ウクライナ右派の内紛 情勢安定化への予兆?
今のウクライナ情勢における、いくつかのトレンドをまとめておく。
・ロシアは、クリミアを手放さないであろう。米欧ともクリミアのために制裁を強める気はないようだ。クリミア住民の大半がロシア編入を望んだことは事実なので、国際社会としてはそれをとっかかりとして国際法的につじつまを合わせることができれば善し、という程度のことになるだろう。
・他方、3月クリミアでの住民投票めがけて「ロシアに入れば給料が2倍になる」というプロパガンダ(実際、軍人・公務員の給料水準は2倍以上異なる)が行われたことは、今後ロシアに大きな負担となる。軍人・公務員以外は不満を持つだろうし(特にクリミア・タタール人)、クリミアだけ優遇すればロシア国内で不満の声が起こる。
ロシアからは資本流出が激化しており、これは投資の一層の低迷を招くし、ルーブル下落によるインフレ激化(10%を超えるであろう)は、ロシア人の生活水準を低下させるだろう。
・ロシア語人口の多いウクライナ東部をめぐる情勢は、今のところ鎮静化の方向にある。それについては、次の要因がある。
①ウクライナとの国境に増強されていたとされるロシア軍が、再び減少の方向にあること 。
②ヤツェニュク首相が、ロシア語を尊重する姿勢を確認する等、東部を宥める発言を繰り返していること。
③キエフ政府の一部を構成する「右翼」は、その強い反ロシア主義と暴力的体質から、ロシアのクリミア、ウクライナ東部介入の口実とされてきたが、ここにきて政府ポストに就いた右翼分子が在野の右翼分子を弾圧・除去する動きが看取されること。
在野の右翼は3月25日を期限として武器の供出を命じられたし、これを無視して武器を用いて住民を威嚇してきた在野の右翼有力者Muzychkoは3月25日、何者かによって暗殺されている。同人支持者達はこれをアヴァコフ内相(右翼)の指示によるものとして、その辞任を求めている。
③ウクライナの政治と経済はこれまで、東部の工業地帯を根城とする有力財閥に牛耳られてきた。一時、情勢のコントロールを失っていた感のあるこれら財閥が、ここにきてキエフの政府と手を握り、情勢の安定化に乗り出している。最有力財閥のアフメトフはドネツクで、Taruta新知事(これも財閥)とともに、ドイツのシュタインマイヤー外相と会っている(3月24日付ロイター)。
④今後の収拾ぶりについては、ロシアはウクライナの「連邦化」を提案している。しかしこれは、東部ウクライナに半分独立国家的な地位を与えて(連邦と言うより「国家連合」の形態である)ロシア側に引き寄せることを狙いとしていよう。
これに対して東部ウクライナに利権を有するウクライナの諸財閥は、ロシア資本の浸透を怖れており、ロシアの言う「連邦化」には乗らないであろう。彼らは、「地方自治の強化」(税配分など)を求めていくことだろう。
・国際情勢では次の諸点が目に付く。
①米ロ間においては、核兵器削減のための査察、麻薬取締情報の交換等、実務関係は継続されている。ケリー長官とラヴロフ外相は難しい局面での会談を重ねるごとに、(難しい上司を持ったことに対しての)共感が芽生えているようである。「米中より米ロで世界を仕切っていく」という1980年代の幻影がほの見える。
②欧州は「新旧」に利害が分かれる。英独はロシアと強い経済相互依存関係にあって制裁をしぶっている一方、フランスはドイツが対ロ関係で抜け駆けすることを警戒しているようである。他方バルト三国、旧東欧諸国にとってはロシアの脅威が再びリアルなものになりつつある。ドイツ、フランスは19世紀の対ロ協商、バランス外交、ポーランド分割の時代に先祖がえりをしている感がある。
③3月27日付NYTではIan Bremmerが、「オバマは実現もできない制裁強化などを叫ぶことで、米国の信頼性を傷つけている。言葉が先走り、ロシアを無用に刺激している」との趣旨の批判を展開しているが、東ウクライナの安定とウクライナの単一性を保持することができれば、オバマの面子は保たれるであろう。
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