貧困の時代
(これは11月28日に「まぐまぐ」社から発行したメルマガ「文明の万華鏡」第79号の一部です)
米国もそうだし、日本、EUもそうなのだが、あたかも「貧困の時代」と言っていいほど、先進国の中産階級はしょぼくれている。米国ではしょぼくれているのを通り過ぎて、中産階級が収縮し、社会は上下両階層に分化しつつある感さえある。工業化で可能になったはずの「進歩」が足踏み、あるいは後退しつつあるのだ。これはやはり、1990年代央以降、先進国の生産が中国に大きく流出、中国人の生活向上を助けてきたからではないか? 2000年代、中国は西側との貿易黒字、そして西側からの直接投資を合わせると、毎年およそ30兆円相当以上の資本を得ていた。2016年にも貿易黒字は5107億ドル、直接投資流入は1260億ドルに達している。そして米欧では低所得の移民が社会で急増していることも、貧困化という印象を増幅している。
しかしこれは、基本的には前向きなことなのだ。中国人が豊かになって、消費を増やしてくれれば、先進国からの輸出も増えて、世界全体の経済の底上げにつながるからだ。同じことは、移民についても言える。後で言うように、20世紀初頭の米国では、今を上回る率での移民の流入があったが(米国の人口は1850年の約2300万から1920年には1億600万人に急増)、それは米国の工業化の中で消化され、GDPを数倍に引き上げている。
これは欧州からの白人の移民が殆どだったが(ジャック・アタリは「21世紀の歴史」の中で、彼らは世界の貯蓄の3分の1相当の資金を米国にもたらしたと書いている)、今は、最近まで多かったラテン・アメリカより、インドを含むアジアからの移民が増えている。彼らは教育水準も高く、貯蓄も携えての移住なので、基本的にはプラスとなるはずである(但し、米国の街頭の荒廃ぶりを見ていると、それが見えないのが問題なのだが)。
従って先進国社会の「貧困化」は、中国人の所得水準全体の底上げ、先進国への移民がもたらす経済成長効果の発揮を待って次第に解消され、世界は万年至福の状態になるはずだったのだ。
ところが中国は先進国から得た富を増やして成長し、増長し、先進国の企業をやみくもに買収する等、aggressiveな行動に出たことで、先進国との経済関係を大きく縮小されようとしている。そしてトランプは、移民を削減する意向を明らかにして、今年第1四半期の合法移民流入数は昨年同期で1割減少している。
これによって、先進国に製造業が逆流して雇用、賃金が上昇するだろうか? それとも製造業は中国以外の途上国に流出するだろうか? いずれにしても、世界全体での資本の量、そしてモノへの需要の量は変わらないので、モノはどこかで必ず生産される。これまでに獲得した富をめぐって様々なサービスが提供され、そのサービス産業によっても、世界のGDPは増大していく。世界全体が限りなく貧困化していくことはないだろう。
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