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世界はこう変わる

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2023年1月31日

ロシアの海外リベラル、権力奪取の雄たけび

ロシアのリベラル・反政府勢力の代表的存在(但し海外におり、ロシア国内ではマージナル)であるホドルコフスキーとカスパーロフ がForeign Affairs最新号で、バイデン大統領をけしかけ、「プーチン政権崩壊がもたらし得る混乱(特に核兵器の管理について)を恐れるな。ウクライナに戦車、長距離攻撃兵器を与えて、プーチン政権を崩壊させろ」とあおっている。

海外亡命政権にも似たRussian Action Committeeを立ち上げたとし、自分たちが政権についた場合の青写真を提示しているのだが・・・あまりまともに取らない方がいい。

ロシアの大衆は彼らリベラルを嫌っており、支持しない。そしてホドルコフスキー達はそのことを知りながら、以下のバラ色の「青写真」で米国内のネオコン連中の支援を勝ち取り、権力を無理無体に奪取することを夢見ているのだから。

90年代のロシア・リベラル、そして20年代の米国ネオコンとも、頭でっかちで現実から遊離し、大衆に迷惑をかけた点で共通している。もういい加減、次の世代に道を譲るべきだ。

ホドルコフスキーの青写真

ホドルコフスキー達の「青写真」はこうだ。

・20年以上にわたって、西側の識者の一部は、ロシアの民衆は民主主義を受け入れない、ロシアは外部に対する敵意(revanchism)を運命づけられていると論じてきた。しかし他の国の場合、西側と経済的に一体化することで、ファシスト的なレガシーを克服することができてきたのだ(旧社会主義国で市場経済化を終え、自律的成長力を備えるに至った国はまだない。先進のポーランド、チェコでさえ、外資に依存している)。

・ウクライナで軍事的に敗北すればロシアは、中国の子分になるか、欧州との一体化を再び指向するかの選択に直面する。(後者を選んだ場合のために)Russian Action Committeeは法の支配、連邦制、議会主義、三権分立、人間の権利と自由の重視を基礎とした、次の青写真(1990年代はそれをやろうとして大混乱を呼んだ)を策定している。

① プーチン体制が倒れて2年以内に、新憲法を採択して地方分権の議会主義・連邦共和国に移行することになるが、それまでは立法権を持つ暫定(transitional)評議会が政府を監査する。その評議会(State Council)の核には、ウクライナ戦争とプーチン政権に公に反対してきた者(多くは海外に亡命している)達が座る。

② 右暫定評議会は成立後直ちにウクライナと和平を結び、1991年の国境を認めるとともに、戦争で与えた被害を賠償する。そしてプーチン政権の帝国主義的政策を拒否し、西側との対立を止めて米欧体制への合体をはかる。

③ 暫定評議会は、ロシア軍を縮小し、連邦公安庁(FSB)、内務省の過激派対策総局(Center for Combating Extremism)等の警察国家の諸装置を解体する。連邦レベルでは官僚への審査を進め、プーチン政権の権限逸脱を助けた者は除外していく。そしてウクライナ侵攻を支持した政党、公共団体は閉鎖させる。暫定評議会は同時に、選挙法を自由化し、政党登録の手続きを簡素化するとともに、集会、ストライキ、デモへの規制を撤廃する。
④ 暫定評議会は、幅広い権限--財源も含めて――を地方に移譲する。これによって中央は、軍事的冒険を行う資金を欠くことになるだろう。

⑤ 最も悪質な戦争犯罪を犯した者は、国際法廷での裁判に委ねる。その他の者は、ロシア自身が裁判する。

この青写真は無理

 ウクライナ戦争の実相、全貌は誰にもつかめていない。
その中で西側メディアは、まるでファッションのように自分たちで作りだした見方を加工してはあれこれ論じてきた。
 現在は、「ロシアが劣勢」という見方が支配的で、その延長として「プーチンが退場したらどうなるか」についての頭の体操が盛んになっている。ロシアの分裂から、独裁制の一層の強化まで、様々の可能性が語られている。
 
 ロシアの分裂については、第2次大戦中にモーゲンソー米財務長官が提示したドイツの分割と工業地帯の割譲(Morgenthau Plan)が援用され、ロシアを分割することでその力を奪い、欧露部を非武装化することさえ提案する向きがある 。ロシアの地方は今後、税収の配分等をめぐって中央との齟齬を深めるだろうが、多くは経済的に自立不能で、簡単には分裂できないのが実情なのだが。

 ソ連崩壊後の1990年代、ロシアに台頭したリベラル勢力(民主主義と市場経済、企業民営化を標榜)は実行可能な政策を提示することができず、国を大混乱に陥れた張本人として、国民の大多数に憎まれ、マージナライズされてしまった。

 それから既に30年余。その間ロシアの青年世代は随分変わってきた。評者はロシアの大学のビジネス・スクールで長年講義をしたが、学生に感じたのは、1990年代の「幻想リベラリズム」の消滅と、現実主義である。欧米で働いた後、ロシアに戻って一旗上げようという者が少数いる他は、ロシアの現状の中で生きる場所を見つけていこうとする者が大多数。大学に行かない一般大衆は、強権政府による分配に徒な期待を寄せる。

 このようなロシアの社会では、ホドルコフスキーとカスパロフの主張は画餅、それも1990年代の古びた画餅でしかない。それでも、米国のネオ・コン的な者達には耳に快いものなので、両名はその支持を得てロシア政治の真ん中に座ろうとしているのだろう。

 この論文が提示する「プーチン後の青写真」は、非現実的なものである。海外の反政府派を核とする「暫定評議会」に全権を与えて、連邦制共和国設立の準備をさせると言うが、どうやってそのようなことができるのか。そもそも、この論文の筆者たちが前面に出てきただけで、ロシアの大衆は拒否反応を示すだろう。

(僕自身はロシアの民主化、市場経済化を支持して長年やってきた。しかし頭でっかちで利己主義の連中は御免、そういうことなのだ)

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