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世界はこう変わる

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2020年3月23日

トランプであろうとなかろうと、世界からの後退をはかる米国

米国がコロナ・ヴィールスで大騒ぎの中、トランプ大統領は元気がない。今なら国家非常事態を盾にとって、大統領選の延期でもぶちあげても良さそうなのに、その気配もない。もしかすると、株式市場を崩壊させ、コロナ・ヴィールスへの対処でも混乱を見せていることで、共和党議員、そして共和党のスポンサーたちから、彼の再選に対して「?」がつけられるようになり、政治資金の流れも減っているのかもしれない。それをうかがわせる論文が、Foreign Affairsの3/4月号に出たので紹介しておく。2月26日に配信したメルマガ「文明の万華鏡」の一部である)
 
 昨年11月に設立されたばかりのQuincy Institute for Responsible Statecraft(在ワシントン)の研究副部長Stephen Wertheim が、Foreign Affairsの3/4月号に、" The Price of Primacy Why America Shouldn't Dominate the World"という論文を発表。「トランプの次の政権」がとるべき世界戦略を提示している。
 
 Quincy Instituteは、民主党寄りと目されてきたジョージ・ソロスのOpen Society(「民主化」運動をグローバルに支援するも、イラク戦争には強く反対)と、上記、共和党茶会派の大スポンサーであるKoch兄弟のKoch Foundationが、米国の海外軍事行動に反対するため、50万ドルずつ拠出して設立したものだ。ここでWertheimが書いていることは、Koch財団の同意を得たものだろう。彼は、次のことを言っている。

1)冷戦終了の時、米国は海外から撤兵することもできたのに、逆にアフガニスタン、イラク、リビアでの不毛な戦争に手を付ける等、軍事的手段を多用してのグローバリゼーションを追求し始めた。そして軍事に力を注ぎ過ぎて、グローバルな「善事」(global common goods。環境問題と格差是正)への関心を欠いた。

2)米国は世界の人口の4%を占めるに過ぎないのに、世界の二酸化炭素排出の20%を占めている。そして米国が資本第一の姿勢を維持する中、世界における上下の所得格差は広がり、オフショアのマネロンも野放しで、世界のGDPの11.5%相当の所得が課税を免れていると推計される。

3)米国の軍事支出は大きすぎる。2位以下の7カ国のものを合わせた額よりも大きい。例えばシー・レーンを守るにしても、普段は沿岸国に任せ、米軍のプレゼンスは軽いものにしておけばいいのである。米国連邦予算の半分を国防に向けるよりも、教育、医療、インフラ、クリーンなエネルギー等に向けるべきだ。

4)冷戦の時代、敵対勢力の存在は米国内を団結させたものだが、現在の米国は様々な外敵をこしらえては国民の憎悪を煽り、それを利用して大統領になったりするデマゴーグが現れる。それは国内を団結させるのではなく、分断を強めるものである。

5)では米国はどうしたらいいのか。
・「米国第一」的ナショナリズムや米国主導の「リベラルな国際秩序」確立への妄執を捨てるべきである。前者は外部の世界に敵対的であり、後者は米国自身の利益を十分考えずに、世界を米国に無暗に従わせようとするもので痛みをもたらす。

・気候変動問題への対処に軸足を置く。新エネルギー源の開発への投資を増やし、化石燃料の生産者、輸入者に課税する。

・世界の経済を、もっと公平なものとする。世界規模での脱税と戦い、それによって米国の税収を15%は増やす。

・米国は800以上の海外基地を有するが、外交を非軍事化するべきである。アフガニスタンからは1年から1年半の間に撤退するべきであるし、イラク、シリアからはそれよりも早期に撤退するべきである。(米軍の撤退で)同盟・友好諸国は当初困るだろうが、彼らは時が経つにつれて地域の力のバランスを確立し、それによって平和と安定を守ることができるだろう 。もし(これら諸国に)本格的な攻撃が行われれば、米国は軍事的手段で応戦しなければならない。しかしこれも、対象、期間等を明確に定めておくのである。

米国は、不必要に敵を作るのをやめるべきである。例えば北朝鮮については、この国が完全に非核化するなどという幻想を捨て、関係を正常化し、朝鮮半島に平和をもたらすべきである。イランに対しても制裁を解除し、非核化合意に戻るべきである。

