな。次のスライドお願いします。
これはムンバイを海の上から撮ったところです。どんどん高層ビルが建っていて、建築ブームであって、近代都市の様相を呈しています。ムンバイは、表面上はものすごくきれい。それから、次のスライドお願いします。
で、僕はね、インド・ファンドも持ってるんですけれども、インド経済本当に伸びるのかなと思い始めていたんですね。だけれども、ムンバイ、それからバンガロールに今回初めて行ってみたんですけれども、デリーのほうは何回も行ってんだけども、デリーのほう行ってみると、インド経済はほんとに伸びるのかなと思われるわけですよ。約束は守らないしね、全然当てにならないんだな。ところが、南インドに行ってみますと、これは大丈夫だろうと思っちゃうんですね。
確かに、インド経済にはたくさんの問題があります。一つは、所有権が強すぎるっていう問題ね。所有権がちゃんとしてないと経済は発展しないって言われますけれども、それは企業家の所有権が確立してないと経済発展はできないという意味なんです。大衆レベル所有権が強すぎると、経済発展を阻害することがあります。
例えば、日本だって農地の所有権が強く、農園の大規模化ができないで困ってるわけだし、それから東京だって、この過密なまんま、ずっと大きな道路がなかなかできないのは、所有権がしっかりしすぎてるからでしょ? インドも全く同じ問題があって、あそこは、相続が長子相続ではないんで、均等相続だから、ますます農地は細かく分かれてる。で、そこに全部所有権がきっかり確立しているもんだから、日本の円借款使って、デリーからムンバイまで鉄道造るっていう案がありますよね。あれ、土地の買収で手こずってるらしいですね、地上げで。
ですから、今、日本の商社なんかが、インドに企業団地、日本の企業のための企業団地をどんどん造ってるんですけれども、それは、一つには、その地上げの問題を、それも商社がインドの当局と一緒に解決して、問題のない土地を日本の企業に提供してくれるんですよ。僕は企業団地なんてあまり好きじゃないんだけれども、インドでは不可欠なんですね。それから、停電がないところ。発電装置を備えるわけです。水も。それが企業団地なんですね。それがインドでは整いだしたってこと。
それから、州の権限が強くて、そん中で共産主義系統の党が治めている州があったりすると、例えば、カルカッタなんていうのはそうだったらしいんですけれども、それによってカルカッタは今後れてるんですよね。分配ばっかりやっていたから。
それから、カーストが経済発展の障害になるだろうって日本人は思い込んでるんだけれども、上からの目線でカーストを見てると間違うんで。カーストってのはイギリスがちょっと騒ぎすぎて、むしろ固定化しちゃった面があるんですけれども、カーストってのは元々ギルドみたいな面があるんですよ。特定の職業っていうのは特定の種族しかできない、という意味でね。むしろ、無用な競争を防ぐ意味でのギルドみたいないい面もあったわけ。
で、インドでは今でも賃金が低いでしょ? だったらば、カーストは活用すればいいんですよね。例えばカーストごとに派遣会社を作らせてね、それで、掃除人夫はこの会社から派遣してもらえ、それから電気工はこの会社から派遣してもらえ、みんな賃金は安くて、しかも社会保障は派遣会社のほうが見てくれるってことになると、生産性は上がるでしょ? カーストは生産性下げるんじゃなくて、上げられるかもしれないんですよ。
それから、新しい産業分野、ITの分野、例えばバンガロールはITが強いんですけれども、そこでインド人を雇うときには、カーストは気にしてないって言いますからね、日本の企業は。カーストが低い者がカーストの高い者のチームリーダーになることも、しょっちゅうあるそうです。
それから、芽があるかなと思ったのは、人々の心が、メンタリティが違うんですよね、南インドは。例えばね、何かがあると行列作るんですよ、彼らは、自分たちで。それで、その行列、横入りする人たちがいないんですよね。これはほんとに感激しちゃうんでね、日本人は。例えばロシアなんかは行列作りますけれども、作らされますけれども、その後ろから、貴婦人が毛皮のコートをまとってね、平然と行列の前に出ていって、横入りして、恥じないわけですよ。それから、中国だって、横入り、当たり前でしょ。それが南インドはないんです。それから勤勉ですね。約束を守るし。これはほんとに感激しちゃう。
