Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界はこう変わる

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2009年1月20日

新しい「ロングテール」型、オバマ大統領歓迎!

今日、オバマ大統領が就任する。やっと、やっとだ。この8年間、アメリカが、そして世界が、世界の意味が崩壊する、そしてもう崩壊したと考えて、僕もすっかりシニカルになっていた。自由と言っても弱者の自由はいとも簡単に踏みにじられ、民主主義が戦争で広められようとする―ーーこんな世界でエゴイストにならなかったとしたら、それは・・・

(宣伝。僕の本「意味の解体する世界へ」(草思社)を今からでもお買い上げ下さい。ブッシュ時代の世界が崩れていく様を描いたエッセー集です。http://www.amazon.co.jp/%E6%84%8F%E5%91%B3%E3%81%8C%E8%A7%A3%E4%BD%93%E3%81%99%E3%82%8B%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%B8-%E4%B8%80%E5%A4%96%E4%BA%A4%E5%AE%98%E3%81%AE%E8%80%83%E5%AF%9F-%E6%B2%B3%E6%9D%B1-%E5%93%B2%E5%A4%AB/dp/4794212739/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1232427215&sr=1-1

そして日本はイラクに派兵したからそのブッシュ政権には大事にされて、北朝鮮の拉致問題でも支持を請わざるを得なかった日本。アメリカや世界のトレンドとは捩れていた、後ろめたさ。

それが今度全部なくなる! ---オバマ政権による日本への新しい要望の提示とそれをめぐる日本国内のすったもんだがまだ始まらない、少なくとも2週間くらいの間は。

昨日大学で教えるためにアメリカ史を復習していて、いくつかのことに気がついた。
アメリカ史で画期を作った新しいタイプの大統領というのが何人かいる。1829年大統領に選ばれたジャクソン大統領。この人は、有権者のベースが大幅に拡大されて初めての大統領選を戦った人だ。それまでエリートの間の互選という性格の強かった大統領選を、遊説を伴うキャンペーン型にした、つまりアメリカにおけるポピュリズムの伝統の源に位置する人だ。
リンカーンはこのポピュリズムの系譜の上にある。そしてまあ、フランクリン・ルーズベルトが「大きな政府」を作った大統領として、次の画期を作ったと言えるだろうか。

史上初、「ロングテール大統領」
オバマのどこが新しいかと言うと、その選挙資金の集め方に僕は注目している。インターネットで小口の送金が信頼性をもってできるようになったこと、これがアメリカ、そして全ての国の政治を変えていく可能性を示しているからだ。
今回オバマは、300万人以上もの市民から200ドル以下の小口の醵金を集め(これだけで1億ドルを超えた)、腰の強い集金力を見せた。飛びぬけていなくても多数いることによって莫大な力となるーーーこれをインターネットでは「ロングテール」現象と言うが、オバマは「ロングテール」の大統領の最初なのだ。

共和党は石油企業とか少数の強力なスポンサーを持つ。ところが民主党はこれを欠くため、ホワイトハウスに怪しげなロビーストとか企業家を出入りさせがちで、よく問題を起こしてきた。オバマ大統領もそのうちそうなるかもしれないが、選挙戦に関する限り、特定の企業家に負い目をおっていることはないだろう。これは彼の政策への信頼度を高める。

そして「編集長型」大統領
そしてオバマは「編集長型」大統領だと僕は思っている。総合オピニオン雑誌の編集長を思い浮かべてもらいたい。粕谷一希や半藤一利のような編集長は、自身が時代を代表する知識人である一方で、各方面の書き手を克明に知っていて、彼らに腕を振るわせては時代をプロデュースしていった。自分の雑誌のカラーはきちんと出しつつ。

各方面の優秀な人材を連れてきて腕を振るわせる点で、オバマは編集長のタイプに似ている(ただ、自分が表に出てはいけない編集長とは違って、表に出なくてはいけず、すべての文責を負わねばならない点が違う)。現に彼は、ハーバードのロースクールの雑誌の編集長を務めたことがある。

