バルト海のロシア天然ガス・パイプラインを爆破したのは米国?
欧米では今でも報道が続いているのに、日本ではなぜかあまり報道が見られない(僕の知っている限り)ことに、昨年9月、バルト海を通るロシアの天然ガス・パイプライン「ノルト・ストリーム」を爆破したのは米国だった、とする調査報道の件がある。
これは、ピューリツァー賞を受けたこともある米国の高名な調査記者、Seymour Hershが2月初め、自分のブログ(seymourhersh.substack.com)で発表したもの。彼はNew York Timesをベースにこれまで数々の調査記事を発表。例えばイラク戦争の際、米軍(民間軍事会社)がアラブ人捕虜を拷問した件を暴露して、大きな反響を呼んでいる。
今回の彼の記事からいくつか拾えば、こういうことになる。
――上記「ノルト・ストリーム(以下「北流」)」は、ロシアの天然ガスに対するドイツ、EUの依存度を不当に高めてしまうものとして(ドイツの場合、40%を超える。しかもシュレーダー元首相はロシアのガスプロムの幹部ポストを得て、多額の報酬をもらっていたはずである)、以前から米国はドイツへの警告を続けていた。しかし21年5月、「北流」2号線が完成に近づいた時バイデンは諦め、Nord Stream AGへの制裁を解除した。これに反発した議会の共和党はTed Cruz議員を頭に、政府主要人事の承認、国防予算の承認プロセスを一時止めた。
21年12月、ロシアのウクライナ侵入がほぼ確実になった時点で、米国政府は侵入への対抗措置を検討し始めた。サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は「北流」破壊を示唆した。しかしそれは、(発覚すれば)ロシアに対する戦争行為になるとして、国務省、CIAには反対する者が最後までいた。
22年2月7日、バイデンはショルツ・ドイツ首相との会談で、ロシアがウクライナに侵入した場合には北流2号線はもうないものと思ってくれ、自分たちが始末する、と言った。侵入後、Nuland国務省次官が会見で同じ趣旨を公言した。
米軍とCIAはノルウェーの諜報部及び海軍と緊密に協力し、爆破工作の場所をBornholm島沖に定めた。ここは水深260フィートで潜水が可能、かつ潮流がない。バルト海では毎年6月、NATOの共同演習をやっている。22年はBALTOPS22として行われたが、米軍はこの時、海底のパイプラインに爆薬を設置した。爆薬はセメントで覆って、ロシア軍等が探知できないようにした。飛行機からソナー・ブイを落として特定の電波を発することで爆発させる。爆破は、右共同演習との関連を疑われないよう、時間をおいて9月に実行された――
米欧ではこの記事に対して今でも反響が続くが、米政府がこれを頭から否定して、付け入るすきを与えないため、燃え上がってはいない。ロシアも、実のある反応は示していない。もはやこの手の米国による秘密介入は多すぎて、反応のしようもないのかもしれない。
ただ、戦争がからんでくると、米国はドイツという重要な同盟国の利益に反する実力の行使をためらわなかった、という重い事実は、日本として肝に銘じておくべきだ。台湾有事、あるいは北朝鮮攻撃の場合、米軍は日本にとってリスクとなることでも強行するだろうということだ。
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