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世界はこう変わる

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2011年4月12日

2011年3月のアメリカ――印象記4 (経済はだいじょうぶ)

日本ではアメリカの経済はもう駄目になったと思われていて、「ドル体制の崩壊」的な新刊書がひきもきらない。でも考えてみれば日本の地震と同じで、先回のリーマン・ブラザーズ金融危機で多くの資産は失われたものの、GDPというものは資産額というストックではなく付加価値(利益に近い)生産額というフローではかるものなのだから、人間が働いている以上、それほど落ちるものでもない。

2年前訪れたアメリカでは、友人の多くが引退生活用に貯めておいた貯蓄の3分の1をなくしたと言ってしょぼんとしていたし、ハーバードは厳冬の最中なのに、暖房をしぼっていた。だが2年後の今度は違った。貯蓄の3分の1を失ったと言っていた友人たちも、株価が戻って貯蓄額も元に戻ったと言っていたし(つまり失ったと言っても、理論上の話だったのだ)、空港に降り立っても、街を歩いてみても、昔通り、いや以前よりかえって小奇麗になったアメリカだったのだ。アメリカ社会を支えてきた基本的な心構え、つまりモラルや勤労精神は健在だし、経済もしっかり存在しているということだ。

そのあたりを、米国に長く住むある日本人銀行家はこうまとめた。
①ワシントン周辺の不動産市況は以前に戻りました。不動産市況は経済全体の状況に先行するものです。しかしレストランとか商店での客足はまだまだという感じがしますし、店をたたんだところも多数ありました。何よりも、アメリカ経済を大きく支えるべき全国の住宅市況にまだ弱いものがあります。

②名目のGDPは金融危機以前に戻っています。2009年が底でしたね。そのあとは年実質3%のペースで伸びてきています。企業は雇用を抑えていますから、失業率は高いままなのですが、企業の財務状況は回復しています。輸出は好調、輸入は控え気味ということです。

③アメリカ経済はもちろんダメになったわけではありません。ブッシュ政権のポールソン財務長官が金融危機に立ち向かって以来、危機への対応にはすごいものがありました。とにかく速かった。損失を吐き出してしまうのが速いんですね。GMなども筋肉質になりました。株価が戻ると、経済全体で好循環が始まります。アメリカの消費の35%は株価に依存していますからね。

④そうなんです。結局地震と同じで、資産を随分失いますが、GDPはフローの総計ですから、資産より速く立ち直るのです。

いつ引き締めへ?
ということで、アメリカ経済の立ち直りはアメリカ国内ではもう常識といったところ。今の話題は、連銀がいつ引き締めに転ずるかということだ。いつ利上げするかという問題の前に、以前の日本銀行の政策から採用した「量的緩和(QE2)」を予定通り6月にやめるかどうかということが焦点になっている。この点について、連銀に近い筋はこう言っていた。

①リーマン・ブラザーズ金融危機のあと、連銀は通貨を大量に供給してきたわけだが、失業率が高かったのでインフレが起きるはずもなかった。物価上昇率はむしろ下がったのである。今でも失業率は高いうえに賃金水準が抑えられているので、物価上昇はガソリンくらいにとどまっている(注:そう言えば、CVSで買ったビタミン剤も昔と同じく日本の半分くらいの値段だった。他方、地下鉄は2年前より2倍以上になっていたが)。食品等でインフレ傾向が見られると言う者もいるが、データでは確認できない(これは、FEDの物価統計が生活感覚を正しく表す物品をカバーしていないことにもよる)。

②このような状況の中でQE2をやめると、失業率が高止まりし、失業者の技能が失われてくるだろう。インフレ傾向が明らかになったら、利上げすることになるだろうが。

上記の日本人銀行家はこう言っていた。
「6月にQE2はやめるとしても、利上げをどうするかという問題があります。でもインフレがまだ経済にとってのリスクになっていませんから。他方、QE2にしても、簡単にはやめられない事情があります。現在米国債の買い手の半分は、QE2を使っての連銀ですから」

そうは言っても、やはりインフレ
ものによっては、物価は以前のとおりだが、レストランでの値段はやはり上がった。日本で言ったらGustoあたりに相当するFridayのチェーンでは、スープがなんと5ドル、サラダが5ドル、分量も少ない。日本だったら350円くらいの代物だ。
つまり、1ドル=70円または70円以下だということ。去年10月モスクワで入ったFridayより高い感じがした。

州財政逼迫の背景
この頃ウィスコンシン州などで表面化しているが、州財政が逼迫して地方公務員と知事との間で待遇削減をめぐる争いなどが起きている。その背景は、①リーマン・ブラザーズ金融危機後の不況で、固定資産税など地方税収入が落ちた、②州政府は連邦政府と異なり、赤字補填のための州債を発行することは許されていない、つまり「建設州債」しか発行できない、というところにあるらしい。
アメリカの州は権限が大きくて、建国当初は州独自の紙幣も刷っていた。このような昔に帰れという声が、一部に見られるようになっている。

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