・サウジ・アラビアのような友好国(partner)とは関係の水準を落とし、自分達で自分を守るべきであることを明確にする。

・中国やロシアに対しては、金のかかる軍事競争や大規模戦争を避けるべきである。欧州そしてアジアにおいては、米軍の前方展開規模を大幅に減らし、中ロのいずれかが敵対的な拡張を始めた時には介入できる能力を保持するのみとする。

・中国は、東アジアを軍事力で制覇しようとは思っていない。中国は自分自身の領土を守り、境界領域や島嶼に関する小さな紛争に勝ち、台湾との関係(内戦状態)で優位を維持することしか考えていない。従って、中国の軍事的拡張に過剰反応することはやめるべきである。南シナ海においては、米国は中国の利益を認め、航海の自由作戦や人工島周辺での監視活動をやめるべきである。そのような事柄で中国と敵対する価値はない。

・アジアにおける米国の同盟諸国の防衛能力を強化するにおいては、偵察、対ミサイル防御力等の提供にとどめ、中国を挑発してはならない。当面米国は、特に気候変動に対しての中国の協力を得ることに注力し、中国を封じ込めようとしてはならない。

ロシアは欧州で覇権を求める力を保有していないし、米国の安全に脅威となるものでもない。ロシアと悪意のエスカレーションを避け、ロシアの重視する利益、例えば国体護持とか、国境周辺部において敵対勢力が出現するのを防ぐ等を認めるべきである。具体的には、NATOの拡張をやめ、10年のうちに一部の空軍、海軍力を除き米軍を撤収する。クリミアをロシアのものとして認め、制裁の大部分を撤廃して、ロシアと節度の取れた(decent)関係を築く。

以上の点については、次の感想を持つ。
〇この論文は、Quincy Instituteの出自を反映し、「次の政権」が共和党であろうが民主党であろうが、採用されることを想定したものとなっているが、共和党の資金を大きく握るKoch兄弟 がこの論文で、「トランプの次の政権」という言葉を容認し、トランプの内外政批判(反イスラム的移民排斥、対イラン政策等)も許容していることは意味深だ。

〇この論文の全体の色彩は環境・国民の福祉重視等、民主党的なものであり(他方、米国は自由・民主主義の旗手であるべきだ、とは書いていない)、Koch兄弟が強硬に反対しそうな代替エネルギーの開発、あるいはオフショアのマネロン規制を前面に掲げている。米国の企業は、トランプによる法人税の大幅切り下げで満足して、昨年8月のBusiness Roundtableの提言に見られるように、社会的責任を重視する姿勢に本気で転換したのだろうか。

〇戦後の米国外交は、海外への武力介入と内向きへの逆戻りの間を振り子のように揺れてきた。ブッシュ(息子)政権で前者に振れた振り子は、オバマ政権以来、内向きの方向に揺れ戻しており、トランプ、そしてこの論文ではそれは同盟国軽視・放棄の域に達している。この論文中の「(米軍の撤退で)同盟・友好諸国は当初困るだろうが、彼らは時が経つにつれて地域の力のバランスを確立し、それによって平和と安定を守ることができるだろう」等を見ると、同盟国として身構えざるを得ない。今の米国は第1次大戦後にも似て、振り子は内向きの領域内でのみ振れるようになっている。

〇この論文の筆者の中国共産党に対する見方は性善説で、環境問題での協力をかかげてすり寄る一方、同盟諸国に対しては冷淡である。「同盟諸国には僅かの空軍力・海軍力を保持するにとどめ、有事に駆けつける」と書いているが、これでは同盟諸国に不安感を与え、ロシアや中国と勝手に宥和政策を進めさせる結果に終わりかねない。そうなると米国は次第にその輪からはじき出され、ロシア、中国との力関係で自分自身が不利な立場に立たされることになるだろう。

〇この論文では日本について、名指しの言及は殆どない(それは、他の同盟諸国についても同様だが)。北朝鮮には核武装を容認した上で平和条約を結ぶ一方、日本は(不完全な)ミサイル防御兵器の提供で宥め、その核武装は認めないことを前提としている。「日本と韓国は既に14年間北朝鮮の核を見てきたのだから、米国が北朝鮮の核保有を認めても、自身の核武装を指向することはないだろう」というのが、Wertheimの言い分なのだが、これは無責任でアンフェアな言葉だ 。
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