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世界はこう変わる

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2024年6月21日

欧米諸国での暴力の台頭

国際政治では、先進国でも途上国でも暴力が台頭し、何が何だかわからない時代が訪れることがある。それが一時的なもので止まるか、それとも世界の枠組みを変えてしまうかが目の付け所。今回、先進国で目立つ現象を列挙してみる。暴力はいつの時代、どの国でもあるので、ここでは暴力が政治にからんできている場合に限る。

一番心配なのは米国なのだが、ここは直感ではピークを過ぎた感があるので、次に心配なドイツのこと。日本はドイツにGDPで抜かれたと言って落ち込んでいるが、ドイツはそれどころでない。ウクライナ戦争でのロシア制裁のブーメラン効果で(天然ガスや原油価格の跳ね上がり)インフレ率がハネ上がり、2022年の10月~12月の実質所得指数は前年同期比で3,7%も落ち込んだ。2023年3月には全土の交通機関で過去30年間で最大規模のストライキがあり、鉄道・空港は麻痺している。

1月の調査では、国民の82%は政府を支持せず、地方選で与党SPDの得票率は戦後最低に沈んでいる。既存政党は軒並み支持を減らし、極右とされる新興のAfD(「ドイツのための別の選択肢」党)が与党SPDを上回る支持率を得るに至っている。かつてはリベラルの方に分類される「緑の党」を選んでいた青年達が、極右の方に流れているのは懸念材料だ。

もっとも、AfDも移民排斥等、暴力的な性向を持つ者は一部に過ぎず、連立政権に入れば無責任な行動は取らないだろうという見方もある。緑の党が伸長した1980年代、筆者は西独で勤務していたのだが、当時の緑は環境過激派で、外交でも随分無理を通していた記憶があるので、AfDも一筋縄ではいかないだろうが。

極右勢力には「ライヒスビュルガー(帝国市民)」という組織もある。メンバーは、21年末時点で約2万1000人。うち1150人は過激派で、およそ500人は合法的に銃を所有する。16年には南部バイエルン州で、メンバーが警官を殺害している(2022年12月13日日経)。

極右勢力が軍に食い込んでいることは、大きな懸念材料だ。日本での2・26事件のようなことを起こし得るからだ。ドイツは2011年、徴兵制を「停止」して、職業兵と志願兵に依存するようになっている。過激勢力に浸透されやすい。2019年だけでも、軍内では360件もの極右がらみの件が捜査されている。

2022年12月には、国家転覆未遂で25名が逮捕されている。その中には現役の軍人、裁判官がいた。主犯格は貴族の末裔。「ハインリッヒ13世」を名乗る。陸軍の特殊部隊である「KSK」のメンバー、そして空挺部隊を指揮していた元中佐も加わっている。

彼らは、ドイツ政府が「闇の政府」に支配されているという、米国のQ-anon運動の影響を受けた主張を展開し、連邦議会の襲撃を画策していた(2022年12月13日付日経)。ドイツ当局は3000人規模の警察部隊を動員し、家宅捜査は130カ所を超えた。この事件はイタリア、オーストリアにも波及した。翌年1月にはランブレヒト国防相が辞任しているが、この事件の責任を問われたものだろう。

英国でも、暴力の横行が懸念される。ここでは、格差が拡大している上に、英国の代名詞だった社会保障・医療が荒廃している。民主主義を気取って政治家の警護を怠ったため、国会議員が何人か路上で刺殺されている。16年6月、労働党の議員が地元の懇談会場を出た直後、極右のテロリストに殺害されたし、21年10月には保守党の議員が地元の教会で刺殺されている。これはイスラム過激派の犯行とされる。

 暴力はどの時代、どの国でも存在する問題だ。今回は、日本でも安倍元総理、岸田総理襲撃は言うに及ばず、「つばさの党」のような一種の暴力傾向が表面化しているので、心配なのだ。治療は、「経済を良くすること」、これに尽きるのだが、米国の極右勢力、あるいはロシアの諜報機関等が手を出さないよう、警戒していくことも重要だ。


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