米国のバブルは崩壊するか
世界の株式市場が揺れ始めた。米国大統領選挙の年の株暴落と不況は、政権交代につながることがある。1980年の不況で、カーター大統領はレーガンに敗北、1990年の不況でブッシュ(父)大統領はクリントンに敗北している。2008年のリーマン・ブラザーズ危機は、9月の共和党大会でマッケイン大統領候補が確定して間もなく起きたが、この時マッケインは一時、支持率でオバマ(それまで一貫してマッケインをリードしていた)を逆転しているのである。日本では、リーマン不況への不満も背景に翌年9月、民主党政権が誕生している。
最近のEconomist誌も次の点を指摘している。
「米国では近くバブルが崩壊するのかもしれない。ウォール街では、上場企業の企業価値総計は、1990年代後半のIT株バブルの時の80%、金利が上昇に転じた2021年の90%の高さになっている。株高が一部の企業に偏向している様(上位10%のアメリカ企業の価値が市場全体に占める比率)は、1929年の大暴落の時に類似している。ビットコインは再び、2021年のピーク値に迫っている(注:3月11日に超えた)」
「このままの状況では、株式市場のブームは頭打ちになるだろう。ここ数十年、企業利益が経済全体に占める比率は異例の上昇ぶりを見せてきたが、これは借入コストと税金が低下したことによる一過性のものだった。今後10年間に年4%の小幅な実質株式リターンを生み出すには、米国企業は基礎利益(underlying profits)を年6%程度増加させる必要がある。ベテラン投資家であるウォーレン・バフェットは、それは無理だと見ている」
「株式市場は、様々の理由で冴えない展開をたどる可能性がある。AI熱が、2000年代初期のITバブル崩壊のような現象を起こすかもしれない。新たな戦争や危機が暴落につながるかもしれない。あるいは、緩やかな弱気相場が何年も続くかもしれない。いずれにせよ、これからの10年間は、株式(特に米国株)投資家にとって黄金時代は来ないだろう」
これに対しては、次の点を指摘しておきたい。
1)世界では先進国の財政赤字の継続・拡大、コロナ対策等により、資金が市場にばらまかれてきた。米国でのマネー・サプライ2は、リーマン危機以降、昨年12月までの間に7.6倍になっている 。2023年12月、MMF(簡易投資信託)には5.9兆ドルの残高があった 。資金は投資対象を求めて右往左往しており、遂には日本株にまで殺到して、日本人を30余年ぶりに狂喜させた。
2)今回、米国では地方銀行を中心に商業用不動産関連融資が不良化しつつある。またCDS(credit default swap、債務不払いに備えた一種の保険)の保険料が急騰している ことが心配の種である他、Economistが指摘するように、AI関連株が明らかに過大評価されていることも不安材料である。3月11日の東京株式市場の株価暴落は、米国でのAI関連株価の低下が引き金になったものである。
3)バブル崩壊は地震と同じようなもので、いつ断層が動き出すかは予測できない。今回、それが米国大統領選挙前に起きると、議会の共和党は、銀行等を救済するために公的資金を注入するのを認めず、不況を激化させるだろう。2008年9月、議会は救済法案を一時止めて、株価の一層の下落を起こしている。他方、連銀は大幅の利下げを行うだろうから、利上げに向かう日本は大幅な円高に見舞われる可能性がある。
4)一方、バブル崩壊が米国大統領選後に起きると、トランプは法外な利下げを強制し、企業救済のための財政バラマキも行うだろう。これも円高を引き起こす。
2008年9月のリーマン危機では、世界中の銀行が対外決済のためのドル入手に苦労して、FRBがドルを一時貸し出している。つまり米国の不況は「ドル退場」論をいつも引き起こすのだが、世界でのドル需要はかえって高まるのである。
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