中国の再台頭とアジア情勢
「元日本外交官のつぶやき」第1回
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(これはブログ開設前、メールで配信していたころの記事)
「中国の再台頭」が世界中で議論されていますが、私は多くの中国の国民が20世紀の苦難を克服して、豊かな生活をできるようになってきたのは本当に良かったと思っています。他方、現在のアジア情勢は、かつて中国がアジアの盟主であった時代とは異なり、いくつかの大きな勢力が微妙なバランスを維持しています。太平洋を除去して考えますと、アメリカは経済的、文化的にもアジアの重要な一員ですし、日本、韓国、ASEAN諸国の力も中世の時代とは比べ物にならないほど大きなものになっています。
これらの諸勢力が維持している微妙なバランスの中で、伝統的な文化と現代のポップ文化がブレンドした「東アジア文明」とも称すべきものが、東アジアの大都市では生起しつつあります。都市の景観、人々の服装は似たものになり、ロシアやアメリカのような貧富の格差が大きい社会とは異なる、中産階級を中心とした豊かな社会が築かれようとしています。その中で、青年達は健全な意味で個人主義化しつつあり、自分の目でものごとを観察し、判断するようになっています。
日本はこの十五年、円がドルに対して二倍に切りあがったことの後始末で追われてきましたが、企業のリストラ、銀行の健全化、中国への生産移転に伴う輸出の増加などによって、復活を果たしました。日本は、平和で自由で所得格差は小さく、伝統文化も現代文化もこれまでになく栄えているという状況にあります。戦後一貫して「日本」に対して斜めに構えていた青年達も、今では自分の国の良さを認識し、これを守ろうとする機運が見られます。ただし、戦後の日本で支配的だった平和主義は社会の基本になっていて、戦前へのノスタルジーはほんの一部の者にしか見られません。
日本はその安全保障の大きな部分を、日米安保条約に依存しています。しかしこの条約は他国を侵略するためのものではなく、アジアにおける現状(Status quo)を維持するための重しとして作用しています。日本は現状変更勢力ではなく、現状維持勢力であるべきです。そして、朝鮮半島をめぐる六者協議、ARF(ASEAN Regional Forum)、東アジア首脳会議などにおける、安全保障をめぐっての集団的な対話・協力もこれから更に強化していこうとしています。
日本はこの数年、もっぱら経済の回復に注力してきましたが、今はまた外交を強化しなければなりません。アジアにおける平和と安定の維持、自由で格差の少ない繁栄した社会の構築―――日本はこうしたものを目標にして中国とも協力していくべきだと思います。
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