南インドに多いタミール人というのは、タミール語が日本語に似てるって言われますけれども、タミール人っていうのは日本人にメンタリティも少し似たところがあって、日本の企業もそこに目をつけていて、バンガロール、ムンバイ周辺に進出する日本の企業はどんどん増えてますね。
それからもう一つ、生産、ものづくりにとっていいことは、インド人というのは、中国人と違って、エンジニアリング志向がものすごく強いことです。自分たちの息子を偉くしようと思うと、エンジニアにしようっていう人たちがまだ多いですね。次のスライドお願いします。
ロシア
これは、ソ連崩壊直後の情景です。ソ連が崩壊して、ロシアが困っていたころ。おばあさんが亡き夫の靴下とか何かを提げて、マイナス15度の街頭に立って、そうした行列が2キロぐらいにわたって続いていて、彼らは7時間ぐらい立ち通しで、靴下1足を売って、やっと牛乳1瓶を買って、その日の食事にするっていう、そういう生活が続いていた時代ですよ。ですから、ソ連は武器ばっかり作ってましたから、消費財生産がない国では生活は果てしなく落ちるということです。次のスライドお願いします。
ソ連が崩壊したことで分かったことは、国ってのは何かということがよく分かったわけですね。国ってのは、制度、秩序ね。それから、公務員の収入、治安、こういったものをやってます。だけれども、国がなくなっても残るものがあるんで、それは人間が残ります。人間の生きたい欲求。で、それは、すなわち経済なんですよ。だって、人間っていうのは、生きてる以上、何かを作って、売ったり買ったりするでしょ? そうすると、経済は、国がなくなったって、絶対崩壊しないってことですよ。なくならないってことです。それから、職場もなくなりません。ていうのは、バス、地下鉄動いてたんでね。ロシアの混乱時代。みんなが料金払えば、何とか動いてんですね。それから、親族・友人が助け合うから、だから、餓死した人はいなかったわけです。次のスライドお願いします。
これは、ソ連末期にできたマクドナルドのモスクワ店ですね。世界一大きいマクドナルドかな。これを、マクドナルドのマニュアルに従って、ロシアの青年たちが、ほんとに能率良く働き始めたところです。次のスライドお願いします。
これは、モスクワの数年前の情景です。モスクワの新しい、汐留みたいなところですね。これは一般のモスクワのイメージとはちょっと違うと思いますね。ちなみに、ここは、ナポレオンが攻めてきたときに、初めてモスクワを見下ろしたところです。「モスクワは燃えているな」ってナポレオンが言ったところですね。次のスライドお願いします。
これはモスクワのショッピングセンター。こんなのがたくさんあります。普通はもっと人でいっぱいです。アメリカ並みのショッピングセンター。ですから、大衆消費社会になっていて、今ではもう軍備を増やすことは難しくなってますね。スライドの下方にある看板は、日本レストランの看板で、「わさび」って書いてあります。このように日本文化は浸透しているのだけれど、完全には分かり切ってないんで、「侘び、寂びを合わせると、わさびなんでしょ?」って聞いてくるから、やっぱり分かってないんだな。次のスライドお願いします。
これはモスクワの典型的な街頭風景だと思っていただければいいんで、もう2008年なんですけれども、今も変わってない。大体の生活水準は、ギリシャ、メキシコぐらい。でも、携帯はもう完全に普及してるんでね。大江戸線みたいな、大深度の地下鉄でも、全線にわたって携帯は通じるんです、モスクワは。
だけれども、ロシアってのは、安定と繁栄は石油価格次第です。で、閉塞感がある。だけど、ロシア経済、みんなばかにするんだけれども、石油依存は直らないですけれども、石油依存だけでも、世界のGDPでナンバー5ぐらいにはいくかもしれませんよ、2020年には、今のトレンドをずっと伸ばしてみると。ですから、購買力はあるんですよ、ドルベースでいくと。
