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世界はこう変わる

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2024年7月28日

世界はガバナンスを失った(治まりがつかない)国ばかり

(これは、24日発行したメルマガ「文明の万華鏡」第147号の冒頭部分です)

 英国は総選挙で与党が労働党に交代しました。これからお手並み拝見ですが、他の国は多くが選挙がらみで統治力(ガバナンス)を大きく失っています。

(米国)

米国は「確トラ」とか言われていますが、トランプ・ヴァンスの組み合わせは白人、それもキリスト教会福音派とかアパラチア周辺のアイルランド系に軸足を置いていて、マイノリティーやリベラル白人たちの反発を招くことは確実です。大統領選の帰趨を左右するミシガン、オハイオでは白人労働者の票が大事なのは事実ですが、ここでも労組の支持獲得(と言うか、2016年の選挙でトランプに奪われたものを奪還)にはこれまでバイデン政権が並々ならぬ努力を払ってきたところです。大統領選まであと3カ月余もあります。何がどうなっても不思議でない、長い長い期間です。

もともと、米国大統領選前後一年は、米国の方向が定かでないので、国際情勢は止まりがちになります。例えば米国混乱をいいことに、中国が台湾を攻撃したりすると、米国は中国脅威論で一致団結してしまう、ということになるので、中国もおとなしくしている、というような。

民主党と共和党の対立で、南北戦争のような内戦が起きる――中央に反抗する州に連邦軍が押し寄せ、州兵と戦闘に至るような――と指摘する人もいますが、果たしてどうでしょうか。米国がEUのような国家連合的なものになる可能性もありますが、海外の軍や連銀のない米国は世界での力を失います。そして財政基盤を欠く州は困窮して、過疎化するでしょう。

もともと米国ができたのは、英国との独立戦争という「幸運」によるもの。これがなければ州はばらばらのままで、「合衆国」=「連合国家」=United Statesはできなかったことでしょう。それは、英国という触媒を欠いた中南米が今でもばらばらのままであることで、よくわかります。一度できた結合は、なかなか解けないでしょう。

(中国)
中国は、混乱を隠蔽しているように見えます。最大の問題はもちろん経済です。外資を呼び込み、彼らに輸出をさせて外貨を稼ぎ、それを元手に国内融資を膨らませて、(もともと無料の)国有地・公有地を開発して法外な付加価値をつけるという、ドーピングのような手法でGDPを成長させる・・・このモデルが破綻しています。電気自動車の輸出で世界を騒がせていますが、これはもともと政府の補助金で生産を膨らませたものです。政府の補助金つき製品をダンピング輸出された米国やEUは、怒り心頭に発しています。

この中で本当に実力がある企業はファーウェイその他、一部の電子・通信企業、EC企業、IT企業に限られます。これらだけではとても中国経済を支えることはできず、大学新卒者の失業率は高まる一方です。6月末には蘇州で日本人母子が中国人暴徒に襲われ、母子を守ろうとした中国人の婦人が亡くなっていますが、これは1900年の義和団の乱発端の頃を思わせます。

当時、清朝宮廷は保守的な西大后に握られ、彼らは経済・社会不安を外国列強進出のせいだとしました。これに煽られた大衆が外国の利権襲撃を始め、義和団の乱となったのです。右の蘇州事件に対する指導部の、はれ物に触るような慎重な対応を見ていると、指導部は現代の義和団の乱が起きる臭いをかぎつけているのでしょう。

もう一つの「隠蔽された混乱」は軍にあります
。中国の軍はどんどん増長し、軍が党指導部の意向に逆らって、あるいは無視して動いたのではないかと思われる事例が、かなり頻繁に起きています。例えば2014年9月、習近平はインドを訪問しましたが、首脳会談の席上モディ首相に「今、国境で戦闘が起きている。どういうつもりなんだ。何とかしろよ」と言われて慌てた、という話しがあります。

(ロシア)
ロシアは「プーチン独裁」で安定しているとされますが、ロシア経済もさすがにもう持たないでしょう。国防費を初めとする財政支出の拡大(23年は14,2%増)、労働者を獲得するための野放図な賃上げ競争、そしてそれによる消費の増大で、インフレが顕在化しています。6月には年率で8%を越えるに至りました。これで実質所得は減少に転じます。来年1月からは増税が始まるので――個人所得税は現在の13%から累進的に20%まで引き上げ――その頃からロシアは荒れ模様を強める可能性があります。2018年9月には、年金支給開始年齢の引き上げに抗議する大衆行動が全国に拡大した例があります。ウクライナ戦争も、クリミアは全域がウクライナ本土からのミサイル、ドローンの射程に入ったことで、ロシアにとって厳しいものになりました。

(EU)
EUではフランスが、大統領と議会・政府の間で与野党のねじれが生じており、いつもすったもんだすることでしょう。1986年には大統領が社会党のミッテラン、首相が保守・共和国連合のシラクという「与野党同衾政権」が出現し、1986年5月の東京サミットには二人揃って日本に乗り込み、日本の役人を困らせました。筆者の記憶では、二人とも日本への機上で機内食にあたり、日本では会議中よく中座していたのだと思います。

ただEUではドイツのショルツ政権がロシアと訣別する方向に決定的に舵を切り、7月にはポーランド、フランス、イタリアとともに中距離巡航ミサイルを共同開発する覚書に署名しています。ドイツがこの方面でイニシアティブを取るなら、欧州はしっかりすることでしょうが、残念ながらドイツの与党、社会民主党は今長期低落の最終段階にあり、国内では混迷の度合いが高まっていくでしょう。

(インド)
インドは案の定、6月に終わった総選挙でモディのインド人民党が挫折したことで、勢いは止まりました。モディは経済活性化に必要な改革を、議会で通すことがますます難しくなります。しかも、西側はモディ政権の強権主義的なやり方への批判を強める中、モディ首相は総選挙後初めての外国訪問先として、ウクライナ戦争で制裁を受けているロシアを選びました。国内の強権主義支配を守るためにロシアと組むのは、ハンガリーのオルバン首相や、「グローバル・サウス」と総称される諸国と変わりません。インドとの協力には限界があることを、西側諸国は認識したことでしょう。

(日本)
日本は、経済と生活は当面落ち着いていても、政治はこれからがらがらぽんの時代になるでしょうし、外交面でも見えない存在であり続けるでしょう。

こういう、流動性の吐瀉物のようになってしまった世界です。しかし世界の歴史では、これが本来の状態。第2次大戦後、米国を核に安全保障、経済が回ってきた世界は、異例なことだったのでしょう。米国が力を失ってきている現在、世界は19世紀以前の、諸国の合従連衡、バランス、抑止で何とか安定を保っていた状態に戻ってきたのでしょう。

ここで日本を巻き込む戦争が起きるのを防ぎ、そこそこに経済レベルも維持していくのは至難の業。WTOや国連諸機関のような、残された枠組みも大事にして、これを支える方向で努力、世界への提言を続けたいところです。

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