Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界はこう変わる

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2022年2月 2日

勢力圏 古き思想に生きるプーチン ロシアの行く末

(これは1月26日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第117号の一部です)

「勢力圏」の回復をめざすプーチン――「勢力圏」は国連ではなくロシア軍PKOで仕切る

 (ロシア軍、欧州東部での優位回復)

近年、NATOとロシアの間で、兵力配置のエスカレーションが続いている。1991年のソ連崩壊で東欧諸国の軍が東側から西側に移ったこと、そしてロシアの国防予算大幅縮小もあり、軍事力バランスは欧州側に優位となっていた。しかし欧州のNATO諸国も冷戦終了で軍を縮小、かつ編成を地域戦や遠方への派遣に向いた小型のものとし、戦車のような大規模正面作戦向けのものは削減した。

 一方ロシアは2000年代の原油価格高騰で国力を回復すると、2010年代初頭、装備の近代化、兵士の職業兵化を促進、西部国境方面の兵力は数万名増強して、NATOとの正面衝突に耐える体制を作り上げた。今や軍事バランスはロシアに有利なものとなっている。詳しい分析を見たことはないが。

 これもあり、米軍は近年、ロシア周辺での配備、活動をとみに増強させていた。バルト諸国へはNATO・米軍の常駐(短期ローテーションのかっこう)を始め、ポーランド、ルーマニアにはミサイル防衛システムを配備(ロシアに対しては中距離ミサイルとしても使える)、ノルウェーにも基地を設け、ロシアの海岸、空域に接近しての訓練、共同演習を繰り返すようになっている。昨年春には、1万名の兵力の大西洋渡海を含む大規模演習を行っている。

それに対してロシアは飛び地のカリーニングラードに短距離ミサイルを配備(核弾頭をつけられる)、NATOとの隣接地域での大規模演習を繰り返した。昨年夏からはこの対立が嵩じて、10月にはNATOとロシアは外交関係を切っている。

この「助走期間」を経て、今般ウクライナ国境へのロシア軍集結となっているわけだ。したがって、これはロシアが押さえる東ウクライナにウクライナ政府軍が攻勢をかけようとしているのを止めるためのものなのか、それともプーチンが言っている「NATOの東への一層の拡大を許さない。そこを明確にした条約を米国に結ばせる」ためのものなのかはわからない。まあ、両方の狙いがあるのだろうが。

ロシアは昨年12月末、「これに署名するなら、ウクライナに侵入はしない」として、米国に条約案を投げつけた。ここでは、NATOの東方への拡大を停止すること、旧ソ連領域に基地、ミサイル・システムなどの施設を展開しないこと、ウクライナへの軍事援助を停止すること、欧州に中距離ミサイルを配備しないことなど、ロシアのこれまでの言い分が列挙されている。そしてプーチンは、「これまでNATO拡大(最初、東欧圏に。次にバルト三国に)では何度も煮え湯を飲まされてきた。ウクライナは最後の踏ん張りどころだ」という趣旨を繰り返し言っている。

バイデンは老獪にも、この失礼な条約案を頭から拒絶することはせず(拒絶すれば、ロシア軍に行動する大義名分を与えてしまう)、1月初めからロシアと話し合いを始めた。1月10日から米ロ、NATO・ロシア、OSCEの3つのフォーラムで話し合いが開始されている。米ロだけで世界を仕切ろうとする、ロシアの荒い鼻息をやんわりやり過ごし、「NATOの拡大についてはNATOと、緊張緩和・信頼醸成措置はOSCEで話し合ってくれ、米ロ間では米ロだけで決められる核ミサイル配備制限の問題を話し合おう」というやり方で、外交の場ではロシアが孤立している構図を浮き立たせたのである。

ロシアはどうするだろう? この数年、ロシアの超国家主義者Duginなどは言い始めていた。「米国が内向きになりガバナンスも失っている今は、ロシアの好機だ。失われた地歩を取り返そう」と。プーチンは、こうした言葉に動かされて、ウクライナに攻め込まないまでも、親ロ勢力が抑えているドネツ、ルガンスクの両地域に独立を宣言させ、これを国家承認する挙には十分出て来るだろう。

