TPPは中国排除が目的なのか
TPPに台湾、中国が加入を申請した。それに対して、「TPPは中国を締め出すためのものだ。日本は体を張って中国加入を阻止せよ」的な議論がある。別に中国加入を推すわけではないが、何が何でも阻止せよという議論には違和感を持つ。
TPPはWTOのドーハ・ラウンドに抵抗する中国、インド等は脇に置いて、できる諸国だけで貿易・投資自由化の一層の深化で合意してしまおうという意味を持っていた。中国が加入するのは構わないが、その時はTPPの自由化に適合するように国内の改革をしたうえで、ということだった。日本にとっては、日米自由貿易協定をしばらく結ばないでいられる口実になるというメリットもあった。
ところが米国がTPPから離脱したことで、話はずいぶん違ってきてしまった。「TPPに加入すれば対米輸出が容易になるし、米国からの投資も来やすくなる」ということではなくなってしまったのだ。今では、米国のいないTPPにどんな意味があるのか、考えてみるとよくわからない、というのが実情ではないか?
米国の友人が教えてくれた一つの調査https://www.thechicagocouncil.org/research/public-opinion-survey/2021-chicago-council-surveyでは、外国からの輸入やグローバリゼーションについての支持率が以前より高くなっている。中国との貿易は米国の安全保障を低下させるとする者は79%に上っているが、「貿易は生活水準向上にプラス」が75%、「アメリカ経済にプラス」が75%になっている。しかし、米国がTPPにすんなり復帰してくることはもうないだろう。民主党の大きな支持基盤である労組が、おそらく首を縦に振らないだろうからだ。そしてトランプ政権下で、日米間の自由貿易協定締結交渉は既に行われていて、2020年1月には「日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定」として発効している。
だとすれば、TPPの蘇生をはかるために大変な外交努力をする価値はもうないだろう。中国がアジアで大きな顔をしたいなら、RCEPの発効を待てばいいだろうし、自由貿易を世界で広めたいのならWTOのドーハ・ラウンドを蘇生させればいいだろう。
日米欧は中国との通常の貿易は拡大してもいいが、西側の技術、カネ、人を使って中国が他国の領域・権利を侵し、西側の企業を欲しいままに買収するのではたまったものでない。それについては、例えば先端技術関連のサプライ・チェーン確保について、台湾、メキシコ、シンガポール、日本、カナダ、大洋州、インドなどを核にした新たな取り決めを作る方に努力を集中した方がいいのではないか?
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