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世界はこう変わる

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2018年9月30日

最近のロシア情勢

最近、プーチン第4期就任後のロシア情勢につき日本での報道が少ないので、ロシア等での公開情報に基づく分析を以下に紹介する。

一言で言えば、プーチンの最後の(と思われる)任期は政策が新味と実効性を欠き、下僚及び実業界への抑えも効いていない、ぱっとしないスタートを示している(前回2012年も同様だったが)。彼は今回が最後の任期なので、しかるべきタイミングを狙って後継候補を首相にして花を持たせなければならないのだが(1999年、エリツィン大統領はプーチンを首相に据え、国内テロの罪をチェチェンに被せてこれを攻略、プーチンにこれを指揮させて[首相の本来の権限ではない]その人気を押し上げ、その頂点で、突如権力を禅譲したのである)、メドベジェフ首相は年金改革(改悪)の責を一身にかぶせられ、その支持率は下げ止まらない。但し、原油価格が上昇したことで、ロシア政府は歳入が大幅に上昇、気が楽になっているだろう。その分改革意欲はまたしぼむが。

外交では、ウクライナ、シリアではロシアが優位にあるし、西欧でもドイツとの関係を修復したことが大きいが、肝心の対米関係は米国内の分裂(反ロが、反トランプ運動の道具となっている)のために宙ぶらりんになったままである。世界の論壇では「新冷戦」という言葉が行き交っているが、米ロ間では協力も続いており 、シリアでは直接対決を避けるため作戦を緊密に連絡・調整し続けている。9月初旬に中国と大規模軍事演習を行う等、「中ロ同盟」化が喧伝されているが、これまでこの「東方」大演習の大宗は太平洋方面での米国、国境方面での中国による侵攻への反撃を念頭に置いたものであり、今回もその本質は変わっていない。中ロとも、相手を米国への当て馬として使っているだけである。

但し、米国での政治の展開次第で、米ロ・米中とも、関係が本当に「新冷戦」に定着していく可能性はある。米国議会では、ロシアを西側経済から実質的に締めだす(ドルを使わせない)制裁法案が準備されているのである。中間選挙が一つの分水嶺となるだろう。

1. ロシア情勢
報道からうかがえる、主要なトレンドは次の通りである。
1) 経済構造改革戦略の不在
 ロシアの最大の課題は、石油依存から脱却し、自律成長力のある経済を作ることである。
 プーチンは5月初旬、これからの任期6年の経済政策目標を発表したが、ここには実効性のある政策は見られない。中国にならってインフラ建設で成長率を稼ぐことに重点が置かれ、これに必要な8兆ルーブル分をかき集めることが(そして寡占資本家にとっては、どの案件を請け負うかが)、現在の内政の主要なイシューとなっている。

2) 大胆な年金制度・税制改正

先進国の中でロシアは際立って健全な財政、金融政策を維持している。財政赤字は無きに等しく、金利はインフレ再燃を恐れて高めに維持されている。にもかかわらず、中国にならってインフレ投資を拡充しようとしているところに矛盾がある。それは当然、年金支給年齢引き上げ等、誰かからカネを取り上げる方向に行くこととなる。

6月初めにはワールト・カップ騒ぎにまぎれて、大胆な年金制度・税制改正 が発表された。このうち年金制度改革(受給開始年齢を5年ほど延ばす)が国民の大きな反発を受け(平均寿命が短いので、年金をもらえずに死ぬ者が増える)、共産党、労組が反対運動を組織している。プーチン支持率は10%程低下し(彼は㋇末、テレビで年金制度改革措置を一部緩和する旨発表、支持率低下は止まっている)、直接担当のメドベジェフ首相の支持率は20%低下して8月には30%を割った 。このままでは、同人はプーチンの後継者たり得ない。

3) プーチンの「不在」と下部の乱れ

 これまでもそうであるが、プーチンは側近や寡占資本家たちの利権・勢力争いに関わることを嫌う。しかしそのような性向は、特に政権新任期の発足に当たっては、下部の足並みの乱れを露呈しやすい。今回は例えばベラウーソフ大統領府経済問題担当補佐官がプーチンの意向を読みそこねて、「昨年不当利潤を蓄積した製鉄・非鉄企業」から7500億ルーブルを搾りたてようとして失敗。8月末彼の召集した奉加会議は、大半の企業が無視して欠席した 。
 また、反対運動を取り締まるやり方が荒っぽくなっている。9月中旬には国内治安を司る国内軍「国家親衛隊」司令官のゾロトフがインターネットにビデオをアップ、自分の汚職をブログで書きたてた反政府政治家ナワリヌイを口汚くののしった末「決闘を申し込んで」いる。そして11日には同じく反政府のロック・グループPussy Riotに関わる記者のPyotr Verzilovが、毒殺未遂(と見られている)の目にあっている。

4) 閉塞感
プーチンも在職4期目になり、「なぜ大統領をやりたいのか」という点が不明確になって来た。「プーチンは疲れている。国民も彼に飽きている」と言う向きもいる 。そして7月18日の首脳会談の甲斐もなくとめどなく悪化していく対米関係と、次から次に米議会そして政府が繰り出す制裁は、社会の閉塞感を強めていよう。

