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世界はこう変わる

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2024年6月24日

中ロ戦略的同盟 の意味と歩留まり

(これは5月末発行のメルマガ「文明の万華鏡」第145号の一部です。少し鮮度が落ちていますが、まだrelevantだと思います)

かつて米国は、主要敵のソ連が日本とか西独などの経済力、あるいは技術を入手して世界で覇を唱えることを恐れた。結局、日独両国は米国に手なづけられてしまったが、今は中国とロシアが資金・技術・エネルギー資源、穀物で融合し、一つのユーラシアとして米国に挑戦してくる時代になった。

中ロ野合の威力は政治・経済・技術・軍事等、様々な面に及ぶ。一つここで、中ロ野合は世界の政治・経済・軍事でどんなマグニチュードを持つのか、点検してみたい。結論で言えば、米国・EU・日本の連合体は中ロ野合を凌ぐだろう、中ロは自分の都合でしばし野合しても必ず軋轢が表面化する、もともと両者はパートナーではなく、ライバルなのだ、ということ。

(政治面での融合度)

 もともとは、ロシアはシベリア、極東では新顔なのだ。シベリアに出てきたのは16世紀末。西欧の「大航海」にならって、残されたシベリアという大海に漕ぎ出した。川を伝い、蚊に刺され、白色系・黄色系の先住民達を篭絡し、騙し、殺して300年かけて太平洋岸に到達する。その間、中国諸王朝、遊牧民族の王国の境をかすめ、土地をかすめとり、1860年には北京条約を清朝と結んで、現在のウラジオストックを含む沿海地方までを自分の領土としてしまう。こうやってロシアは、実に日本の面積の4倍に相当する土地を、当時の中国から奪い取った。

そのことは、中国人は覚えているし、一部の教科書にも書いてあるそうだ。だから、中国とロシアは、本来はライバルで争い合うのが自然。現在でも、ロシアの核戦術マニュアルには、中国軍が大挙して侵入してきたら、戦術核を使用することが書かれてある、と報道する向きもある。

 面白いのは旧満洲で、ここではロシアは帝国主義者の顔を遺憾なく見せている。1900年義和団の乱を鎮圧するため、清朝中国に進駐したロシア帝国軍は、鎮圧後も満洲に居残って朝鮮半島方面に進出する構えを見せ、1904年の日ロ戦争に至ったのだが、1905年のポーツマス条約では満洲北部の鉄道利権は確保している。そして満洲の鉄道利権への進出を試みた(欧州と結ぼうとしたわけだ)米国を排除するため、1907年から4度にわたって日本と協約を結ぶ。

この協約では、満洲の鉄道利権は日ロ両国が分け合って独占することがあからさまに書かれている。今ロシアは、中国との戦略的同盟で、日本の「放射能汚染水」の処理を非難したりしているが、その昔にはその日本と手を結んで、満洲の利権を独占しようとしたのだ。どの国も、同盟を捨てる時はある。しかしロシアの場合、それはあまりにもご都合主義的で、一方的なのだ。

 現在の中ロ政治協力――「一方の有事には共に戦う」という条約を結んでないから、同盟ではない――は、次の面に及ぶ。

1) 米国から圧力を食らって、自分の権力を危うくされることを防ぐ。「世界は多極化した」というプロパガンダを共に展開し、米国の邪魔になることなら、何でもやる。途上国をできるだけ、自分たちの側に引き付けておく。

2)  共同軍事演習を繰り返すことで、中国の周辺諸国を牽制する。
(日本は、こんなものに惑わされることはない。極東のロシア軍は脆弱である。そしてロシア海軍は、日本海から出る海峡を、有事には日本に制圧される)

3)ウラン取り引き
  ロシアは核燃料製造大国である。ウラン鉱石の採掘は下火だが、冷戦時代の核弾頭を分解してその高濃縮のウランを薄めると、大量の原発用核燃料ができる。米国も、実はこれに依存していて、今やっと自国産を増やそうとしている。
今、中国がロシアからの核燃料輸入を急増させている。中国がこれを原子炉で燃やし、燃え滓からプルトニウムを抽出すると、中国は12年間で核弾頭数で米ロに追いつくだろう(3月2日付モスコフスキー・コムソモーレツ)。

4)空軍・海軍基地の相互使用の可能性
中ロの軍事協力の実効性には限界があるが、例えば中国機が極東、あるいはカムチャトカのロシア空軍基地を利用する権利を得ると、これは北朝鮮、韓国、日本、米国に対して威嚇効果を持つ。