原稿を自由に出させ、どれを採用するかは自分で決める。採用しなかった原稿は突き返すことなく、ずっと寝かしておけば、筆者は「いつかは自分の原稿も採用されるだろう」という無限の幻想に浸り、編集長に抗議してくることはない。(ここらへん、ライターとしての僕の経験に基づいているから、確かなことだ)

日本はできることとできないことをはっきりさせたら?
オバマは最初、経済回復とイラク・アフガニスタン問題、そしてパレスチナ問題で忙しいだろう。でも、アフガニスタンの安定強化などで、日本にも「君は何かできないかね(編集長だったら、「何か書けますか?」と言うところだ)」と聞いてくるだろう。
アメリカ人に対しては、回答をぐずぐずと引き延ばすこと、こちらが何を考えているのかわからないと思わせること、これが一番いけない。

アフガニスタンに自衛隊を送ることはどうしてもできない、と見定めたら、早めにそう言うことだ。ただゼロ回答はいけない。それは相手への侮辱になる。アメリカ人が何か頼んできたら、「それはできないけど、これならできます」という対応をして問題はないし、そうやって早めの反応をするのが大事なのだが、日本政府は自分で代案を作ることが得意ではないようだ。多分、諸省庁の間で合意ができないのだろう。「お前、なんでそんなことアメリカに提案するんだよ。俺のとこ困るよ。アメリカが求めてきてもいないのに」というわけだ。そこは、総理がイニシャティブを取るべきだ。

編集長型大統領には、時々面白い原稿(政策)を送っていないと、忘れられる。この頃の日本ときたらアメリカに向かって、「あんたこの頃中国のことばかり。私のことも少しはかまってくれたらいいじゃないの」の一点張りで、では自分はアメリカに対してどのように得になることをしてあげられるのか、あまり考えてもいないのではないか? 自分が惨めな気分になるだけだ。

編集長には、面白い原稿を出そう。面白いアイデア、面白い政策、面白いプロジェクトを出そう。

「戦時のアメリカ」が消えて、これまで僕の知っていたアメリカが戻ってきた。世界の意味が戻ってきた。サブプライムで経済が困ってはいるが、20世紀初めにもアメリカは同じような心象風景を見せていた。南北戦争後、急成長して英国を追い抜き、東欧、南欧、アイルランドなどからこれまでとは少々異質の移民を大量に受け入れた(1890~1920年の間に約2000万人)時点で何回も不況に襲われている。

「これだけの異質な移民を受け入れて、アメリカは大丈夫なのか」という不安が、当時のアメリカ社会には見られた、とものの本にはある。

今がそれに似ている。サブプライム問題は、大量の移民に住宅を供給する上で生じた発熱現象のようなものでもある(中南米からの「ヒスパニック」系だけで、人口の14%、実に4000万人強に及んでいる)。
だとすれば、オバマが社会のマインドをマイナスからプラスにリセットしたことで、アメリカは復活に向かうのではないか? 

アメリカは、輸出の半分を綿花で稼ぎ、その代金で北部の工業を振興して増やしていった、つまり内需を基本にして発展したユニークな国だ。現在の中国やインドもそうなることが期待されているが、当時も今もアメリカがBRICsと違うのは、国民の所得水準が比較的高く、国内消費の水準が高いことなのだ。

だとすれば、GMに大枚の予算をつぎこむよりも、同じ予算で国民健康保険制度を整備すれば、国内企業の社会保障負担もそれだけ下がり、モノづくりが国内に戻ってくるかもしれない。
人口の大きな大国の中では、依然としてアメリカが最も成長力を持った経済ではないか?

そんなこんなで、今のところ僕はオバマが大統領になって良かったと思っている。
Copyright ©河東哲夫


トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/629