中国不動産バブルが崩壊すると日本は
リーマン・ブラザーズ金融危機を乗り切るために中国政府が40兆円分もの景気刺激策を発表して以来、これが投資・建設過熱と不動産バブルを生むことを警告する声は絶えなかった。6月1日中国人民銀行も、地方政府傘下の投資会社(日本の第3セクターに相当する。中国では「プラットフォーム」[地方融資平台]と言っている)が抱える債務額は2010年末で約180兆円(GDPの3割強)だとして警告を発している(12日付の日経がキャリー)。
毎日中国経済は、北京での不動産価格は1年で20%下落したとしており、この傾向が続けば「プラットフォーム」に貸し込んでいる中国の大銀行は軒並み多額の不良債権を抱えることになるだろう。バブル崩壊が始まったのかもしれない。
中国経済は2000年代前半、輸出と建設の急増で経済成長を実現したが、その後貿易黒字の比重は減って、建設が経済成長の過半を引っ張る体質になっている。建設を中心とする投資は中国GDPの約40%、即ち2兆ドル相当に及ぶ。バブルが弾けて民間企業による建設が停滞すると、その影響は並大抵のものではなくなる。
そうなると、何が起きるか?
(1)中国では消費はGDPの40%以下であり、先進国に比して比重が小さい。にもかかわらず、成長率の鈍化で消費の絶対額はさらに落ち、外資の流入も直接投資、間接投資両面で激減するだろう。2009年中国の資本・金融勘定は1091億ドルの黒字になっているが(うち365億ドルが直接投資の純流入。国家外為管理局SAFE)、これはGDPの約2%に相当する。この分とそれの乗数効果分を合わせると、それだけでGDPの5%以上が失われる可能性がある。
(2)海外への資本逃避が増大する可能性がある。2008年中国から海外への直接投資は559億ドル(JETRO)だったが、これが増加して1000億ドルになると、GDPの約2%に相当し、この分とそれの乗数効果分を合わせると、上記(1)と合わせてGDPの10%程度が失われる可能性がある。
(3)資本が流出すると、元レートは下降しよう。これは現在でも食料品を中心に進行しているインフレを悪化させるだろう。
そして、国内での生産原価がインフレで増大するため、元レートが下降するにもかかわらず、輸出は伸びないだろう。
(4)こうして消費も投資も輸出もだめなら、GDPの減少はかなりのものとなり得る。
(5)中央の大銀行、地方の銀行は表面上は救済されるだろうが(上記日経記事は、地方の投資会社を整理する一方で、不良債権を引き取る会社を設立、同時に返済原資確保のために地方政府が債券を発行するアイデアに言及している)、今後銀行融資は中期にわたって低調に推移することになるだろう。
(6)インフレ(ソ連崩壊直後のようなハイパーインフレになるほどにはマネタリー・ベースは大きくなっていないが、それでも年間20~30%のインフレはあり得る)、雇用減少によって社会不安が増大し、社会主義的平等性への回帰を求める声が高まろう。そのような運動は現在既に、重慶で開始されている。
配分を求める声は、外国資本に対しても当局及び大衆の双方から、強く向けられる可能性がある。そのような情勢が現出すれば、来年の共産党大会は延期されるだろう(と言うか、いつまでたっても開催時期が発表されない)。
(7)間接投資が700億ドル引き上げ、中国人自身による海外への資本逃避が1000億ドルに上るとすると、計1,700億ドルの資本流出となる。だが中国の外貨準備は2010年末で2.8兆ドルあるのでこの面では中国自力での対処が可能であろう。
(8)しかしGDPが大幅に低下して社会不安が発生した場合等は、どうするか? 国際収支が大幅な赤字になるのでもなかろうから、IMF等による救済メニューでは意味がない。外資が中国での操業を続け、輸出を続けることが一番の救済策になるだろうが、そのためには治安と物流、金融等が確保される必要がある。
(9)中国経済が崩れた場合、それはどのような国際的影響を及ぼすだろうか?
