欧州では「柔軟反応戦略」はもう過去のもの? するとアジアでは・・・
冷戦たけなわのころ、核戦略をめぐってはいろいろ変な用語がとびかった。たとえば「相互確証破壊」とか「柔軟反応戦略」(または「核戦争の梯子」)とか。非人道的だった、頭でっかちだった。それでも、一抹の真理を具えていた。
そのうち柔軟反応戦略と言うのは、核ミサイルはその飛距離によっていろいろのものを手持ちにしておく、相手が使ったものと同じもので報復することで、米ソが直接大量の長距離ミサイルを撃ち合う事態に至るのを避けよう、というものである。
まあ、話せばもっと長くなるのだが、ここで言いたいことは、この「柔軟反応戦略」を欧州ではもう用いていないのではないかということ。欧州と言えば1979年頃には、ソ連が「中距離核ミサイル(INF)」 SS-20を配備したということで大騒ぎした。ソ連がこれを欧州に向けた場合、欧州(特にドイツ)はこれに見合うミサイルを持っていないので、ソ連の脅迫に容易に屈してしまう、米国がソ連から報復をくらう危険をおかしてまで欧州を守ってくれる保証はないではないか、欧州も中距離核ミサイルを持たないといけない、ということだった。その結果NATOがPershing-2という中距離ミサイルを欧州に配備する構えを見せたため、ソ連は1987年米国と、SS-20とPershing-2双方を全廃する条約を結んだのである。
こうして当時は「柔軟反応戦略」が教科書的とも言えるほど模範的に適用されていたのだが、今のNATO(特にドイツ)はロシアはもう脅威ではないとなめきっていて、柔軟反応戦略自体についても博物館行きだと思い込んでいる節がある。ドイツの一部には、米軍がドイツに持ち込んでいる「戦術核」はもう米国に引き取ってもらってかまわない、とする声が出ている。
アジア太平洋では、1年前に核弾頭搭載の米巡航ミサイル「トマホーク」が撤去されたことが記憶に新しい。こうなると、例えば北朝鮮がその核ミサイルを日本に向けてきた場合、米国による抑止、あるいは報復の手段としてはグアム島の爆撃機が持っている核弾頭、あるいは米原潜からの核ミサイル、あるいはさらに米本土配備の長距離核ミサイルで対抗するしかない。だが爆撃機によるもの以外は、ロシアが自国に向けられた攻撃だと誤認する可能性がある。
だから「トマホーク」の撤退をみすみす容認したのは、日本として失敗だったのだろうと思う。極東では、柔軟反応戦略がまだ必要だ。それどころか、これから益々そうなる。核弾頭つきトマホークはもう戻って来ないが、せめて通常弾頭つきトマホークの米原潜、あるいは日本自衛隊の潜水艦(最近、ディーゼル・エンジンでも長期間の潜航ができるようになっている)への配備を進めるべきだ。
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コメント
「柔軟反応戦略」を正しく理解するためには、大量報復戦略との対比の視点が不可欠です。
そして問題なのは紛争の規模であって、ミサイルの射程や核の運搬手段は瑣末な事柄にすぎません。