始まったロシアの財政赤字
(これは7月27日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第123号の一部です)
タイタニックの水漏れが始まったロシア
中国はこの半年ほど、日本列島周辺でロシア軍艦船・軍用機との共同示威・偵察行動を繰り返している。しかし中露の準同盟は、力を欠く。もともとは、米国にレジームチェンジされないように手を組んでおくのがその狙い。いずれかが米国との関係を改善すると、片方は孤立してしまう。そして今、米中は当面握手をしておこう、という心境なのだ。
ロシアはどうなる? 沈む。もともと中国は、ウクライナ戦争ではロシアとウクライナの二股をかけている。中国はウクライナから軍事技術を入れてきたし、トウモロコシなどでも依存している。戦略的パートナー同士でもある。だから3月国連総会で、ロシアのウクライナ侵入を非難する決議案が上程された時には、中国はこれに反対してロシアを助けることなく、棄権という狡猾な挙に出た。その後も、ロシアとウクライナの間で調停役になろうとする気配もない。もっとも、やろうとしても、状況を把握して双方を説得できる手腕はないだろうが。
プーチンは19日、イランを訪問して、トルコのエルドアン大統領と三者首脳会談を演出した。ロシアにも持ち駒はある、というわけだ。しかしイランと一緒に米国の制裁を批判したところで、何も変わらない。トルコはこの頃ロシア周辺地域での存在感をめっきり増していて、ウクライナとロシアの間の調停役も務めるほどになっているが、19日テヘランでのプーチンとの二者会談にエルドアン大統領はわざと遅れて現れ、プーチンは所在なげに立ち尽くす様子を世界中のテレビでさらすことになった。ロシアの外交能力を世界に示すはずだったこのイラン訪問は、ロシアの無力ぶりを世界にさらけ出すこととなったのだ。
ロシア大都市の街頭は、制裁の「せ」の字もうかがえないほど繫栄しているそうだが(ウクライナ戦争に駆り出されている兵士の多くは少数民族地域、あるいは遠方地域で徴募されていることもある)、財政面ではタイタニック号の最初の水もれのような現象が起きている。
5月22日のBellingcat(オランダに本拠をおく民間調査機関)資料は、同17日のロシア財務省数字を引用。石油・天然ガス関連以外での歳入は、4月は対前年比マイナス18%で1、01兆ルーブルに下落したと報じた。消費が落ちたことで、消費税(付加価値税)の歳入が激減したことが大きい。4月は1920億ルーブルで、昨年4月の半分以下だった。
他方、石油・ガス輸出からの歳入は、4月は1、8兆ルーブルで、3月の1、2兆ルーブルを上回ったが、4月の財政収支は近年で初めて赤字となった。ひと月で2623億ルーブルの赤字。原油・ガス価格がピークでこれだから、これから原油・ガス価格が下落していくと、ロシアはいよいよ危機に直面することになる。
国防費は4月、130%増加して6300億ルーブルになっている。4月は毎日210億ルーブル(約500億円。10万の兵士が出ているとすると、一人1日50万円を費消している計算になる。月で6000億円。年で7.2兆円)支出した勘定になる。2021年は5000億ルーブル程度の財政黒字があったのだが、今年は赤字になることだろう。
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