でもロシアとの取引は、最初に現金をもらって、現金取引でやってこないと駄目ですよ。信用取引は駄目です。なぜ駄目かっていうと、いくらGDPで世界5位になるかもしれないと言ったって、中で何が起こってるかっていうと、大変なインフレですよ。だって、消費財の40%ぐらいは輸入してるわけだからね。それは世界価格で売ってるわけです。給料は大体、今は平均的に700ドルぐらい。700ドルぐらいで西側の消費財を買うわけでしょ? それから、石油収入がどんどん入ってくるから、国内のお金がどんどん膨れ上がってインフレになってるわけですね。ホテルが1泊500ドルは下らない。だから、いくら外から見てドルベースのGDPが大きくても、中での購買力平価からいくと全然大したことがないという、そういうことなんです。でも、外部から物を売るにはいい、そういう国ですね。我々も、もっと人が悪くならないといけません。次のスライドお願いします。
イスラム
イスラムね。イスラムなんですけど、イスラムっていうと、われわれはすぐ首切られるんじゃないかと思ってビビるんですけれども、そんなことは全然ないんで、イスラムってのは普通の宗教ですからね。イスラムってのは新しい宗教です、西暦700年ぐらいになってできた。それまで、2,000年、3,000年にわたって、ここら辺には文明があったんですよ、ずっと。で、それはゾロアスター教でありね、それから、ここら辺の土着の宗教では、石が神様であったわけですね。で、イスラム教の本殿のカアバ神殿、あの真四角のカアバ神殿の中庭に本殿がありますけれども、小さな。で、イスラム教は偶像を祭らないって言われてますけれども、その本殿の中に何があるかご存じですか? 本尊があるのですよね。その本尊が何だか、ご存じですか? 石なんですよ。黒い、丸い、こんな石。多分、隕石だろうと思われるんだけども。だから、それはイスラム教が、砂漠の原始宗教の名残を残してるってことです、石崇拝の。でもイスラム教ってのは別に砂漠の宗教じゃないんで、都市の宗教ですからね。メッカとか。メッカは通商都市ですから、そこでできた宗教であります。
で、基盤は何かっていうと、コーラン読まれた方、います? 僕はウズベキスタンに行ったときにしょうがないから読んだんだけれど、岩波文庫で、ほんとにあんな大変な時間はなかった。コーランの本質は何かっていうと、あれはユダヤ教の旧約聖書ですから。だから、アダムとイブの話ね。それから、その他、クジラに食われたヨブの話から、何から何まで、旧約聖書と同じエピソードが何回も繰り返し出てきて、その間に「アラーは偉大なり」、それから「皆さん、イスラム教に献金しましょう」、それが数回にわたって何回も繰り返されるわけですよ。
ですから、イスラム教は怖いことは全然ないんで、一部の国では、イスラム教っていうのはお葬式のときだけ使われるっていう、お葬式仏教みたいな存在になってますし、普通の人間として付き合える人たちであります。彼らの持ってるモラルっていうのは、われわれと変わらない。
イスラム教の地域が貧しくなったのは、それは、ヨーロッパ人たちが、イスラムの連中、つまりオリエントの連中が持っていた通商の権益を全部奪ったから貧しくなったんですよ。貧しくなったから、既得権益を守るために、彼らはイスラム教会を中心にしてまとまって、既得権益にしがみつき、一部は過激化してヨーロッパに対抗しようとしてるわけなんで、そんなに怖がる必要はないです、基本的にね。
ただ、やっぱりオリエントの地域、それから中央アジアの地域、ロシアもそうなんですけれども、ああいった東方文明が支配してる地域で気をつけなければいけないのは、やっぱり経済に対する概念がわれわれとは全く違うってことです。彼らは経済関係も人間関係、つまり政治で動かす人たちです。
そういう環境では、日本の優等生出身の人は、駄目ですね。アラブは製造業ではないですから。製造業っていうのは信用が大事ですよね。製造したものが駄目だったら、その製造元は分かりますから。ところがオリエントはバザール経済で、1回取引して金をもらえばいいんですよ。次の日には消えてなくなればいいんですから。ですから、人をだませる人は頭がいいと尊敬される面さえあります。これは、イスラムとは関係ありません。
