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世界はこう変わる

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2022年6月13日

台湾が中国に接近する日

(これは5月25日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第121号の一部です)

 台湾は、日本ではこれまで関心が払われてこなかった。それがやっと危機意識が日本でも浸透してきたと思ったら、今度は「自衛隊を強化して台湾防衛に乗り出せ」的な、逆の極端に突っ走りそうな気配があるので敢えて以下を提起する。

 台湾については、「中国が必ず軍事的制圧の挙に出てくる」という物言いが現在支配的なのだが、これは一周回後れたものになっている。現在の見方は、「習近平指導部は台湾軍事制圧の難しさ――上陸作戦の難しさだけでなく、ロシアのウクライナ侵攻が示した西側経済制裁の激しさ――を認識し、少なくとも、今年秋の共産党大会で習近平の終身指導者の地位を確保するまでは大きな波風を立てないでおこう、台湾は内部の工作を進めて国民党候補を次期総統に選ばせ、台湾の方から中国に歩み寄らせよう、という政策に転換した」というものだ。中国での論調を見ていると、こちらの方が正しいのだろうと思う。

 そしてコロナの直前、台湾内を旅行してみたかぎりでは、台湾の経済・生活水準は、中国沿岸部諸都市でのものと大差ないまでになっている
台湾ではタクシー運転手やガイドに至るまで、自由・民主主義を心から評価している人が多い。しかし中国でも人々は、(慣れてしまえば)さして不自由とは感じていないことだろう。現代の中国人は良くなった住宅で、様々の家電製品に囲まれて生活し、仲間内では言いたい放題で暮らしているはずだ。台湾人も、中国ともっと提携すれば、更に好い暮らしができると思えば、そちらに転ぶはず。台湾の企業は多数、中国に進出しており、社員は家族も含めると約80万人在住している。トランプ以前は百万人いた。それだけ、中国とは何とかやっていける、という実感も持っていることだろう。

 もう一つ。西側は先端技術の輸出を禁止することで中国企業を締め上げているが、台湾の半導体製造・電子企業が中国企業と「一体化」しつつあることである。鴻海精密工業が中国でアップルのアイフォンなどを独占生産していることはよく知られている。台湾の半導体大手メディアテックは小米など中国のスマホ生産用に5G対応の半導体を供給しているし、TSCM(台灣積體電路製造股份有限公司)は一時華為Huawey社と一心同体で、スマホ用の半導体を供給していた。

台湾は、世界の半導体生産の一大中心地になりつつある。1986年、日米半導体協定を境に、日本の半導体産業は後退したが、反比例して台湾に半導体産業が立ち上がったのだ。今では台湾のGDPの約15%の売り上げをあげている。これは米国半導体産業が、投資費用が大きい割には利益率の低い半導体製造下流部門(けっこう仕事がブラックらしい)を台湾に「卸した」からである。

中でもTSCMは半導体の受託生産分野では世界市場の50%以上のシェアを持ち、先端の3ナノの量産では世界を牛耳りつつある。これまで半導体を内製していた米国インテル社も、遂にTSCMからの仕入れを志向し、TSCM詣でを始めている(4月15日付日経)。インテルのライバル、米国AMD社は以前からTSCMに半導体の供給を仰いで、インテルをしのぎつつある。そしてAMD社のCEOは、台湾出身(と言っても、3歳の幼時に米国に移住)の女性リサ・スーなのだ。同じく米国の半導体大手エヌビディアのCEOジェンスン・ファンも台湾出身で、リサ・スーとは親戚同士

米国はTSCMに華為への半導体供給を止めさせたり、米国での工場建設を慫慂したりして圧力をかけ続けている。TSCMの顧客の半分以上が米国だからまだいいが、将来、TSCMなど台湾企業に抵抗されると、米国としてはお手上げだろう。台湾企業なしに、米国経済は成り立たないからだ。

半導体の製造機械の生産は米欧日の企業が独占しているので、その方面から台湾の企業に圧力をかけることができると思うかもしれないが、半導体の製造機械生産企業にとって台湾企業は最大の顧客だ。台湾に売れなくなったら、商売あがったりになる。

つまり、台湾のバーゲニング・ポジションは高くなっている。米国の圧力を尻目に、中国とのビジネス(そして米国とのビジネスも)を続けることのできる立場を築いたのだ。

これから習近平の失敗で中国経済が悪化したり、国内が不安定化すれば、台湾は自分に有利なやり方での中国との統合強化を進めることもできるようになる。そういう時に、「貴国の自由を守って差し上げます」と日米が言って、やたら軍事的緊張を高めるのを、台湾指導部はどう感じていることだろう。

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