時代遅れになるか、米国軍
ウクライナ戦争を初め、今起きている諸戦争ではドローンが戦争の主役面をし始めている。ウクライナは町工場のような設備で、1個500ドル程度のドローンを年に20万個ほど生産することを当面の目標とし、偵察や攻撃に投入している。
つまり空高くから敵陣の配置を探ると、その正確な位置を友軍に伝達。精密誘導兵器で敵の戦車や施設を破壊してしまうのだ。このために、大軍が集結して怒涛のように敵地になだれ込むという、映画のような攻撃がもう見られにくくなっている。
海上でも、ロシアの黒海艦隊はウクライナ本土からのミサイル、潜航や水上航行のドローンで攻撃されて、陣容の3分の1を破壊される惨状にある。
そしてドローンはウクライナのものでも、ロシアのものでも、敵地深く入り込み、敵のレーダー波を捕捉してこれを回避。モスクワやウクライナ国境から1000キロ以上もの石油精製工場を爆破して、今年1月にはロシアのガソリン輸出を前年同月比で37%減少させた。
だから今は、昔戦車が登場して世界の軍事戦略を一変させた時にも似て、小型・無人deviceを多数投入、統合運用して大きな成果を上げる時代になったのだ。これは、既存の軍隊に大きな変革を迫っている。その度合いは、莫大な費用をかけて重厚長大な軍を構築した米国で、一番大きい。
そういう中、前統合参謀本部議長マーク・ミリーと元グーグルCEO・会長のエリック・シュミットは連名で、Foreign Affairs9・10月号に長大な論文を発表。米軍はドローン、ロボット、AIが多用されている時代に、装備、戦術、軍隊組織等の面で対応が後れている、早急の対応が必要であると主張した。
実際、米軍は空母艦隊から地上兵力まで、精密誘導兵器も活用しつつ、兵力をグローバルに統合運用するNetwork-Centric Warfare(NCW)戦法で、冷戦終了後の世界を牛耳ってきたが、今やテロ勢力が安価なドローンを使って米軍の鼻を明かすことができるし、AI・ロボット等の面では中国が米国と同等の力を備えるに至っている。米国軍事戦略は今、大きな修正を必要としている。
以下、彼等の論文の要点を並べてみる。
・ウクライナの戦場では、未来の戦争が急速に現実のものになりつつある。ウクライナ軍は数千機ものドローンを用い、ロシアの攪乱電波が届かない回廊をAI で計算してはロシア領内の目標に至っている。これらのシステムのおかげで、ウクライナの兵士たちは戦車を破壊し、飛行機を撃墜している(注:これはドローンよりもジャヴェリン、スティンガーのような携帯ミサイルによる)。敵部隊はドローンで常に動きを把握されており、通信回線は妨害を受けやすい。
・戦争は常に技術革新に拍車をかけてきた。しかし、今日の変化は異例の速さで、はるかに大きな影響を及ぼすだろう。将来の戦争では、軍隊の人数、戦闘機・戦車の数・性能よりも、自律的な兵器システムとAIが重要なものになるだろう。
将来的には、あらゆる戦争の第一段階は、偵察から攻撃まで地上ロボットが主導することになるだろう。陸上ロボットと空中ドローンの組み合わせで、人間だけではカバーしきれない、より広い前線を管理できるようになるかもしれない。
・ドローンは、戦闘機よりはるかに安価な兵器だ。例えば米軍のMQ-9リーパーは、F-35戦闘機のおよそ4分の1の値段だ。もっと初歩的なドローンの価格はわずか500ドルである。これらの群れは、何百もの物体を同時に撃墜するようには設計されていない従来の防空システムを、圧倒する可能性がある。
・ドローンは台湾有事にも役立つ可能性がある。台湾とその同盟国は、非常に短い時間内に膨大な数の中国艦船を攻撃しなければならないが、陸・海・空の無人システムが、それを効果的に行う唯一の方法かもしれない。
・米軍は今や、彼らの一挙手一投足が監視され、通信回線を遮断され、上空をホバリングするドローンに素早く狙われる戦場で活動しなければならなくなっている。米国は速やかに方向転換しなければならない。米国は軍隊の構造を再編し、戦術と将官教育を改革し、装備の調達方法を変えねばならない。ドローン、AIの使用について、兵士をよりよく訓練する必要がある。
・まずは、ソフトウェアや兵器の調達プロセスを見直すことから始めよう。現在の購入プロセスはあまりにも官僚的で、未来の脅威に適応するのが遅い。例えば、(新兵器は)10年という調達サイクルが主流なため、技術の進歩に追いつかない。可能な限り短期間の契約を結ぶべきである。そして兵器生産大企業だけでなく幅広い企業からの購入を検討しなければならない。次世代の小型で安価なドローンが、従来の防衛企業によって設計される可能性は低いからだ。
・軍の組織や訓練システムも変えなければならない。複雑で階層的な指揮系統をより柔軟なものにし、機動性の高い小規模部隊に、より大きな自主性を与えるべきである。米国の特殊部隊は、こうした部隊のひな型となりうる。
・AIへの対応も変えねばならない。最悪の場合、AI戦争は人類を危険にさらす可能性さえある。OpenAI、Meta、AnthropicのAIモデルで実施された戦争ゲームでは、AIモデルは人間によるゲームと比較して、核を含む物理的手段による(kinetic)戦争に突然エスカレートする傾向があることが判明している。
・米中両国はAIのリスクと安全の問題について協議することを約束、5月にはジュネーブで第1回協議を行った。中国が協力しないとしても、米国は自国の軍事AIを厳格に管理するべきだ。AIシステムが軍事目標と民間目標を区別できるようにしなければならない。AIを人間の指揮下に置かなければならない。米国は、同盟国であれ敵対国であれ、他の国々にも同様の手順を採用するよう圧力をかけるべきである。もし他国が拒否するならば、ワシントンとその同盟諸国は、その国が軍事AIにアクセスするのを制限するべきである。
・戦争の性格は急速に、そして根本的に変わりつつある。米国も同様に変化し、敵国よりも早く適応しなければならない。ワシントンが正確に正しいことをすることはないだろうが、敵国よりは間違いが少ないはずだ。
以下は、この論文に対するコメントだ。
1) 米軍はこれまでも、ドローンの類を活用してきた。その性能は優れていたが、軍の主力ではなかった。現在は、弱小・貧困勢力でも安価なドローン、無人・電子手段で米軍の大勢力に対抗できるようになり、米軍は有効な対抗手段を開発していないところが違う。
2)新兵器はドローン、AIに限られない。核ミサイルでも、ロシアが開発している極超音速ミサイルに、米軍は対抗できないようだ。レーザー・電磁波兵器の開発、その宇宙への配備、兵士の脳にチップを埋め込んで指令と情報を伝達する技術も開発の途上にある。
3)軍の改組と言っても、中国やロシアの正規軍を相手にする場合と、局地戦、テロリスト殲滅作戦では、対応が異なる。小型ドローンのことばかり考えて、米軍を改組するのはやり過ぎである。またこの論文でも言及しているように、米国は「特殊部隊」を有している。ここでは、隠密裏に様々の改革、実験を敏速に行うことができる。
4)一方、兵士の成り手が足りないのは、先進諸国を通じて見られる現象である。ドローン、AIを含めた無人兵器の活用は、米軍だけでなく、自衛隊の課題でもあろう。
5)兵器の無人化(とは言え、後方では多数の技術要員が必要になる)、AIの多用は、軍幹部の抵抗を受けるだろう。また、技術要員の募集では民間企業に負けることだろう。
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