で、イスラムというか、ユーラシアの広い地域には、付加価値をあまり自ら作りださず、今ある富を分配して生きる社会が広がっていて、そこにはいくつかの特徴が共通してあります。それはやはり、少ししかない富を独占する者ってのは絶対的な権力を持ちますから、それに対して服従するんですよね、みんなね。お金が欲しいし、生活したいから。そうすると、社会は権威主義になります。上の言ったことを、これはもうほんとに死んでも実行しようとしますね。それから、上が言ってもいないことを、上に取り入るために、実行してみせようっていう官僚たちがいっぱいいる。
それから、経済に対する政府の強い介入。利権が独占されているから、それに対して、わいろで何かやってもらおうっていうんで腐敗しますね。それに、経済を一部の者が握っていて、その一部の者と合意すれば何でもできますから、それは経済原理よりも政治原理で動きます。相手が損をしようが何であろうが、全くかまいません。依存と欺瞞ですね。国民一般は、強い者に依存します。それから、エリート同士は欺瞞だな。トップに決定権が集中するんですね。ルール無視。その他、その他、何でもありなんですよね。次のスライドお願いします。
それから、今日は全然お話ししてないし、僕もよく知らないんだけども、これからの市場という観点からいいますと、東南アジア、オーストラリア、中南米は、これはもう本当に有望な市場なんで無視しちゃいけないですよね。無視するどころか、むしろ中心を置くべきなんで。オーストラリアなんて本当に信頼できる商売相手だと思いますよ。
日本について
もうこれで最後の日本なんですけれども、大体お話ししたところですね。日本はアメリカから富を移転して豊かになったわけです。それから、今ではアメリカは金融を中心にして世界に覇を唱えてると。
で、今、日本の経済で起きてることの特徴っていうのは何かというと、盛んに、国際化であるとか、グローバリゼーションに伍(ご)さなきゃいけないとか言われていますけれども、日本の経済っていうのは明治のころからグローバリゼーションをやってきたんで。何が違うかっていうと、戦後の日本の国際化ってのはほんの一握りの人によって担われてきたわけですね。商社員、それから、外交官はあんまり商売やらなかったけれども、商社員、ジェトロ、そういった人たち、それからJALね。この人たちが、あたかもサッカーの日本チームみたいに、限られた人数で外国に行って、勝負しては、勝ったり負けたりしてたわけです。
ところが、現在では、製造業・サービス企業が広く海外に出ていく時代になりましたから、彼らは商社のサービス使いませんからね。商社だって、人数が足りないから、やらないわけです。そういう時代になりました。ですから、僕は日本が外へ向かってバラける時代だっていうふうに言ってんですけれども、だけれども、それは日本人全員が外国に出て国際業務をやるということは意味しません。そんな必要はないし、できません。すべてが、英語ができる人たちじゃないんですよね。で、やらなくてもいいんです。
ただ、何が必要かっていったらば、輸入を賄えるだけの輸出は必要なんですよね。それから、企業の競争力を維持するためには、海外に進出しないと企業は駄目になります。品質は落ちるし、企業の規模もどんどん小さくなって、最後は外国に買収されます。
じゃあ、国際化、海外に乗り出せない日本人はどうすればいいかっていうと、国内経済がバブルにならない範囲で、サービスと合理的な公共投資で経済を成長させて雇用を創出するしかないし、そうすればいいんだと思いますよ。ただ、輸入に必要なだけの輸出はしなきゃいけないと思います。そして企業の規模を維持するためには、海外進出ということです。
ですから、僕がいつも反論してんのは、非常にこう、今まで保護された立場にいてね、すべてのことはうまくいって当然だったっていう人たちが言いがちなんだけれども、「製造業ってのは電力を食い、環境を汚染するので、もう要らない」って言う人たちがいるでしょ? これ駄目ですよね。だって、輸出できなくなっちゃうし、経済というものはモノとサービスの生産から成り立っているのに、そこからモノを除いたら成り立たないという話しです。
