まだ世界に残る、米国への期待感
(これは、1月22日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第93号の一部です)
Foreign Affairs誌の最新号が、米国のPew Research Centerの調査結果を掲載、イラク戦争をきっかけとした嫌米機運はトランプ大統領就任以降、一層高まったが、今ではむしろ米国がリーダーシップを放棄してリベラルな民主主義へのコミットメントも捨てることへの懸念の方が上回るようになってきている、と指摘した。それは次のような論旨になっている。
・トランプの大統領就任後、彼の不人気は、世界における米国への好感を著しく減少させた。2007年、ブッシュ(息子)大統領が国際裡で正しい方向で動いているとする者は、英独仏伊西瑞波の7カ国で中間値が21%しかなかったが、2019年調査では、トランプについての数字は右と同水準にある。2016年オバマが79%の支持を得ていたのより、著しく劣る。欧州以外の24カ国(国名不明)においても、31%の者しかトランプを支持していない。これら24カ国においては、米国に好感を持つ者はオバマ時代の64%から53%に低下している。
・しかし、米国を好まない理由は、ブッシュ(息子)時代とトランプ時代では変わってきている。ブッシュ時代は米国による一方的な力の行使、米国自身が戦後作り上げた国際基準、国際機関をないがしろにすることが嫌われたが、トランプについてはグローバルなリーダーシップとリベラルな民主主義から後退している点が懸念されている。
・この間、中国が台頭したことも、世界における対米観を変えている。米国は、衰退しつつある国と見られるようになった。2015年には、40カ国において中間値48%の者が、中国はいつの日か米国を越して最大の超大国となるだろう、あるいは既にそうなっていると考えていた。
・トランプ時代になると、世界の人々は、米国が世界で積極的な役割を果たそうとしていないことを見て取り、それに対する反感を示すようになった。終戦直後は、米国がマーシャル・プラン等によってリベラルな国際秩序を築いたことが支持を受けたが、現在の米国は国際秩序を覆そうとする勢力と見なされている。33カ国での調査では中間値18%の者しか米国の関税引き上げを支持していないし、環境問題についてのパリ協定からの離脱については14%のみ、メキシコとの国境の壁建設については24%、イラン核合意からの離脱については29%の者しか支持していないのである。
・米国はリベラルな民主主義を体現するモデル国だと考える者も減少している。2018年に調査した25の国では、「米国では個人の自由が尊重されている」と考えている者は中間値51%のみで、37%の者は否と答えている。この点での対米不信はオバマ時代、NSAが手広い盗聴を世界中で行っていることが暴露された時から強まっており、2013年ドイツでは81%の者が米国では個人の自由が尊重されていると回答したのに対して、2019年にはその値は35%にまで低下していたのである。
・事態はこのようであるが、米国のイメージは過去にも盛り返したことがある。今日も、人々は米国を見放していない。2018年25カ国での調査で、「最大の超大国が米国である世界と中国である世界と、いずれに住みたいか?」と聞いたところ、中間値63%の者は米国を選び、中国を選んだ者は19%しかいなかったのである。つまり、米国自身はますます統治困難な国になっているが世界の人々は、かつて世界のシステム――その多くの要素を人々は依然として好んでいる――を構築した国として、米国にリーダーシップを期待しているのである。
記事の内容は以上のようなもので、それほど奇想天外ではない。しかし最近の米国を見ていると、状況は本当にまた良くなるのか心もとないものがある。今回は次の諸点に鑑みて、原状復帰は簡単ではあるまい。
1) 米国自身が変質している。政党間の対立が過剰であり、外交は内政の単なる延長になり、そこでは真実より決めつけ、こじつけ(いわゆるNarrative)が幅を利かしている。
2) 米国政治は多額のカネで動く、一種の産業と化しつつある。そのため、一部の大資本家が政治、外交を左右する例が増えている。
トランプが再選されると、WTOや同盟体制は今の休眠状態ではすまなくなり、後戻り不可能なほど破壊されるであろう。そうなることを防ぐため、大企業にあるような外部監査メカニズムを米国について設けることはできないだろうか。米国に指導的立場を認める代わりに、同盟諸国による発言権を強化するのである。その代わり、同盟諸国は防衛と経済でもっと責任を果たすのである。
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