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世界はこう変わる

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2024年11月 8日

ロシア経済はまだつぶれない

(これは10月末発行のメルマガ「文明の万華鏡」の一部です)

ウクライナ侵入後の制裁で先端技術と資金を止められ、その後の国防予算大盤振る舞いがハイパー・インフレを起こして、ロシア経済は風前の灯と思われてきたが、今のところ経済は好調。ほぼ毎日、ロシア、旧ソ連諸国関係の英語、ロシア語の記事を読んでいるが、大体の見方はそんなところ。

そのロシア、ウクライナ関係の記事なのだが、コロナ以後、やたらに長文になってきて、読む方はたまったものでない。殆ど「ゴミ」で、中味のあるものが諸方に散らばっている。なぜだろう? ソ連崩壊直後は紙面も減って、記者たちは短く、事実関係だけを書くよう奨励されていた。それが景気が良くなると、長文も掲載できるようになり、記者もそれだけカネがもらえるのだろう。

で、そうした長文の記事の中にもFacts満載のものがあって、これは念入りに読むこととなる。今日は、その中からウクライナ戦下のロシア経済各部門の業績に関するもの、そしてロシアの畜産業がソ連崩壊後のショック(全部食べてしまった)を乗り越えて、今や鶏肉、豚肉では輸出もでき、価格も世界で低い部類に属するようにまでなった、という記事をご紹介する。

・まず、10月11日Moscow TimesでBen Arisが書いている記事。
いくつかの製造業は西側企業が去って、ロシア企業が独占するところとなった(自動車のように、一時中国からの輸入が「独占」した分野もあるが)。また銀行も、西側がほぼ去って、送金・決済・融資等で利益を独占している。
鉄生産は22年7、2%減少して7150万トンになったが、23年には6%上昇した。
非鉄金属のRusal(アルミニウム世界最大手)は23年までは売り上げが増加したが、23年には制裁のためドル収益は13%減少した。
化学ではPolymer、ゴム等を生産するSibur社が、23年国内市場での売り上げを増加させた。これは外国製品代替需要による。化学肥料の多くは輸出されてきたが、22年輸出は15%減少、23年の生産は減少した。しかし23年輸出は、量では5%増加している。しかし価格が1、5~2分の1になったため、売り上げは減少した。
西側の銀行・保険会社の殆どが去ったため、ロシアの銀行、保険は独占利益を享受している。23年、銀行は記録的な3、3兆ルーブルの純益を得た。金利上昇もこれを助けた。同じく、IT部門もYandex(ロシアのGoogleに相当)等、ロシア企業が独占利益を享受している。
機械製造、輸送分野の大企業も、生産性が伸びている。つまり受注が増えている。
労働力が足りないために、手持ちの従業員を再教育して業容転換に投入する例が増えている。こういう企業は、安易にリストラをしない。リストラよりも経営を改善し、従業員を再訓練し、IT化、自動化を進めて業績を改善しようとしている。

・10月8日付www.rt.com(政府系)によれば、高等経済学院学長Nikita Anisimovは、議会でこう証言した。
「制裁のおかげで、ロシア経済は石油・ガス依存から脱却し、強くなった」。
(一面的なもので、割り引いて考えないといけない)

・10月1日付www.ria.ru(政府系)はこう伝える。
 (オリガークたちは西側制裁の煽りで不振に追い込まれ、プーチンとウクライナ戦争を恨みに思っている、と西側では思っているが、彼らは火事場××のように資産をかき集め左団扇、という話し)
 1~9月、ロシアのオリガークの資産は302億ドル増加した。もっとも増やしたのはEvrokhim(化学肥料)とSUEK(最大の石炭会社)のAndrei Melnichenko(6番目)で62億ドル。資産には、持ち株の価値も含めている。
 オリガーク1位のポターニンは、今年資産を15、7億ドル増やして326億とした。2位のNLMKのVladimir Lisinは42、7億ドル増やして282億ドルに。3位はルークオイルのアレクペロフで、これは2位だったのが落ちたもの。資産は275億ドル。4位はSeverstalのMordashovで、資産は今年50億ドル増えて259億ドル。9位のアルファ銀行のミハイル・フリードマンは、資産を27億ドル増やして151億ドルに。

・次に畜産部門好調を伝える10月8日付Vzglyadの記事。
 ロシアは食肉生産で世界4位になった。鶏肉、豚肉では自給を達成したばかりか、輸出にも乗り出している。食肉、食肉製品の輸入は2003年の267万トンから64万トンに減少した。これは、国民が比較的に高価な牛肉の消費を忌避していることも背景にしている(1990年代の混乱期に牛の殆どは食べられてしまい、そのために穀物に余剰が生じて、現在の小麦輸出世界一の座を築く一つの要因になっている)。2000年代初頭は、食肉消費の70%は輸入鶏肉(多くは米国産モモ肉で、「ブッシュの脚」と呼ばれた)に依存していたのである。2013年にこれは3億ドルに達していたが、クリミア制裁に対する逆ギレで輸入が止められた。

一方、1998年(のデフォルトでルーブルが6分の1に減価して)以後、米国の鶏肉生産業がロシアに投資を始め、2000年代初頭にはAlexei Gordeyev農相がそれを促進。関税等、保護措置を導入し、融資も提供して食肉業を養成した。養豚業もこれにならい、これにはデンマーク、フランスの企業が加わって農場を建設。設備、ノウハウをつぎこんだ。
2000年代には(原油価格上昇で)家計所得が増え、食肉消費が増大して畜産業を助けた。食肉消費量は2003年、鶏肉は年間一人当たり18キロからだったのが、23年には36キロ、豚肉は17キロから32キロに増えている。一方牛肉消費は17キロから13キロに減少した。

食肉生産設備は急激に増えて、10万以上の職を創出した。飼料生産施設、獣医学、ワクチン生産等も発達した。当初、輸入制限で設備等の価格が高く、食肉価格は比較的高かったが、今では鶏肉は世界でももっとも低い部類。豚肉も米国、ブラジルより安い。
国内消費は限界に達しているので、輸出を増やすべき時にある。既に60カ国以上に輸出しており、2003年には3、6万トンだったのが、23年には80万トンになっている。うち34、3万トンが鶏肉、22、3万トンが豚肉。3、6万トンが牛肉。輸出額は合計450億ルーブル(約720億円)に上る。
現在は金利高で、諸費用が高騰していることが問題。しかも労働力が不足している。

(あの停滞していたソ連時代の集団農園から、資本主義的な畜産業を発展させたのは驚き。設備はカネがあればできるが、集団農園の農民は勤労意欲に欠けていた)