それから、TPPはアメリカの利益にのみ奉仕するので、日本は中国とアジア諸国とFTAを結んでいればいいということを言う人がいるんだけれども、今日は詳しいことは申し上げませんけれども、TPPってのは、WTOが停滞してる中で、WTOの実質の代替物ですから、WTOがやろうとして、インド・中国などに阻まれている知的所有権の保護であるとか、資本の問題であるとか、そういったところまでやろうとしてるのがTPPでしょ? 要するに、現在の世界のグローバルな自由貿易体制を律する、新しい体制を作ろうとしてるところですよね。だから、それに対してアメリカの何のかんのっていうのは、非常にコンプレックスに満ちた話なんで、アメリカとはどんどんゴリゴリ交渉すればいいんですよ。これまでの貿易交渉だって、別に完敗してるわけじゃないんで、55対45ぐらいで、勝ったり負けたりしてるわけですよ。それをやればいいんです。もちろんASEAN+6とか、東アジア共同体なんていうのは同時並行的にやってけばいいんで。これはTPPの下部機関みたいな話だと思います。次のスライドお願いします。
というわけで、僕が思い浮かべるアジアっていうのはどうかっていうと、日本の先に太平洋があるんじゃなくて、アメリカがいます、すぐ。太平洋というのは、JRは通ってないけど、汽船が通ってるんで、汽船というのは非常に物流にいいですから、アメリカは実質的に日本のすぐ横にいます。で、軍隊を持ってね、それに大変な政治力、それから経済力を持って。アメリカっていうのは、東アジア諸国にとっては最大のマーケットであり続けるわけです。ですから、この総体でやっていかなければいけないっていうことですよね。
日本の安全保障
この中で、日本はどういう安全保障をやっていったらいいかっていうと、中立を夢見る人がいますけれども、多分、無理だと思いますね。中立するとどういうことになるかっていうと、多分、アメリカは横須賀を使い続けたいって言うでしょう。そうすると、今の日本の軍事力では、それは駄目だって言い切れないですよね。そうすると、どうなるかっていうと、次の日に、中国が、「おまえは中立だと言いながら、アメリカに横須賀を使わせているそうだな。ついては、俺にも長崎を使わせろ」って言ってくる可能性があるわけですよ。沖縄ね、または。そうすると、日本はまた抵抗できないでしょ? そうすると、次の日にはロシアが何を言ってくるかっていうと、函館なんですよね。そうすると、日本は中立って言いながら、実質的には分割されてしまうわけです。だから、中立はほぼ無理だろうと思います。
核爆弾を持てばできるかもしれないって言う日本人増えてるんだけども、核を持つとどうなるかっていうと、日本ってのは、核を1発東京に撃たれただけで終わりですからね。麻痺しますからね。だから、「日本も核を持ってるぞ」って言っても、「じゃあ、撃ってみろ」って敵に言われたらおしまいなんですよ。無理なんですね。核抑止が利きにくいんだな、日本は。だから、中立はちょっと難しいと。それから、自主防衛ね。それも、核が利かない以上、ちょっと無理ですね。
そうなると、アメリカと組むか、それとも中国と組むかっていう、どっちかの選択しかないと思うんだけれども、それはやっぱりアメリカと組んだほうがましだろうと思います。中国と組むと、さきほどお話したように日本国内も一党独裁。アメリカと組むと、時々気持ち悪いけれども、自由で豊かな社会を維持できるということになると思います。次のスライドを。
日本企業の国際化
で、世界に対して出る場合に、どういうメンタリティ、どういう心構えが必要かってことなんですけれども、最初に申し上げたように、数字と性能で売ろうと、売れると思うのは、決定的な、致命的な誤りですよね。このごろの製造業の人たちと、若い人たちと話してみると、こういう発想がものすごく強いですね。なんかね、汚いものに触らずにね、きれいごとでできると思っちゃうんだな。これは法と規則の国にずっと育った人たちの欠陥であって、人と人の関係で売ろうと思わないと無理ですよね。そのためにはやっぱり、誰か一人の代表が長くその国に常駐してないと、無理だと思います。たまに社長が行ってね、相手の大臣と握手して、「じゃあ、新幹線買ってください」って言っても無理ですよ。そこにいかに大使がくっついていようが、無理ですね。
じゃあ、大使館が売り込んでくれるかっていったらば、大使館っていうのは民間企業じゃないですから。で、民間企業ってのは大使館にすべてのことは教えてくれないでしょ? 都合の悪いことは教えずに、ただ、「これだけ言ってください」って言ってね、それで駄目だと、「ああ、大使館が駄目だ」と言って逃げてくわけだから。長く常駐してないと無理です。または、その国の外国人を代表として任命して、高いお金を払ってロビイングをやってもらうか、どっちかですね。
