ゲーム・チェンジャーとしての石油価格
(これは、3月25日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第95号の一部です)
コロナ・ヴィールスによる世界経済の低下は、原油価格の低迷を誘い、それは原油生産国の間の不和を誘って、現在はサウジ・アラビアとロシアが増産を競い、値下げ競争の中で市場でのシェアを確保するとともに、米国のシェール・オイルの駆逐をはかろうとしている。シェール・オイルの生産原価は最低でも1バレル30ドル以上であり、現在既に多くの油田で採算を割っている。サウジでの原価は6-10ドル、ロシアでの原価は16-28ドル程度であるhttps://myfin.by/wiki/term/sebestoimost-dobychi-nefti。但し両国とも、原油価格が下がりすぎると、現在の予算歳出レベルを維持できなくなる。ロシアは今年度の予算を、原油価格1バレルあたり約40ドルを想定して作成しており、手厚い社会保障予算を組んでいるサウジ・アラビアは、油価が80ドルを下回ると財政赤字になる(19年8月12日Bloomberg)。
シェール・オイルの生産が減少すると、米国は原油の大量輸入を再開するだろう。2003年4月米国はサウジ・アラビアから207万バレル・日の原油を輸入していたが、2019年12月にそれは47万バレル・日になっていた。これは1985年11月の記録的低水準に匹敵する。サウジ・アラビアはこの点、再び重要性を取り戻し、米国に反イラン政策を迫るだろう。他方、シェール・オイルが失墜する反面、ドルは中東原油輸入の対価として大量に海外に流出し、ドルによる世界支配を長引かせることになるだろう。
人は、すぐドルによる世界支配を非難するが、ドルが国際基軸通貨でなければ、それはどんどん減価して購買力を失い、米国市場は縮小してしまう。ドル支配があるからこそ、日本も中国もドイツも、多額の輸出ができるのだ。
なお、最近の米国世論では環境保全志向が強まっており、企業の社会的責任CSRも重視されるようになっている。米国の経団連に相当するビジネス・ラウンドテーブルは昨年8 月、企業の目的を株主の利益だけでなく全米国民の利益に奉仕することとする新ガイドラインを発表しているhttps://www.businessroundtable.org/business-roundtable-redefines-the-purpose-of-a-corporation-to-promote-an-economy-that-serves-all-americans。
こうなると、シェールの限界に直面した米国原油業界は、再生可能エネルギーに活路を見出そうとするかもしれない。早めに転換すれば、石油にしがみついてジリ貧となる代わりに、世界の新たなエネルギー産業を(それは多分水素になる)牛耳ることができる。
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