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世界はこう変わる

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2024年7月19日

世界で紛争多発 米軍は足りるのか

この頃は、欧州ではウクライナ、中東ではガザ、アジアでは台湾、北朝鮮と、戦争・紛争・対立が高まっている。この三地域はこれまでも、米軍の重点地域。NATO、日米安保、その他の条約で固められているが、これだけ紛争が同時多発すると、米軍は果たして足りるのか? これから台湾有事にでもなった場合、米軍空母は出動できるのか? 
こう思っていたところに、6月5日付のForeign Affairsで、2006年~09年には国防省で政策策定担当の次官補も務めたThomas Mahnken(現在はJohns Hopkins大学に在籍)が、"A Three-Theater Defense Strategy"と題した論文を発表した。彼は、こんなことを言っている。

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・オバマ時代以来、国防省は財政上の制約から、それまでの1つ以上の戦争を同時に戦うというそれまでの政策を捨て、1つの戦争に集中することにしてきた。しかしそれは誤った政策だった。3つの地域の情勢は相互に影響を与え合うし、米国の敵性諸勢力、例えば中国、北朝鮮、ロシアは地域を越えて協力しあっているからだ。

・米国は、これら3の地域に有力な同盟国・友好国を持っているが、これら諸国の間の軍事協力をもっと調整されたものにしなければならない。特に兵器・弾薬を必要に応じて機敏に融通しあい、軍事基地も相互に使用できるようにせねばならない。そして米国は、同盟国・友好国ともっと共同作戦ができるようにしなければならない。

・米国に兵器の生産余力がない分野では同盟諸国の助けを借りることができる。(近年)米国は建艦能力を縮小したが、日本や韓国は立派な造船所を持っている。イスラエルはアイアン・ドームのような優秀なミサイル攻撃防御システムを持っているし、ノルウエーは優秀な対艦ミサイルを有している。米国は、これら諸国に対して、技術を共有するよう求めるべきである。

・米国とそのパートナー諸国は、自分達の基地をもっと良く防衛し、兵力を機動的に動かすことができるようになるべきである。最近数年、米空軍はagile combat employmentと呼ばれる戦法を取るようになっている。これは軍用機を分散した多数の基地に配置しておくことで、それにより敵対勢力は狙いを分散される。米海軍も艦船を分散配置して、そこから標的を狙う戦法を開発している。しかしこれは、パートナー諸国の協力を必要とする。兵力を駐留させ、兵器を備蓄しておくための場所がもっとないといけない。
西太平洋においては日本がそのような分散配置に適した場所を多数有する。日本の多数の港、空港、関連施設は鉄道・道路によって結ばれている。しかし自衛隊が使える場所は限られており、在日米軍が使える場所はそれ以上に限られている。

・これら施設を防衛するためには、これまでの高価な(パトリオット等)地対空ミサイルに代わって、レーザー・電磁波兵器、安価な(ドローン等の)要撃兵器を導入しなければならない。

・そして各国の用いる兵器の相互運用性も高めなければならない。使える基地を増やし、兵器の相互運用性を高めれば、短期間に特定の地域に兵力を集中させることが可能になる。

・米国とそのパートナー諸国は、考え方(concepts)と戦略を共有しなければならない。率直な対話が求められる。例えば米国、豪州、日本、フィリピンは、中国の台湾への脅威に如何に共同して立ち向かうか、はっきりさせておかなければならない―――

以上。筆者はこれまで、欧州、中東、東アジアの3地域の諸国は、米軍の支援を求める上でライバル関係にあると考えてきた。つまり西太平洋への米国の関与が増大すれば、欧州方面は手薄になるといった認識で、それは西側メディアをもとらえてきた見方である。
 しかしMahnkenは、上記3つの地域の間でどのように米軍を割り振るか、といったゼロサムの考え方を取っていない。それもそうで、3つの地域で求められている米軍の兵種は相異なるのである。西太平洋では海軍、空軍、海兵隊が求められている
Mahnkenは、全世界の米軍を一つのものとして捉え、米軍が使用可能な空港、港を増やす等、米軍をグローバルな規模で機敏に運用するのに適した体制を構築することを提案している。

日本の民間港湾、飛行場を米軍にも使わせてくれ、というわけだ。これは有事ならもっともな要望だが、平時には現地の同意を得ることが難しい。今は、有事の際のニーズをシミュレーションしておいて、有事には総理大臣の指揮権限で実行することしかできないだろう。

一方、この論文でMahnkenは「日本で米軍が使える施設は自衛隊に輪をかけて少ない」と言っているが、こういうものの言い方は、改めてもらいたい。例えば米軍機の飛行空域確保のために、どれだけ日本の民間飛行区域が限定されているか、沖縄等でどれだけの面積が米軍用に供せられているかを再認識してもらいたい。

またMahnkenの言っていることは、3つの地域で常設の多国籍軍を作ることに等しいが、西太平洋ではその場合、指揮系統を統合するかどうか、という問題が起きて来る。また各国軍の間での言語の壁の問題が当然現れる。ドローン等、無人兵器であれば、統合運用は可能だろう。

 日米間で認識、戦略を共有するよう、Mahnkenは提唱しているが、これにも問題と限界はある。例えば台湾防衛では、有事に中国内陸部の基地をたたくか、それを避けるかで、日米間のみならず、米国内部だけでも意見は一致していない。

Mahnkenは、米国の建艦能力の不足を指摘しているが、これは最近報道が増えている事象である。米国内では造船所の増強が必要だろう。報道によれば、韓国の現代造船所は米国の軍艦造船所の買収に乗り出しているようだ。日本の場合は法的な問題もあろう。しかし前向きに検討するに値する。

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