しかし政治協力には、次の限界がある

1) 中国は、2014年のクリミア「併合」、2022年の東ウクライナ一部の「独立」の双方とも認めていない。ロシアの行動を非難する国連安保理、総会での決議では、ロシアを明確に支援する方向ではなく、棄権を繰り返している。「住民投票させた上で独立させる」やり方を、中国は本気で嫌っているのだ。同じことをチベット、新疆、内蒙古等でやられたらたまったものでないからだろう。

2) 中ロの緊密度は、米中関係の緩和度と逆比例で、常に揺れ動く。中ロ関係は米中、米ロ関係の遊水地のような、副次的なものなのだ。


3)途上諸国は自分の国益で動くので、米国、中国、ロシアを常に天秤にかけて動く。ロシアは言うに及ばず、中国でさえ、最近では融資、直接投資面で途上国の要望に応えることは難しくなっている。つまり途上国、「グローバル・サウス」は常に反米であるわけではなく、もし西側が彼らの権力を脅かすことがなく、経済を助けてくれることがわかれば、簡単に親米に転ぶのだ。

(軍事面でのロシアの対中依存)

 1991年のソ連崩壊後、ロシアは開放政策を取り、軍需産業でも西側への依存を大きく高めた。それは半導体、工作機械に始まり、ボール・ベアリングのような基礎的(と言うが、実は精密技術を要する)産品にまで至っている。これら品目の国内生産は、微々たるものである。
そのため、ウクライナ戦争で禁輸を食らったロシアは、今ではボール・ベアリングに至るまで、見境ない対中依存を強めている。最近の報道のいくつかを列挙しておく。

ミサイル部品
 23年12月、ロシアはキーウにミサイル攻撃を加えたが、ウクライナ側の調査では、これは23年後半製造のものがほぼすべてで、中国製部品を多用していた。つまり多くの観測の通り、ロシアは通常戦争用のミサイルを使い果たし、新規製造には中国製部品、そして工作機械を必要としていることになる。

半導体
半導体と言うとわかりにくいので言い方を変えたらいいと思うのだが、要するに何らかの機能を果たす極小回路=マイクロチップの生産では、ロシアは絶望的な状況にある。よく、「ロシアの半導体は世界一大きい」とロシア人が威張った、というような悲劇的なジョークが横行している。半導体が不足しているために、ロシア独自のGPS「グロナス」は一時、寿命を迎えた衛星の更新ができずに困っていた。
「中国がロシアに半導体を輸出している」という報道は見当たらない。多分、中国自身、欧米日の機械を輸入して半導体を製造していて、第三国への輸出は禁じられているからではなかろうか。それでもロシアは、禁輸されていないサーバー等を中国から輸入しては、半導体を取り出して利用する。

工作機械
1月26日のJamestownで、Pavel Luzinは"Chinese Machine Tools Serve as Russia's Safety Net"と題する記事を発表。ロシアの工作機械は部品も含めて、90%、中国に依存するようになったことを、中国税関数字で証明した。これは、レーザーとか光電子とかウオーター・ジェットを用いる精密機械についてのことだが、一般の数値制御工作機械でも、ロシアは2023年7月、一月だけで6800万ドル分を中国から輸入している。2022年2月の開戦前は、一月650万ドルだったので、十倍になっている(1月23日付Jamestown)。

ボールベアリング
 情けないことに、前述のようにボールベアリングまで、ロシアは西側からの輸入に依存してきた。国産より割安で品質が高かったからだろう。ボールベアリングの対中輸入は2023年、345%増加している(2月24日Diplomat)。ボールベアリングがなければ、戦車も、砲身の向きを変えることのできる大砲もできない。

思い起こすは、吉幾三の演歌「おら東京さ、行ぐだ」。
 ――テレビもねえ、ラジオもねえ、おまわり毎日ぐるぐる
   ・・・おら、こんな村いやだ――

(経済面での対中従属)

