新次元を開く新技術――3D印刷術、チタン大量生産、脳波と機械の接続
(まぐまぐ社から出しているメルマガ「文明の万華鏡」3月号に掲載したものです。)
ソニーやパナソニック、そしてシャープはテレビと携帯でサムソンに負けてあっぷあっぷしているが、どうも今の世界はかなり大規模な技術革新の時代にいるような気がしている。これの波頭でサーフする者は、長期にわたっての地歩を築くことができるかもしれない。
(チタンの大量生産)
最近の英誌Economistで読んだのだが、アルミニウムというのは以前、精錬が難しくて非常に高価な金属だったそうだ。今のチタンとかタンタラムがそうなのだが、これらの金属もアルミニウムと同じく、電気で大量に安価に精錬できる日が迫っているらしい。そうなると、自動車の軽量化などにチタンは絶大な効果を発揮する。需要は急増するだろうし、チタンの特性を生かした新しい製品が続々と登場することだろう。日本、例えば新潟県の燕市などには、世界最近のチタン加工技術が集積していて、iPodの裏蓋にも使われたのだが、最近評判の3D印刷術でチタン粉から複雑な形状のチタン製部品を作成するなどの技術でも先行しないと、優位を失いかねない。
(植物工場)
最近評判なのは、「植物工場」。温室と水耕栽培を組み合わせたようなもので、狭い面積の温室に土壌をもった棚を2~3段しつらえて、腰を屈めずに農作物の栽培ができるというものである。オランダがこの「工場設備」や管理システムを生産することに長けていて、日本の企業はやっと追いかけはじめたところである。因みにオランダは農産物輸出額では米国に次ぐ世界2位、輸入額を引いた輸出絶対額では世界1位なので、その秘密のひとつは植物工場で付加価値の高い花卉や野菜を作っていることにある。日本もTPPに入るのだから、守ることばかり考えず、TPPを積極的に利用することを考えて、農協も植物工場で儲ける体制を早く取ったらいい。30万の農協幹部、職員、そしてこれに依拠する議員達を敵視せず、彼らも食っていくことのできる前向きな体制を作っていこう。
(ロボット)
チタンは素材の話しだが、大きな需要を生みそうなモノとしてはロボットがある。ロボットで一番需要がありそうなのは、軍用、そして180度違って介護用だ。アフガニスタンで米軍が多用している無人機はロボットの一種だし、ロボット歩兵もフランスなどで開発されている。海中では、無人掃除機「ルンバ」で名高い米国のiRobot社などが開発した無人観測ロボットが無数に、漂ったり、浮いたり沈んだり泳いだりしている。尖閣では日中のロボットが上陸を競って戦うことになるかもしれない。介護用には、頭脳から筋肉へと流れる電流をキャッチして動く筋肉補助装置が(大和ハウスがHALと名づけて販売している)、これから大きな需要を呼ぶだろう。
(脳波)
サムスンは使用者の目の動きをキャッチして反応するスマホを発売したが、究極的には脳波を読み取る機能が大きな技術革新を起こすだろう。既に試作されているが、運転者が右に行きたいと思っただけで自動的に右へ行く自動車であるとかだ。軍用で言えば、相手司令官の思索を読み取るデバイスであるとか、敵兵士の頭脳を攪乱させる電波発信機、これを民需にすると痴漢接近警告装置(機械ばかりやけに進歩して、人間は変わらない)であるとかがある。そして究極的には、まるでコンピューターのように、人間Aの頭脳の記憶と思考機能を人間Bの頭脳にコピーしてしまうとか、削除して「初期化」するとか、一部だけを改変して狼男みたいな行動をさせるとかが可能になる。
(空飛ぶ自動車)
21世紀中には、空飛ぶ自動車を実現してほしい。それも「ジェット・エンジンと翼」のような原始的なものではなく、映画に出てくるような「重力中和技術」で浮力を得るものである。重力中和技術ができれば、飛行機の離陸、着陸時の事故もずいぶん減るだろう。
もっとも、目を空に上げると無数の空飛ぶ自動車がハエのようにいつも動いているというのもまた、鬱陶しい景色ではある。衝突事故も起きるだろうし。
ところで、フランスの夢想家(以前は官僚、そして銀行家だった)ジャック・アタリの「21世紀の世界」には、技術だけではなく、もっと面白いいくつかの可能性が列挙されている。たとえばーーー
・センサーが、素材、モーター、機械、液体、橋、建物、ダムに埋め込まれ、遠隔操作によって常に監視できるようになる。製品、機械、人間にもそれぞれ特定の周波数を割り当てたタグを取り付けることにより、企業は、工場の品質管理、生産性向上、流通ネットワークの改善を図ることができるようになる。こうして2030年ごろには、<超監視型社会>が形成される。
・イタリアでは北イタリアと南イタリアの分離、イギリスではスコットランドの独立宣言、インドやインドネシアもバラバラになる可能性がある。アフリカやアジアの、植民地化によって人工的に作り出された国家は粉々になる恐れがある。今世紀末までに100以上の国家が、新たに誕生する可能性がある。
・市場経済はまもなくすべての公共サービスに触手を伸ばし、国家の最後の特権である統治権までも各国政府から奪う。
・もともとグローバルな性格をもつ市場経済は、もともとローカルな性格をもつ民主主義の法則に背を向ける。クリエーター階級がメンバーである富裕層は、費用対効果が得られないと判断すると、さっさと移住する。(そして国は収入源を失う)
・2050年ごろには、国家のゆっくりとした解体が始まる。契約がますます法律をねじ曲げる。傭兵は軍隊や国家警察を凌駕し、取引が司法に優先される。政府は数の減った公務員と信用を失った議会に支えられ、圧力団体に操られる。このような冴えない政府は、世間から真剣に受け止められることのないパフォーマンスを続けるが、その頻度は減っていく。将来、世論は政治の動向にもあまり関心を示さなくなる。
・ひとつの国に継続的に住む人物とはもはや、外に敵が多すぎる人物、ぜい弱な人物、年寄りと幼い者など、なんらかの理由で定住を余儀なくされた者たちだけである。
・企業の所有者、資産を保有する者、金融業や企業の戦略家、保険会社や娯楽産業の経営者、ソフトウェアの設計者、発明者、法律家、金融業者、作家、デザイナー、アーティストなど、数千万人ほどの、グローバルに活動する「超ノマド」(注:「ノマド」(nomad 遊牧民)は日本でも一時流行語になった。自立する能力を持って、世界をまたに生きるエリートを意味している)が世界を牛耳る。彼らに地理的・文化的基盤はない。
・2040年、超ノマドのすぐ下の層には、40億人の定住サラリーマンとその家族たちが存在しているだろう。これはホワイトカラー、商人、医者、看護婦、弁護士、裁判官、警察官、行政担当者、教師、デベロッパー、研究所に勤務する研究者、技術者、技術労働者、サービス業で勤務する者たちである。彼らの大部分には、決まった勤務先はない。
(注:一部、原翻訳を変えてある)
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