それから、人が悪くなることが必要だろうと思います。振り逃げ、売り逃げですね。まじめ、誠実もほどほどにです。ある国から研修生を呼んだらば、そのあとはその研修生を死んでも離さないっていう、そういうガッツが必要だろうと思います。
あとは、現地の出先にできるだけ決定権を与えるんですね。日本の企業の問題点っていうのは、本社での決定のプロセスが長くかかりすぎちゃって、しかも日本の理論を、論理を押し付けすぎるっていうことです。次のスライドお願いします。
今のは、輸出する場合なんですけれども、次は外国企業を吸収合併する場合ですね。最近、よく吸収合併が増えてますけれども、非常に格好のいい大規模な買収が増えてるんですけれども、僕もいいなあと思って見てるんだけど、だけど、果たしてこれからうまくできんのかなと思うんですよ。例えば、日本板硝子なんてのは社長を外国人にして、一応うまくいってることになってますけれども、うまくいかなかった例はオリンパスですよね。あれは、外国人の社長を金で連れてくれば言うことを聴くと思ってたらば、自分たちの不正を掘り返されて、その外国人が責任を負わないで済むように全部明らかにされちゃったっていうことでしょ? だから、吸収しただけで、外国人が言うことを聞くと思ったら大間違いなんですよね。
それから、これからいろんな会社で問題になってくると思うんだけれども、日本で長い間コンサルタントやってるインド人の若いのがいるんで話聞いてみたんだけども、いろんなね、インドの会社との合併をあっせんしてみても、よく起こる問題っていうのは、日本人の上司が明確な目的意識を持ってないってことですね。何をどうしたらいいか、何をどうしたいのか、自分が考えてないってことです。
それから、たとえ考えていたとしても、「おまえ、ちょっとこれをやっといてくれよ」って言うだけでね、インド人に、「これをやっといてくれよ」だけじゃあ、インド人分かんないんですよね。「これをこういうふうにして、ここまでやってくれ」っていうふうに言わないと、外国人駄目です。
日本の組織ってのは、オン・ザ・ジョブ・トレーニングで、そういうふうにして、もむんです。「おい、これをちょっとやっといてくれよ」で。で、その時事前に教えないでしょ、何をどういうふうにやるかっていうの。外国人は、何をどういうふうにしてやるかってのを教えないで、それができなかったからっていって、そのインド人を非難するのは誤りであって、そういうときに非難するべきは、そういうよく分からない指令を出した日本人の自分自身だということですよ。
また、外国人は簡単に転社しますから、そのリスク管理、リスクヘッジをやっとかないといけない。
それから、社内の組織も変えなきゃいけないです。日本の会社ってのは非常に形式的に動くことがあるから。僕は、いろんな企業が取締役会を英語でやってるって新聞に書いてあるんで、すごいなと思って見てるんだけれども、だけど、ちょっと待てよと思ってね。その取締役会ちょっと見てみたいなと思うわけですよ。で、何が起こってるかっていうと、取締役会とか、理事会とか、そういうものになると、日本人は、何も知らない外部の人たちを理事か何かとして引っ張ってくると、目の前に書類を置いてね、ここに発言要領が書いてあるわけですよね。それで、それを読ませて、会議をしましたっていうことになってるんだけれども、もしかすると、英語でこの発言要領が書いてあるんじゃないかと思うわけです。それでは、外国人とのコミュニケーションは全然できないし、意味がないですよね。それだったら取締役会は日本語でいいんで、日本語のほうがむしろいいんで、外国人の幹部には同時通訳を付けておけばいいんです、イヤホンで。
むしろ問題なのは、言葉よりも、考え方と、それから決定のプロセスですよね。情報をすべて外国人の幹部に出して、それで迅速に決定しなきゃいけないんですよね。組織を変えなきゃいけないと思うんで。僕は、日本の企業が国際化に合わせてどういうふうに組織を変えてるかっていうのを、事例を集めてみたいと思うんだけど、めんどくさいからやらないんですけど。次のスライドお願いします。