 ロシアの対中関係は、経済面では相互依存を通り越して、ロシアの対中従属とも言える色彩を強めている。いくつか報道を並べておく。

中ロ貿易が急増している。かつては日中貿易の10分の1に過ぎなかった中ロ貿易が、日中貿易を上回るに至っている(現代ビジネス。近藤大介氏)。
  昨年10月4日付日経によると、中ロ貿易額は同年1~8月に1551億ドル。22年通年は1902億ドルだった。中国の対ロシア輸出額は1~8月に718億ドルで、前年同期比62%増。車両とその部品は4.5倍となった。
今やロシアでの新車の市場は、中国車が席巻している。中国の自動車企業は、西側がロシアに残した自動車工場での生産を請け負いつつあるし、長城汽車は2019年、Tulaに工場を開設している。
一方、中国のロシアからの輸入額は23年1~8月に832億ドルと、前年同期比14%増。エネルギー関連が全体の約7割なのだが、石油、ガスとも中国の輸入は飽和状態なのだ。
  既にロシアは中国にとって、サウジ・アラビアを凌ぐ量の原油、天然ガス需要の4.5%を供給してくれる国なのだが、中国はエネルギー需要の半分以上を石炭に依存しているし、ロシアの原油・天然ガスとも、パイプラインを増設しないと供給量は増えない。そして中国は、天然ガスのパイプライン増設には長年のらりくらりと回答を引き延ばしている。採算性の問題だろう。
  ロシアは小麦輸出で世界一なのだが、中国への輸出は微々たるものに留まっている(2023年5月24日 イズベスチャ)。これは、小麦生産の中心は欧州部ロシアであること、そして極東部でも小麦や大豆を集荷し、中国東北部に輸出する鉄道網が不足していること、そして貨物運賃が割高であること、が障害になっている。  

人民元決済とは物々交換のことなり
中ロ貿易においては、ウクライナ開戦前はドル決済が主流であったが、開戦後はSWIFTから締め出されたこともあり、人民元による決済に急速に移行した。ロシア経済発展省によると、中ロ貿易では2023年上半期、人民元立て決済の割合が75%に達している。開戦前、ロシアの対中輸入は全輸入の25%だったが、開戦後は45~50%に増えた。
中ロ貿易ではロシアの黒字なので、人民元がロシアに溜まる。ロシアはこれを外貨準備の中に入れているが、人民元は運用するツールが乏しい。中国の国債は売ってくれないし、人民元でものを売ってくれる国は少ない。レートの変動も激しい。
但し、ロシアの対中輸入が急増して貿易黒字は縮小している。これは、「汎用性のない通貨で取引をすると、それは大幅な赤字・黒字を生じない範囲での、実質的な物々交換に陥りやすい」という公理を証明するものである。共産主義の時代、ソ連圏諸国は「コメコン」という取決めの枠内で、毎年等価交換の貿易協定を結んでやっていた。これと中ロ貿易が似て来たのだ。このような等価交換は、発展性を欠いている。

輸送のボトルネック
  ウクライナ開戦後、2022年だけで中ロ間鉄道貨物は4倍に、同年1~11月極東海運は3倍になった。国境のザバイカルスクでは毎月1600連のコンテナー列車が横切っている。これは最大容量の5倍。(両国のレール幅は違うので、国境で車両を持ち上げ、車輪をすべて取り換える。この作業には30分はかかるので、24時間ぶっ通しの作業が行われていることになる)このため、貨車、コンテナ、倉庫の不足が生じている(以上2023年7月20日 Moscow Times)。

閑話休題・「ニセ・キャビア」の話し

中国の民営経済の活力は大したもので、ロシアとの経済実力の差を悪用してちゃっかり儲ける。昨年11月22日付イズベスチャによると、中国が国産キャビアを、2022年18.5トン輸出している。これは「ロシア製」ということにされて、ロシアのキャビア市場の40%を牛耳っている。さらにその1、5~2倍の密輸がある。
 同じ伝でいくと、ロシアの土産物として有名なマトリョーシカ人形も、中国で作られているものが多い。中国の大連以北の東北地方の諸都市では、地元で製造したマトリョーシカを販売する店が多くて、一種不思議な感じになる。

(中ロは融合してユーラシアを席巻するか)

以上、中ロが「融合」することはあるまい。中国がロシアを吸収合併することも、ロシア人の自負心の強さに鑑みて、ないだろう。中ロのM&Aには、米国、EU、インドが反対する。逆に、中ロが再び「割れる」可能性は大いにある。

中ロ、あるいは中国とソ連は、1950年代央以後、激しいイデオロギー論争を続け、1969年には国境河川の「ダマンスキー島・珍宝島」、そして新疆地方で戦火を交えるまでになった。

戦争とまではいかないが、プーチン、あるいは習近平が去った後、両国関係がぎくしゃくし始めることは十分あり得る。ロシアや中国のような専制国家では、トップが去ると、相手は疑心暗鬼になる。先代との間の密約の類は反故にされ、既得権をずたずたにされるのではないかと恐れるからだ。そこは、我々が「もしトラ」で抱く警戒心をはるかに超えるものがある。

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