国債持ち合いの仲 米中関係
(これは2月23日発行のメルマガ「文明の万華鏡第118号」に掲載したものです。ロシアのウクライナ侵攻で、中国はロシアを見捨てるかもしれません)
「007」の映画にあるように、スパイ同士の殺し合いも稀でなかっただろう米ソに比べて、米中は20世紀、基本的に協力関係にあった。戦後、米国は中国の共産党政権と対立し、ベトナム戦争も共産党との戦いだったわけだが、米中スパイ同士の殺し合い、破壊工作のやり合いまではいっていないだろう。そして1971~72年のキッシンジャー・ニクソン訪中後は、ソ連情報をシェアするなどの協力関係にあったのだ。当時中ソはその不和の頂点にあって、1969年には国境紛争の現場で大規模な武力衝突があったばかりでもあった。現在、中ロは米国に対抗するために準同盟国関係にあるが、1970年代、80年代は逆のコース、米中はソ連に対抗するための協力関係にあったのだ。
米ロ関係はエリツィンの時代、エリツィンが西側に膝を屈する形で接近したが、現在はソ連時代の敵対関係に吸い寄せられるかのように、戻りつつある。双方とも対立していた時代の記憶を呼び覚まし、双方の外交官の人数制限さえも復活させつつある。ここには、米ロ友好・相互理解などという甘い言葉をハナから信じない、諜報機関が作り出す「関係悪化自動装置」のようなものが動いているとしか思えない。
それに比べて、米中間には「関係深化バネ」がいくつか装填されている。今一つのことに注目している。それは、中国の財政赤字の増大、それをファイナンスするための国債発行の増大、そしてその中国国債を大量に購入している米国金融企業のことだ。
昨年1月時点で、中国政府発行の国債の10%超を外国勢が所有していた。これは中国が国債の売買規制を緩和したこと、欧米のファンドが中国国債を投資対象にし始めたことで年末に向けて急増し、9月末に絶対額では3500億ドルほどに達した。
うち75%を米国勢が所有していると仮定すると、それは中国が保有する米国国債1兆ドル超のまだ4分の1強に過ぎない。しかし中国政府は毎年50兆円分程度の財政赤字を続けているので、国債もどんどん発行されていくだろう。今や米中両国は互いに株式を持ち合うことで支え合う、日本のグループ企業のような関係になった。
この「国債の持ち合い」は、両国の関係が断絶するのを防ぐ安全装置のようなものになるか? 僕は、どちらとも言えない中立的なものだと思う。それよりも、中国の財政赤字の増大と中国国債の外国人保有の増大が、中国の外貨準備の実質額をどんどん減らしていっていることの方に注目する。
中国は現在、3兆ドル強の外貨準備を保有していることになっている。「ことになっている」という留保をつけたのは、この中には企業が外国銀行から借りた外貨、外債を発行して得た外貨の預金も含まれていて、これが「外貨準備」の半分以上を成すからだ(例えば2016年3月29日エコノミスト)。米国債で保有している分も、2017年8月の「選択」誌によれば国有企業の資金調達の担保になっているものが相当分あるそうなのだ。
これに加えて上記のように、3500億ドル以上の中国国債を外国人が保有し、それが毎年500億ドル以上増えていく。この分は(本当の)外貨準備から引かないといけない。そうすると機動的に使える中国の外貨準備は更に減って5000億ドルに近づいていく。米国勢が中国国債を一斉に売り浴びせると(値崩れして米国勢も損害を被るのだが)、人民元レート維持のために中国当局が使える外貨準備はすぐ底をつく、ということになるのだ。
外貨準備が小さくなっているということは、中国が海外で展開する一帯一路などのインフラ建設の手も縛られる。「アジア・インフラ投資銀行AIIB」も、筆者たちが予想したとおり、この頃ではまったく存在感がない。
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