ウクライナ戦争のウラ
(これは7月27日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第123号の一部です)
(工業力不足のロシア軍)
工業力の欠如は、第二次大戦での日本軍の急所だった。軍艦は沈められ、戦闘機は落とされた日本軍は、米軍の日本上陸に備えて、国民を竹槍で武装させたそうだ。昔、明智光秀をこれで殺したのだから、米兵にも有効、というわけ。
ロシア軍も刀折れ、矢尽きの状況に陥る危険性がある。今回は特別の動員をしていないから、兵士の補充が効かない。モスクワやサンクト・ペテルブルクのような大都市では、兵士を殆ど徴募していない(7日付Jamestown)。ウクライナとの緒戦で戦車を830台以上、装甲車を1650台以上失った。使えなくなったものはそれより多く、しかもロシアの戦車のエンジンはすぐ駄目になる。使用1000時間(1日10時間使用すると約3カ月)で替えないといけない。
開戦前、ロシアは3300台の戦車を全国で持っていた。うち3分の1を失ったのだから、欧州正面では本来の作戦はできなくなっている。しかもこれまで、戦車の年間生産量は100両程度である。
戦車を使えなくなったので、ロシア軍は4月以来、砲撃に依存している。毎日6万発を使用している(上記Jamestown)。生産量はわからないが、かつて1999年のチェチェン戦争の後、2002年夏に砲弾不足が表面化している。今回の作戦規模はチェチェン戦争を大きく上回るので、砲弾消耗のスピードも速いだろう。そうなったら何で戦う? 竹槍?
問題は、ロシアには竹が自生していないことである。
(国防相が和平に署名しても、ミサイルを発射するロシア)
ロシアは22日、国連、トルコの仲介で、ウクライナの穀物の輸出を可能とするため、黒海の港の出口に安全な回廊を設置する協定をウクライナと結んだ。ここにウクライナは機雷を敷設しない、ロシアは攻撃しないというわけだ。ロシアは、ショイグ国防相がわざわざイスタンブールに出張して大々的な署名式を行った。ウクライナやロシアの穀物に依存している北アフリカ、中東の国々に対して、ロシアの外交努力を印象付けようとするものだろう。
ところが、署名の翌日、黒海の神戸とも言えるウクライナのオデッサ港の埠頭が、ミサイル攻撃を受ける。ロシアは最初、憎々しくもしらを切っていたが、翌日には公式にロシアによるものだと認めた。ラヴロフ外相は、ロシアが攻撃したのは軍事施設だと強弁しているが、軍のトップのショイグ国防相の顔に泥を塗るようなことにどうしてなったのか? ロシア軍の内部には分裂があるのか? それとも、協定の内容がロシア軍内部に浸透するのに時間がかかったのか?
ところで報道によると、署名式の場にロシアの富豪アブラモーヴィチがいたそうだ。彼はウクライナ戦争開始以来、諸方を(但しEUでは制裁されている)ジョーカー、あるいはトリックスターのように飛び回っている。その途中、何者かに毒殺されそうになって、数時間視力を失ったとも言われる(4月1日付Financial Times)。彼は、プーチンとの関係が緊密なので何かの使命を帯びているものと思われる。これが、前記のミサイル発射に関係しているとも思わないが。
(ロシアを忌避する中国、助ける中国、儲ける中国)
ロシアへの対応は、中国の諸機関、企業の間で実はばらばらである。4月29日の日経によれば、カード大手の銀聯がズベルバンクなど制裁対象のロシアの銀行との協業を拒否した。自分も米国から制裁されると、米国でカードが使えなくなるだけでなく、国際的な資金の移動もできなくなるという懸念からだろう。同じ記事によると、中国企業の8割強がいまでもロシア事業を継続しているのに、大手行の中国銀行や中国工商銀行はロシアでの業務を制限している。これも、米国から制裁を受けて、国際決済網から排除されると被害甚大だからである。
アジア・インフラ投資銀行AIIB(もう忘れた人も多いでしょうが、案の定、鳴かず飛ばず)は、財務の健全性を守るためと称して、ロシアとその協力国のベラルーシに関連するすべての活動を止めた。3月4日付の日経では、AIIBのロシア向け投融資は認証ずみのものが8億ドルある。
中国石油加工集団(シノペックグループ)もロシアとの合弁事業を巡る協議を中止している。中国の大手銀行がロシアでの業務を控えていることもあり、中国のロシアへの輸出は3月、8%も減少している。
他方、中国はロシアを秘かに助けてもいる。その筆頭はおそらく海運。西側はロシア関連取引への保険を付けなくなったので、多くの国の船舶はロシアの貨物を扱わなくなった。代わって、中国の世界4位のマンモス海運企業COSCOがその船腹を提供している(5月22日付日経)。COSCOのタンカーは、ロシア原油を中国へ輸送している。
余談だが、このCOSCOというのはくせもので、世界中に多数の補給所を持っているのだが、理論的には中国軍の艦船が使用することもできる。2016年には運輸業界と軍を緊密に協力させる国防運輸法が採択されているからだ。2019年には、COSCOのコンテナ船によるフリゲート艦への補給にも成功しているし、自動車を積み下ろしする巨大なフェリーが、水陸両用の戦車を沿岸で積み下ろしした例もある(5月22日付日経)。
(横流しされるウクライナへの西側の武器)
もう既に報道されているが、4月頃には既に、ウクライナに供与された西側の兵器が、インターネットで密売されている、これは1999年のコソヴォ紛争の時も同じで、この時ヤミ市場に流れた兵器は今でも売買されている、という。4月は防弾チョッキとか鉄砲とか小さなものだったが、7月の報道では対戦車ミサイルJavelinや対航空機ミサイルのStingerも売りに出ているそうだ。ただこの手の情報の多くはロシア側が出しているので、割り引く必要があるが、全くのウソではないだろう。
今、鳴り物入りで米国からウクライナに供与され、地平線の向こうのロシア軍弾薬庫を狙い撃ちしたりして話題を呼んでいる長距離精密誘導砲(これはドローンを途中に配置して、目標の諸次元を砲弾にインプットする。砲弾は巡航ミサイルと同様、飛びながら行き先を調整できる)「ハイマース」はさすがに市場に出ていない。大きすぎる。重すぎる。これのいくつかについては、筆者が予想した通り、ロシア軍がミサイルで破壊したと発表している。大きくて重いから、簡単に移動できないでいるうちに撃滅されてしまうのだろう。ただウクライナは、「そんなことは起きていない」としらを切っている。
(海外にカネで脱出するウクライナ青年)
ロシア軍に攻め込まれたウクライナの青年は愛国主義に燃えて、軍に志願していると報じられている。しかし全員がそうであるはずもなく、中には斡旋者に数十万円分を払って、海外に運転手とか何かの名目で逃亡してしまう連中もいる(7月15日付ロシアのモスコフスキー・コムソモーレツ紙)。青年は今、出国を原則的に禁じられているのだが。
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/4197