Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2008年9月22日

オリンピック後の中国外交

9月18日~20日、北京に出張し、オリンピック、グルジア戦争後の中国外交の方向について日中の専門家達の意見を聞いてきた。中国人は公式論しか言わない、と言う人もいるが、自分の意見を率直に言う中国人もこの頃では増えている。われわれも構想力と実行力を磨かないと、そのうちじきに中国に置いてけぼりをくうことになるだろう。
以下に、今回聞いたことを並べておく。

1.オリンピックが中国社会に与えた影響
(1)市民意識の成長
「大多数の国民はオリンピックをテレビを通じてしか見ていないが、それでもオリンピックは総じていい効果を中国の社会に与えた」というのが多数の意見だった。
具体的には、外国に対して落ち着いた見方ができるようになった、市民社会的なボランティアが広まった(四川省地震被災者救助の頃から、ボランティアが目立つようになっている由)等が挙げられた。
最近の中国においては粉ミルク事件にしても、市民レベルから強い抗議の声が上がるようになったことが特徴である由。1980年代のソ連で当局に対する恐怖感が薄れ、市民の権利意識が前面に出てきたのと類似した現象である。

(2)これから胡錦涛引退まで毎年大イベント
 今回ほぼ全員から言われたことは、2012年党大会で胡錦涛が次世代にバトンタッチするまで毎年、何らかの大記念行事、大イベントがあるということであった。
 来年は鄧小平主導の経済開放政策30周年と中華人民共和国成立60周年であり、そこではこれまでの発展を総括するとともに今後の方向について当然議論が起こるであろう、2010年は上海万博だが、辛亥革命100周年の2011年には中台関係が当然前面に出てくるだろう、ということだった。

2.今後の外交政策
(1)周辺の安定
政策の基本は党大会で設定されており、これはオリンピックの後でももちろん変わっていない。「経済発展のために周囲の情勢を安定させること」が中国外交の基本である、との説明はこの数年変わっていない。
対台湾関係を見てもそのことは反映されており、中国が周辺における紛争を望まないというのは、アジアの国際情勢における基本要素となっているのである。

(2)右手で安定、左手で軍拡の矛盾
「安定を望むというのは歓迎するべき政策だが、では最近の軍拡をどう説明するのか?」とこちらから問うと、「将兵の給料が上がっているから」「これまで予算が少なすぎたから」という類の公式説明をする者もいたが、苦笑いしたあげく、軍が「万一の事態に責任が取れないようでは困る」として「シーレーンの防衛にまで」手を出そうとしている構図、これを止められる者がいないという構図を率直に説明してくれる者もいた。自国の安全を求めすぎると敵が増え、かえって安全が脅かされるというジレンマは、最近のアメリカの例を見ていてよく認識していると述べる識者もいた。

3.グルジア戦争後も対ロシア関係に変化なし

グルジアに武力介入し、その後も軍備拡張の勢いを見せるロシアに対して、中国が特に警戒感を強めている点は感じられなかった。
「NATOの拡大がロシアを追い詰めた(から、ロシアがグルジアを襲ったのだ)」との点を、多くの識者が指摘した。以下、いくつかの面白い論点を列挙しておく。