最後のテーマ、日本が置かれた経済環境と経営なんですけれども、今、日本の経済全体で起きてることは、例えばバブルのころはちょっとした店に飲みにいきますと、一人1万円当たり前だったでしょ? ところが、現在、仲間内で飲みにいくってことになると、一人3,000円で当たり前でしょ? 若い連中だったら、2,000円、1,500円でやりますよね。バブル時代の半分以下になってるんですよ。
それはデフレなんだけれども、それで企業が特に困ってるわけでもないんでね。何が起こってるかっていうと、やっぱり価格体系全体の修正が起きてるんだろうと思います。高度成長のころ、それから特にバブルのころ、値段がどんどん上がっていったでしょ? 本当に不当なほど。それの修正が行われているんだろうと思います。で、その中で企業は、全体の価格体系が下がっていけば、利幅は確保できるわけだから。ところが、そん中で、交通料金だけがいやに高いんですよ。これは困るんですよね。特に外国人のお客なんかが来たときにはね。
そういうわけでものごとというのは、見る角度をいろいろ変えてですよ、それから枠を取り払って考えると、新しい可能性が見えてくるっていうことです。これは北極の上空から地球を見た地図なんですけれども、ご案内のとおり、ここをめぐって新しい可能性が開かれようとしていて、この氷が温暖化でどんどん融けてるんだそうです。今年寒いからどうだったか知らないけど。この氷が融けますと、このロシアの沿岸を通って定期航路ができるのですね。例えばハンブルグを出発して、ずーっとこうやってカムチャツカを通って、津軽海峡か何かを通っていくと、アジアの市場に行けます。これは、スエズ運河を通っていくよりも1週間ぐらい早い。そうしますと、料金も安くなるんですね。それから、ニューヨークのほうからも同じであって、こっちのほうからこうやって行って、こう行きますと、パナマ運河を通るよりもやっぱり1週間ぐらい短いんですね。ですから、新しい可能性が開かれるかもしれないわけです。僕は多分駄目だろうと思ってますけれども、例えばね、函館のあたり、あの広い海岸にハブになる港を造って、そこで荷物を積み替えてアジア各地に持っていくとかですよ、いろいろ、方々でそういった新しい可能性が開けたり、閉じたりしています。
というわけで、今日のお話を終わりたいと思います。何か質問とか。
司会 そうですね、ちょっと時間が。どうしてもお聞きになりたい質問ございますか。よろしいですか。それじゃあ、この場はここで終了したいと思います。大変長時間にわたって、とても興味あるお話をしていただきました河東さんに、皆さんで拍手をもってお礼をしたいと思います。どうもありがとうございました。
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/2121
コメント
河東さんのメールはいつも興味深く読ませていただいていますが、本メールのお話は特に有益でした。貴兄が世界を歩き、考え続けて来られた成果であろうと思います。益々のご活躍をお祈りします。
河東節は刻刻と磨きがかかってきましたね。守備範囲の広さは、野球でいうと、投手・捕手・内外野手全てをこなしている感じ。もともとはロシア中心のスペシャリストでありながらいつの間にか、とんでもないジェネラリストになってしまった。僕は首相の知的条件として、経済(国際経済)・国際政治・歴史が分かる人物を挙げていますが、それにぴったり。河東さんのリーダシップについては全く不明ですが。河東さんのレポートはいつもシャッポを脱ぎます。今回はシャッポならず全部脱いでしまった。なによりも卓上知識でなく、世界を股にかけて情報を収集し、その上で独自の視点で分析しているのがすばらしいですね。学者たちの難解な(何を言っているのか分からないものも多々あり)文章とは違い、内容が躍動していて、面白く、エキサイティングです。もっと働いてもらうためにも、健康には注意してください。いつも参考にさせていただいています。謝謝
大変面白く読んだ。この数年の中で、私が読んだ物の中でも、今の世界の動向と人間と文化を知るのに、こんなに分かり易く、しかも自然な説得力があり、際立っていました。これからもこのレベルでの読み物的解説に大いに期待しています。