コロナ後の世界 注目点
(最近、別のところに書いたものを一部改変してここに掲載しておきます)
コロナに関連して、当面注目しているのは次の諸点。
1)人間は疫病を克服できるのか? 病原体のいくつかは、抗生物質への耐性を獲得しつつあるが、これへの対処を急がなければならない。遺伝子操作が発達し、スパコンとAIで新薬の開発が飛躍的に速まったはずなのに、ワクチン、治療薬の開発にどうしてこんなに時間がかかっているのか。
2)今回は、中国が初期の失敗をうまく挽回。かえって専制的体制の利点を世界に示した。ハンガリーではオルバン政権がコロナを悪用して、無期限の非常事態大権(野党・言論統制を含む)を獲得している。
そういう時に、民主主義の旗手であるべき米国が、価値観上の混乱を示している。民主党が殆どのプライマリー選挙の延期に追い込まれる中、トランプ大統領は連日長時間の「コロナ問題についての」記者会見を行い、事実上の選挙キャンペーンを展開している。11月の大統領選も、郵便投票方式を大々的に採用するか否かをめぐって、共和・民主両党の間で激しい議論が起きており、延期を含む混乱が起きる可能性を残している。
トランプはまた、先進民主主義国の団結を示す最高の場であるG7を以前から毛嫌いし、今回はホスト国である特権を利用して、6月の首脳会議を電話会議とすることを早々と決定した。彼が再選されれば、G7はおそらくその寿命を終えるだろう。
3)コロナは、グローバルに展開された米軍の意外な脆弱性を外部の目にさらした。空母では現在4隻がコロナ感染者を出し 、一部は航海を中断しているし、4月からNATOの欧州諸国との団結を誇示するために計画されていた、冷戦後最大規模の演習Defender Europe 20(米軍2個師団、2万名が戦車等装備と共に、本土から大西洋を渡って参加する予定であった)はコロナ感染を防ぐため突如実質的に中断されて、洋上の米軍はユーターンして本国に帰投した。そして3月末、エスパー国防長官は、海外の米軍の移動を60日間禁止したのである。これでは、同盟体制も心もとない。
但し、コロナにやられたのは他の国の軍隊も同じなので、まだ恐慌を来すには及ばない。フランスの空母シャルル・ド・ゴールも洋上で感染者が出て、急遽帰投している。
米国と敵対するイランでは、シリア作戦を担当していた革命防衛隊旅団長Hossein Asadollahiがコロナで死んだし 、2月中旬には中国海軍のミサイル護衛艦艦長も隔離されている 。そもそも第1次大戦末期には、参戦国の軍の間でスペイン風邪が大流行。もっと早く起きていれば、大戦はもっと早く終わっていたかもしれない。
4)今回、先進国政府・中銀が市場に投入すると表明した資金の量は、2008年リーマン危機の際を数倍上回る。既にリーマン以降、米国、日本の債券・株式市場は連銀、日銀が人為的に操作できる部分が大きくなっているが、コロナでは国家が巨額の資金で金融市場を「呑み込み」、自らの政策手段の一つにしてしまった感がある 。公的資金で底上げされた相場で、民間資金が市場原理に基づく競争をすればいいのだと言えばそれまでだが、それで本当に市場の透明性、活気は維持できるのか?
5)今回の事件は、部品・機械等の供給を他国に依存するグローバル・サプライ・チェーンの脆弱性を改めて認識させるものとなった。これでモノはすべて自国で生産されるようになるというのは素人考えで、グローバルな分業はこれからも続く。半導体の生産は数十の工程に分かれ、それぞれの工程に特別の機械が必要。それぞれの機械は米国、日本、欧州の企業が、機械Aは米国、Bは日本というように独占的地位を有している。こうした製品のグローバルなやり取りはこれからも続くのだ。
だから問題は、日米欧の企業がこれから自国内、海外、輸出仕向け国での生産の組み合わせを、どのように変えていくのか、というところにある。脱中国の傾向が嵩じると、中国は成長力を大きく失うことになろう。中国の経済はこの15年ほど過大評価を受けており、実際には日米欧の下請けの地位から脱していなかったのである。
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