米軍アフガニスタン撤退 次に介入するのは中国か
バイデン大統領が14日発表した、アフガニスタンからの9月までの無条件での米軍撤退については、批判の声が強い。ワシントン・ポストは直ちに社説で、「安易なやり方」と批判したし、米軍は介入を続けてアフガニスタンに平和で民主的な国を実現しなければならない、あるいは米軍が撤退すればタリバンがまた支配することとなり、女性の権利等が踏みにじられる、そしてテロの温床になる等々。
しかし、米軍が何十年いても、アフガニスタンに住んでいる人々自身が民主主義とか人権などおかまいなく、内紛に明け暮れている状況では、改善はないだろう。
今の基本的な状況は、次のようなことだと思う。
1)アフガニスタンは分裂しており、国全体のことを思って行動する政治家はいない。
2) アフガニスタンはいくつかの民族的なクラスターに分かれ(北部はウズベク・タジク・トルクメン系、中部はモンゴル侵入の名残りと言われるハザラ系、南部はパキスタンに近いパシュトン系という具合)ている。タリバンはパシュトン系で、かつてインドとの係争地カシミールに隣接するアフガニスタンの支配を狙ったパキスタンの強い支援を受けて勢力を拡大したものである。
3) 従って、アフガニスタン自身を一つにまとめること自体が大変なことで、現に2019年9月の大統領選挙後は、パシュトゥン系のガニと北部タジク系のアブドゥラの双方が当選を主張。20年3月には両名が大統領就任式を行い、その後はガニの下に連立政権を作っている。このため、現在のガニ大統領は必ずしも完全な「代表権」を持っていないのである。
4) そしてタリバンも内部で分裂している。その状況はつまびらかにしないが、過激派のハッカーニ派(パキスタンの諜報機関ISIに近いと言われる)が米国、ガニ政権との和平合意をいつも破壊している。20年4月には、ガニ政権との交渉に前向きだった一派が爆殺されている 。
5) 「米軍が撤退すればテロリストの隠れ場になる」という議論があるが、一般的に過ぎる。2001年の場合は、タリバンがビン・ラディンを頭とするアル・カイダ勢力を匿っていたという特殊事情がある。今回は、そのような反米テロの大勢力は見当たらない。一時、シリア、イラクからISIS要員がアフガニスタンに押しかけたが、彼らは他ならぬタリバンと勢力争いを演じ、今ではアフガニスタンでの活動は聞かれない。
6) 2001年以前は、米国はアフガニスタン、中央アジア地域には関心を示していなかった。米軍が撤退すれば、その状態が戻ってくる。ただ、特殊部隊は残る可能性がある。また特殊部隊は残らずとも、現在のアフガニスタンは中国新疆地方に対するウィグル族のテロの拠点として、戦略的意義を得つつある。米国はこれを陰に陽に支援するだろう。
7) 従って、米軍撤退後のアフガニスタン情勢の目は、中国がアフガニスタンに軍事介入するかどうかなのである。中国は新疆とアフガニスタン双方に接するタジキスタンに集中的に融資を供与して地歩を築いているし、中国軍は既にロシア軍、あるいはタジキスタン軍等と山地・高地での対テロ戦争の演習をしている。アフガニスタンと新疆を結ぶ高地の「ワハン回廊」及び、近接したタジキスタンの高地には哨所を設置済みと言われる他、アフガニスタンに近接する新疆の地区には多数の空港を建設中である 。
8) また、ロシアもアフガニスタンに強い関心を持つ。キルギス、タジキスタンと同盟関係を結び、キルギスに空軍基地、タジキスタンに1個師団を展開している。2000年代には諜報機関が「北部同盟」に資金・兵器面での支援を行っていたし、最近はタリバン、ガニ政府の双方とわたりをつけて、米国主導の和平交渉に割り込もうとしていたところである。
9) こうした状況で米軍が撤退することは、中国、ロシアにとって問題をいきなり丸投げされるようなもので、内心狼狽していることだろう。
10) こうした中で日本や欧州諸国がするべきことは、アフガニスタンの子女の留学、海外での定着促進、青年の出稼ぎ促進等、住民への側面支援だろう。また、周辺地域では、これまでもアフガニスタン政府、タリバン双方とのコンタクトに努め、電力供給等の支援も展開しているウズベキスタンの協力を得ることも有用だろう。
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