それには前例がある。2008年8月グルジアのサカシヴィリ大統領はNATO加盟を空頼みして、ロシアを南オセチア(民族的に異なるグルジアからの独立を主張して、隣接するロシアに傾いていた)で武力挑発した。ロシアは大軍を送って南オセチアを制圧。同じように民族的にグルジアと異なるアプハジアとともに独立を宣言させ、これを国家承認しているのである。

これは、直接侵攻よりましだ。しかし、バイデン政権はこれに対しても強硬策を取るよう、国内で圧力を受けるだろう。EUではショルツ・ドイツ新首相が、所属の社会民主党の十八番「(ロシア宥和の)東方外交」を提唱しているので、強硬な制裁に加わるのは少し難しいが。

欧米はロシアの原油・ガスに依存しているので(米国でさえ、重油を多量にロシアから輸入しているため、ロシアはカナダに次ぐ対米原油輸出国になっている)、世上言われているSWIFT(世界の銀行間での決済・送金を迅速に行う、インターネットで言えばルーターのような仕組み)からロシアを除外することはできまい。一方ロシアは莫大な資源輸出代金の大部分を海外で保管・運用しているので、これを凍結することなどはできるかもしれない。米国はこれまで数回、北朝鮮の海外口座を差し押さえ、北朝鮮から譲歩を得たが、今回はロシアに対して同じことが可能かもしれない。それがプーチン、あるいは彼の側近たちの海外資産であれば、効果は大きい。1991年ソ連共産党が瓦解した際には、「党の秘密資金」をめぐって元幹部の他殺、自殺が多数起きている。

「国連素通り」の常態化

国連を通さずに海外で武力を行使する――米国とその同盟諸国はよくやってきたことだが、ロシアもこれに大っぴらに倣い始めた。ロシアは1月初めのカザフスタン騒擾でも、トカエフ大統領の要請を受けて、集団安全保障機構の傘の下で2000名もの空挺部隊を短時間で出動させている。22日にはカザフスタンから完全に撤収したと言っている。電光石火の早業だ。

地域の集団安全保障機構が緊急時に平和維持活動をするのは国連憲章で認められているどころか、むしろ奨励されている(国連憲章第51、52,53条)のだが、安保理との緊密な連携が義務付けられている。以下に引用する。
(https://www.ne.jp/asahi/nozaki/peace/data/data_un_all.html)。

第五十一条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当つて加盟国がとつた措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。

第八章 地域的取極
第五十二条
1 この憲章のいかなる規定も、国際の平和及び安全の維持に関する事項で地域的行動に適当なものを処理するための地域的取極又は地域的機関が存在することを妨げるものではない。但し、この取極又は機関及びその行動が国際連合の目的及び原則と一致することを条件とする。
2 前記の取極を締結し、又は前記の機関を組織する国際連合加盟国は、地方的紛争を安全保障理事会に付託する前に、この地域的取極又は地域的機関によつてこの紛争を平和的に解決するようにあらゆる努力をしなければならない。
3 安全保障理事会は、関係国の発意に基くものであるか安全保障理事会からの付託によるものであるかを問わず、前記の地域的取極又は地域的機関による地方的紛争の平和的解決の発達を奨励しなければならない。

以上のとおり。しかし今回のカザフスタンへの出動は、国連とは調整していない。国連はますます有名無実化して、いろいろな主体が思うがままに武力を行使する時代がやって来かねない。「世界のたがが外れる」時代になった。

日本は、他国のためにPKOを送ることの是非を議論している時代ではない。自分自身、あるいは周囲の友好国の安全が脅かされた場合、自衛隊をどう使うか、米軍その他とどういう枠組みで、どう連携するかを考え、演習しておくべき時代になったのだと思う。米国、豪州、インドとのQUADばかり話題になるが、他にも様々の国々と様々の枠組みを作って(難しいが)総合的に運用していくべきだと思う。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/4151