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世界はこう変わる

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2024年6月26日

プーチンの北朝鮮・ベトナム訪問顛末記

5月中旬、オーストラリアで赤い色のオーロラが観測されました。これは原住民の言い伝えでは、火とか血につながり、悪いことがある前兆だそうで。そのせいか、6月18日にはプーチンが北朝鮮にやってきて、軍事同盟もどきの条約を結びました。「どちらか一方が、武力侵攻を受け、戦争状態になった場合、遅滞なく、保有するすべての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」のだそうで。
北朝鮮の金兄妹政権は、砲弾300万発も提供してロシアを後ろ盾にできる体制になったので、それを条約として固めておこう、と思ったのでしょう。

プーチンの方は、「韓国が北朝鮮を攻めることはないのだから、極東でロシアが北朝鮮と共同作戦を行うことはあり得ない」という趣旨を言っていますが、韓国は怒髪天をつくばかり。外交部の報道官は、「ロシアがそんなことをするなら、韓国はこれまで控えていたウクライナへの武器供与を検討する」と吠えました。
「検討する」というのがミソで、「供与する」とは言い切っていません。そして北朝鮮も、自分が砲弾を提供しないとウクライナと戦争もできないようなロシアが、なんで極東で自分の後ろ盾になると思っているのか、そのあたりの説明が欠けています。

もしかすると、韓国に備えて作っているはずの兵器をどんどんロシアに渡してしまう現在の指導部に対して、北朝鮮軍部内部に不信の念が高まっているのかもしれず、それを宥めるためにこの条約を結んだのかもしれません。「ほれ見ろ、あの大国のロシアが我々と同盟を結んでくれたのだ」というわけです。金正恩は、ロシア支援の特需で経済を大いに活性化できる、とも思っているでしょう。

(ロシア・北朝鮮接近を牽制した中国)

面白いことに、プーチンの北朝鮮訪問が予定されていた18日に、中国は韓国と、外務・国防当局の次官レベル会合「外交・安保対話」をソウルで開いています。これはロシアは北朝鮮の後ろ盾になると同時に、中国は韓国を取り込むことで、朝鮮半島を米国なしに安定化させてしまうための中ロの連携プレーだ、と言うよりも、中国周辺で北朝鮮、ロシアに勝手なことをさせないよう、中国が牽制したのだと読めます。ロシアは、何をするにつけても、中国の顔色をうかがわないといけない時代になってきたのだと思います。

一方その中国では(ロシアでも)軍の「汚職一掃」の動きが強まっていますし、経済は停滞したままです。どの国も、自分の実情は隠し、相手の実力は読まないまま、これまでの通念に従って進行していくのが人や国のつきあいの倣い。真実より、通念(perception、相場観)で、この世は組み立てられています。

それはそうと今回あぶりだされたのは、極東に広く覆いかぶさる中国の隠然たる存在感。そして北朝鮮はその中国に経済的には依存しながらも、中国の力を恐れ、バランサーとしてロシアを引き込もうとしていることです。

報道では、中国が「豆満江の航行権」を獲得する、これで中国の艦艇は日本海での常駐プレゼンスを獲得する、ということになっていますが、今の北朝鮮と中ロの間の微妙な関係を見ると、中国艦艇の豆満江自由航行は簡単には実現しないだろうと思います。

(豆満江の話し)

これはどういうことかと言うと、豆満江は河口では北朝鮮とロシアの間、中流から上では北朝鮮と中国の間を流れる川で、河口には昔日本軍が満州の出口として築いた埠頭がいくつかあります。中国は面白いことに、日本海に直接は接していません。もともとこの河口付近のロシア領は清朝の領域で、1860年の北京条約でロシアに割譲したものなので、豆満江を15キロ程遡ると、右側は中国領となり琿春などの都市が現れてきます。ここに中国海軍が拠点を設けることも可能でしょう。

しかし豆満江の河口付近は北朝鮮、ロシアの管轄になるため、中国の艦船は通航を規制されています。中国は自由通行権を求めて何度も声を上げるも、北朝鮮側に拒絶されてきたと言われています。ここを中国の軍艦(と言っても、トン数に限度があるでしょうが)が通れるようにすると、中国が日本海沿岸に海軍基地を作ったのと同じ効果が得られる、という話しなのです。

プーチン大統領は平壌からベトナムに赴きました。ベトナムはロシアの兵器の上得意ですし、少なくともコロナの前はモスクワとの直行便もありました。
今回プーチン大統領の特別機が平壌からハノイまで、どういう航路をたどったのかは、若干興味のあるところです。と言うのは、今回の彼の歴訪先は北朝鮮とベトナム。中国の両脇を固め、中国と時には戦争もした両国(北朝鮮は高句麗の時代)との関係を固めるというのですから、中国にとっては気持ちのいいものではないでしょう。
それなのに、これ見よがしに上空を通ったのなら、対応が難しい。機上から習近平主席にあいさつのメールを送ってもいいのですが、嫌味に取られるかもしれない。一方黙って頭上を飛び越え、機上で用を足したりすると、侮辱行為になってくるでしょう。多分、海上を飛んだのだと思います。そのあたり、今ではインターネットで航路をリアル・タイムでフォローできるはずです。

(ロシアの「ユーラシア集団安保」構想に中国は乗るか?)

そのベトナムなのですが、最近有力者が相次いで更迭、あるいは辞任に追い込まれています。グエン・フー・チョン共産党書記長(80歳で2011年から現職)の差し金なのだそうですが、彼はコロナを理由に党規約をこえて書記長三期目。2019年脳梗塞で倒れて2ヶ月入院した際には中国人医師の治療を受けたそうですから、ひょっとして親中・反米の回路を埋め込まれたのかもしれません(冗談)。

しかしベトナムは昨年9月にはバイデン大統領を受け入れて、関係促進を約したばかり。12月には習近平・国家主席を招待し、今回のプーチン来訪は対大国外交の総仕上げになります。ベトナムは、そう簡単には一つの大国に傾きません。米国は慌てたのか、東アジア担当の国務省次官補をベトナムに派遣すると、急遽発表していますが、泰然と構えていないと、ベトナムにいいように操られるだけでしょう。

ところでプーチンは14日にロシア外務省でスピーチしていますが、その中でユーラシアに包括的な安全保障体制を作る必要性に言及しています。できるだけ米国の影響力を排除して、ユーラシア諸国だけで大陸を仕切りたいというわけです。これはロシアが以前から打ち出している「ユーラシア集団安保」構想を焼き直しただけなのですが、アジアにも力点が入ってきました。

今回の北朝鮮、ベトナム訪問は、この構想を再度宣伝する上で格好の材料となりましたが、報道ではその形跡は見られません。ベトナムあたりが、反米的なこの構想に賛同しなかったか、あるいはロシアが中国に気兼ねしたからか。「ロシアが音頭を取って、あるいはロシアが核となって、ユーラシアの反米諸国連合を立ち上げる」ような構想に、中国は乗らないでしょう。

他の途上国も、こうした構想に連なっても、ロシアが融資や投資をしてくれるわけでもなく、米国との関係が悪化するだけ。ロシアのこうした大ぶろしきは、いくらやっても口先だけで終わります。

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