米国の中国 ロシア突き放し戦略 Third Offset Strategy
(米国ではトランプ候補が、「アメリカ第一。金を払わない同盟国からは軍を引き上げる」と言っている。しかし議会では、国防省が提出した空前の予算案をこれから審議する。その心は、軍備で追いついてきた中国、ロシアを再び突き放すということで、国防省はこれをThird offset strategyと呼ぶ。トランプが大統領に仮になっても、この予算を廃止することはできまい。以下は、まぐまぐ社から発行しているメルマガ「文明の万華鏡」の4月号からの抜粋)
米国防省が、アフガン・イラク戦争後の世界を見通しての軍備構想を具体化しつつある。これまで米軍は、本国の司令部と海外の前線をITで結ぶことで、兵力の統合運用を可能とし、他国に対する絶対的な優位を築いたが、それは中ロによって浸食されつつある。中ロは自身でも軍のIT化を進めると同時に、米軍のGPS、通信・司令ラインを電波妨害する能力を備えるようになったのである。
これに対して米軍は、また一大技術革新で中ロをうっちゃろうとしている。これは、"Third Offset Strategy"と名づけられ、2017年度(2016年10月~2017年9月)政府予算案はこの戦略の具体化に取り掛かる。2月2日ワシントンのEconomic Clubでのカーター国防長官のスピーチによれば、政府予算総額のうち半分近くの5827億ドルを国防省が確保した。右スピーチでカーター長官は次の点を述べている。ロシアを「主敵」と見なして欧州方面の守りを強化するとともに、アジア、イラン等にも目を配る、野心的なものである。
なお、最近のワシントンでは核兵器近代化(小型化・多種化)についての議論が盛んになっているが、カーター長官はこれに言及していない。
1) 欧州方面でロシアの攻勢を抑止する。これをEuropean Reassurance Initiativeと呼び、このための予算を昨年の4倍、34億ドル計上(言葉の割には大したことがない)する。これにより、米本土からのNATO欧州諸国への部隊ローテーション派遣も増加する。
2) 「アジア・リバランス」を継続する。
3) 北朝鮮
4) イラン
核合意に関係なく、イランの悪性な策動(malign influence)に対して地域の友好国、同盟国、特にイスラエルを守る。
5) テロとの戦い、特にISIS
6) サイバー空間、宇宙、そして電子戦も重視。
ロシアを「主敵」と見立てることは、核ミサイル、欧州向け陸軍・空軍のための予算増強に役立つ。他方海軍、海兵隊にとっては、アジア重視、中国の脅威への対処の方が好ましいだろう。しかしここでは中国は「主敵」と呼ばれていない。ロシアに比べて核ミサイルの数は少ないし、米国との経済関係が米ロ関係とは比べ物にならないほど緊密だからである。
Third Offset Strategyの目玉は何か? それはどうも、無人化、ロボット化のようで、Human-machine collaborationと言う名で呼ばれている。昨年11月レーガン・ライブラリーでのフォーラムでBob Work国防副長官は、「この1年、中ロとの戦闘がこれからあり得るとの前提で考えてきた。Third offset strategyとして、中ロに米国と戦う意欲を萎えさせてしまうような軍備を考える。Human-machine collaborationを目指す」と述べた。具体的には、
1) 市販のセンサー等を多用して精密度を高めた誘導爆弾
2) 全天候型の小型高速ドローンの大群
3) 偵察用等無人多目的舟艇
4) レール・ガンによるミサイル撃墜
等々で(どうもぱっとしないのだが)、これをボストンやシリコン・ヴァレーを中心に、民間企業との協力で開発していくとしている。
また「宇宙戦」に力を入れる姿勢を示している。軍需企業にとって、無限の需要が生まれようとしている。冒頭、カーター国防長官のスピーチでは、「過去には、宇宙に軍備競争を及ぼさないように努めた時もあったが、今ではそうしていられない。これからは戦闘が宇宙に及ぶことも考えなければならない。そのため、昨年は50億ドルの新規投資を行ったが、17年度にはこれを増強する(注:数字を挙げていない)。これにより、公海と同様、オープンで自由な宇宙を確保する」と述べている。
僕が子供の頃、「宇宙大戦争」などというSF映画があって、胸を躍らしたものだが、それから60年(!)もたって、やっと宇宙でのレーザー合戦が現実のものになってきた。地上で撃ち合いをやられるより、よほどましだ。これからは宇宙国際法、公海に代わって公宇の時代である。領空は宇宙にまで拡張されて、無害通航権とかが条約で定められることになるだろう。
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