それを象徴するものは、16日の統一地方選の結果であった。モスクワでこそ、与党のソビャーニン現職市長が70%の圧倒的得票率で再選されたものの(近年のモスクワでの住み心地は顕著に改善されている。それにろくな対抗候補がいなかった)、22の知事選では4カ所も決戦投票に持ち込まれた。特に、極東地域での与党「統一」の不振が目立つ。イルクーツク州では、州議会第1党は共産党となった。

5) 内政「司令塔」の不在
以上、プーチンが任期いっぱい、2024年まで大統領でいられるかどうか、心もとない。レーム・ダック化していく大統領の求心力を維持しつつ、政治を引き回していく「司令塔」が見えない。

6) 経済は悪くない

GDP成長率は2%弱を確保しており、最近の原油価格上昇もプラス要因となる。国民の実質可処分所得も1年で2%伸びている 。問題は、前述の構造改革のメドがつかないこと、構造改革を担えるような人材が政府・企業現場の双方でほぼ皆無であること、そして西側による制裁措置がじわじわとロシア経済の首を絞め(特に金融面で)、世界経済から引き離しつつあることである。ロンドン株式市場には一時70社のロシア企業が上場していたが、今では50以下に減少している 。そして米議会が現在準備中の新たな制裁法案は、ロシアの債券購入を禁止したり、ロシアの主要銀行の米国銀行との取引を禁じたりすることにより、ロシアを世界貿易から締め出すことも策している。

2.ロシアの外政状況
1)宙ぶらりんの対米関係

外交では、対米関係が協調でも敵対でもない、宙ぶらりんの状況に置かれている。プーチンはトランプと敵対することは避けている。彼は軍縮・軍備管理交渉は続ける姿勢を示し、ロケット・エンジンの輸出等協力関係も続けている。他方、欧州では台頭している極右政党との関係増進に意を用いるとともに、8月18日にドイツを訪問(クリミア併合以来途絶えていた)。トランプとの対立が著しいメルケルのドイツ、そしてトルコのエルドアン大統領と、「露独土枢軸」と囃されるような関係を築き始めている。

2)東ウクライナで武力衝突再発の気配
ロシアは、クリミアをほぼ完全に「消化」。他方、東ウクライナでは現状膠着状態が続いている。ロシアも、東ウクライナを完全に抱え込む政治・経済的リスクは避けたいのであろう。危険はむしろ、ポロシェンコ政権が東ウクライナ奪還戦闘をしかけることにある。ウクライナ政府軍は人員も増強され、かつ米国が、オバマ時代は控えていた殺傷兵器(対戦車ミサイル等)の供与を増強しつつあるからである。

3)シリア最終局面へ
シリアは、アサド政府軍が反政府勢力の最後の拠点Idlibに迫っている。ロシアにとっては基本的に有利な情勢だが、イスラエルが国境地域でイラン革命防衛
隊勢力が跋扈するのに反対していること 、トルコも難民が大量に流入するのを嫌ってかIdlib制圧作戦に抵抗していること等、勝利にめがけて最後に調整するべき事項が残っている。

4) アフガニスタンでの挫折
ロシアはアフガニスタンのタリバンに渡りをつけ、4日モスクワでアフガニスタン政府、タリバン、パキスタン、イラン、中国の代表を集めての和平促進会議を策した。しかし、ガニ・アフガニスタン大統領が直前になって出席を延期したため、挫折している。

5) ロシア極東は中国が席巻
ロシア極東では、「中国のカネと技術」が日本の影を薄いものにしている。6月のプーチン訪中に合わせて、中国開発銀行はロシア対外経済銀行に6000億ルーブル強の借款を供与することを表明した。またこれまでなかった、中国への天然ガス・パイプラインは近く完成する運びである。但し、中国の石油企業CEFC社がロスネフチの株を買収する話は、同社社長が失脚して逮捕されたことで消えている。

9月初旬開始された大規模軍事演習「ヴォストーク(東方)」は実に30万人もを動員して行われたが 、3000名もの中国軍が参加したことで注目された。もっとも、ロシア軍はこれまでも3年に1度、大規模の演習を極東地方で行っており、その主要なシナリオは中国軍による侵攻を撃退することである。今回も、中国軍が1カ所の演習場に貼りついていたのと異なり、ロシア軍は随所で中国軍侵攻を撃退する演習を行っていたようである 。ロシアのマスコミにも、中国に警戒するべしとの論調は頻繁に出ている。

6) 北朝鮮での存在感
北朝鮮については、ウラジオストックでの東方フォーラムで、プーチンが「北朝鮮の安全を周辺諸国が集団で保証することによって、同国の非核化を助ける」という趣旨の提案を行ったことは、世界のマスコミに無視されているが、日本としては乗ってもいい話である。なおロシアは金正恩に対して数度、訪ロ要請をしているが金は動かない。少々異常であり、中国が止めているのかもしれないし、あるいは金正恩の実兄である金正哲がロシアに匿われていて、それと対面させられるのが嫌なのかもしれない。

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