●ロシアは孤立はしないだろう。しかし、今回のやり方には荒っぽすぎるものがあり、怖い国だと思った。従ってロシアを挑発することなく、経済協力もからめて話しかけていくことが必要だと思う。
●中国はNATO拡大を支持できない。モンゴル、中央アジアにNATOの影響力が伸びることを望まない。その意味で、今回のロシアの行動には共感できるところもある。
他方、ロシアがアプハジア、南オセチアの独立を認めたことは、台湾、チベットやウィグル等の分離勢力を抱える中国にとっては危険な前例だ。
●グルジア戦争を契機に再び冷戦のようなことになるのは、困る。中国は周囲に平和な環境がほしい。
●ロシアは、他国の領土保全を尊重するべきである。もっとも、コソヴォについては西側がユーゴの立場に配慮するべきであったが。
●NATOは冷戦の産物であり、冷戦が終わった今は、解散するべきなのだ。
●中国はロシアと異なり、他国に対する支配権、覇権を求めない。問題が起きても、少々の犠牲を払ってでも我慢する。
●(当方から、NATOに加盟をはかるウクライナに対するロシアの姿勢が最近非常に硬化してきたのではないか、と指摘したのに対して)ウクライナは、NATOに加盟しようとすれば、国内が分裂してしまう。また、ロシアはウクライナに影響力を行使する方法をいくつも持っている。
●ロシアの軍拡については心配していない。予想の範囲内だし、NATO諸国、米国に向けられたものだ。日本は心配だろうが。
●米国は東欧へのMD配備でロシアを追い詰める等、やり方が稚拙だ。中国はロシアとの国境問題も解決した。軍人間の関係も良好である。
●中央アジアにおいては、中露双方とも安定を望んでいる。
しかしロシアは、中央アジアにおける中国の影響力が拡大することを警戒している。
●モンゴルについては、中国がここでロシアと勢力争いをしているとは思わない。ソ連崩壊後、中国はそれを利用してモンゴルに進出するようなことを控えてきた。進出してきたのは、むしろ米国である。
●(当方より、当局が価格統制をする品目が増えている等、ロシアは計画経済に戻りつつあるのではないか、と質したのに対して)
ロシアは計画経済に戻ったわけではない。しかし官僚は市場経済を知らないので、周知しているやり方で経済を運営しがちである。ロシアは、天然資源から得られる富を権力を集中して配分することでやってきた。これからもそうしていくだろう。

4.対日関係
中国人の対日認識は、ある時は畏怖、ある時は軽侮、ある時は友好と様々に変わる。それは首脳間の関係、自分が実際に日本人から得た印象によって左右される。

今回面白かったのは、外国での日中企業の競争に話が及んだ際、ある中国人が「中国人はやはり日本人を畏怖しているのです。■■でだって、中国の会社は日本の会社にかなわない。中国の会社は官僚的ですから」と言うのに合わせて別の中国人が「ペーパータイガーなのです」と言ったのは可笑しかった。どちらがより少なく官僚的かが、日中の今後の成長を決定するだろう。

安倍総理の訪中以降、日中関係は安定して推移している。また日本での政権交代については、日本の対日姿勢に大きな変化はないものとして平静に見ていた。
   河東哲夫                   
      (了)


コメント

投稿者: 大ちゃん雄クン | 2008年9月23日 15:55

毎回河東さんのレポートを拝見後、唸って良いる自分に気付いております。
ちょっと昔(10年位でしょうか)は、自分の発言に気を使っていた中国人は今やどこに?
本日は、東京三菱、野村の買収、出資のニュースが新聞の一面を飾りましたが、世界経済のみならず、政治の真の動き(裏も含めて)を理解しないと、再度バブル時のように結局は日本が貧乏くじを引かされることになるかもしれません。
しかし、そのような時期に我等母国は、麻生」「小沢」だというのも...

投稿者: 杉本丈児 | 2008年9月29日 11:58

「コブシを握ったままでは、握手ができない」とは、故人の言葉だ。
スポ-ツ外交といつの時代から言われてきたのか定かでない。外交とは、銃で撃ち合わない戦争であるとも言う。
スポ-ツの祭典・平和の祭典であるオリンピックが外交の手段として成果を期待されるのは根拠があるのだろう。その点で言えば、北京オリンピックは、中国にとって総じて成功であったと思う。
ル-ルを守ってメダル獲得を競うスポ-ツ選手の姿に感銘を受ける人は多い。
しかし、どこまでオリンピックが平和外交に貢献できるのか、北京大会が終わった今、より関心を持っている。


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