これを考えるには、「中国は多くの先進国にとって生産基地ではあるが、市場としてはまだこれからの存在であること」が基本となるのではないか? 例えばドイツは2009年輸出の4.5%を中国に向けているが、その対中貿易は大幅な赤字である(対中輸出と輸入は36:55のオーダー)。
(10)日本にとって中国は輸出相手No.1であるが、その多くは最終製品よりも、中国で操業する日本企業向け機械機器と中間財の輸出なので、工場を第3国に移転すれば代替が可能である。
(11)中国の不動産バブルが崩壊すると中国ばかりか世界までが破滅しかねないような論調が見られるが、上記のとおり、それは先進国にとってはマネージ可能なものだろう。
しかし中国の政策は保守化し、外資への対応も厳しくなって、中国経済の成長はこれから長期にわたって鈍化し、配分をめぐる社会の緊張が継続することになるだろう。リーマン・ブラザーズ金融危機で破綻を来たし、米経済の回復がならないうちに、中国の内需拡大がバックファイアーしたというのが基本的構図だが、これは開放を認め外資を導入することで富を築こうとした鄧小平の路線が否定されたように見える。
もっと抽象的な言い方をするなら、現代中国は共産党の凝集力で急速な発展を遂げることができたが、利益配分が共産党とその関係者に偏在したために内需不足を来たして破綻したのでないか。プラザ合意後の日本と同じく、中国も内需拡大が躓きの石となっている。
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コメント
中国の抱える悩みは根深いものがあります。IMFの統計で中国の失業率を見ますと2010年時点で4.1%と発表されています。中国は2009年で登録失業率4.3%と公表しましたので2010年のデータも登録失業率だと解釈して間違いないはずです。ところで登録失業者とは、法に定められた労働年齢内で労働能力を持ち、就職の意向のある労働者が、自分の戸籍簿と身分証、身分を証明できる書類を現地の労働保健機関に提出して登録失業者と認められると言うのですから、全労働人口に対する失業率とは全く異なるものです。実際の失業率はまともに公表されていませんが、人民元の為替レート引き上げをアメリカから要求されたとき温家宝首相が2億人が失業すると言いました。これはオーバーとしても政府系シンクタンクの社会科学院の調査では9.4%と発表しているようなのでそんなところかも知れません。とにかく中国の発表する数値はGDPすら怪しいと李克強すら認めたというウィキリークスでも言われていますので本当のところは闇の中です。
資本収支のプラスが減じますと外国資本が投資を引き揚げていくわけですから雇用条件は悪化します。リーマンショック以前のアメリカはさかのぼること3年間で毎年日本円に換算して100兆円にも達する経常収支の赤字を出しながら家計が支出を伸ばしていたのですから、2009年以降住宅着工が増えないうえ、失業率もなかなか減少しませんので内需は弱含みにならざるを得ません。これは中国の輸出産業に多大な悪影響を与えます。人民元のドルペッグを保持しなければ輸出は持ちませんし、それをすればインフレに悩み、そこに住宅バブルの崩壊が来たときは共産党の屋台骨がぐらつく恐れが党指導部の悩みでしょう。
日本の対中貿易はジェトロのデータを見ても財貨の輸出が2010年度1491億ドル同じく輸入が1528億ドルですから、純輸出は-37億ドルにすぎません。名目GDP比率で言えば-37/5兆4988億ドル×100=0.07%(日本の名目GDPはIMFから引用)ですから日本にとっては中国の無視できる大きさです。
”中国の不動産バブルについてのご指摘について”
地方政府の金融会社(LGFV)を通じた不動産向け貸出は、日本の1980年代の銀行の迂回融資と同じような性格のものと思います。
中国政府、人民銀行は、この問題を大変心配しているようで、このところ預金準備率を急ピッチで引上げています。
ご指摘のように、世界経済全体が、サブプライム金融危機後、中国経済に依存(特に東南アジア諸国)しているだけに、欧州問題と合わせて、中国経済に対する不安が、世界の株式市場に大きなダメージを与え、実体経済にも及ぶ危険があると思います。