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世界はこう変わる

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2018年9月10日

トランプが変える国家統治のやり方

(これは、8 月22 日に「まぐまぐ」社から発売したメール・マガジン「文明の万華鏡」第76号の一部です。このメルマガを毎月早く入手されたい方は、http://www.japan-world-trends.com/ja/subscribe.phpにて、講読の手続きをお取りください)

先月も書いたが、トランプのポピュリズムというか、素人・新人政治が、米国の外交スタイルをどのように変えているか、少し具体的に、しかし思いつくままの順で書いてみる。彼のやることがこれまでの世界を変えてしまうかと言うと、そこはそうならないような気がする。議会、官僚、マスコミ側からの反撃が強くて、ものごとはトランプの思い通りには進んでいないからだ。他方、トランプのやっていることのいくつかは、近代の民主主義統治メカニズムが空洞化・硬直化しているのをついていて、今後改善していく上で参考になる。

1) 条約・合意の耐えられない軽さ
条約や署名をした合意は、国家間の約束として、非常に重く扱われてきたものだ。一方的に運用を変えたり、守らなかったりする国は個人の間と同じく、約束を守らない国として相手にしてもらえなくなって不思議でなかった。

米国は自らの力を背景に、以前からWTO の裁定も無視してきた国なのだが、トランプはそれをもっと広げて、「前任者オバマのやったこと」はすべて引っ繰り返すようなことを口走り、かつ実行する。

こうやってどの国も、選挙のたびに前政権の結んだ条約・合意の多くを破棄、あるいは見直すということになると、世界は大変なことになる。条約の多くは明日をも知れぬ身となるから、企業は安心して投資、取引ができなくなる。

2) 官僚的手続きの無視・首脳外交のショー化
トランプ米国では、国務省を筆頭に、多くの省で次官補(日本なら局長クラス)以上の幹部の半分程度が空席になっている。重要な政策なら、ホワイト・ハウスで何とか回せるのだが、それでもボロがしょっちゅう出る。

例えばトランプの頻発するツイッターは、現代の統治スタイルとしてはコロンブスの卵のように斬新なもので――とは言えルーズベルトは既に戦前、当時は目新しかったラジオを通じて全国民に(一方的にだが)語りかけていた――、効果抜群なのだが、事実関係が誤っていたり、事実を誤解していたり、法的、予算的に実現できないアイデアだったりで、米国そして全世界を振り回す。

首脳外交は確かに人目を引くのだが、全ての国と全ての問題について首脳外交をできるわけもなく、官僚による事前の瀬踏みと問題点の煮詰め、そしてトランプ自身による事前の熟考も経ていない首脳外交は内容の無いムードだけのショーで終わってしまう。トランプは政治・外交の当事者と言うよりは、今でもオバマの外交政策を批判して、選挙で票を取るノリ、あるいはテレビ・ショーの司会者として世界の有名人をスタジオに招き、いろいろ懇談して視聴率を稼ぐノリで、会談の後は議会、官僚に丸投げなのだ。

北朝鮮の金正恩委員長との会談は具体的成果もなく、緊張のガス抜きをしただけに終わっているし、7月16日のプーチン大統領との会談では宥和ムードを醸し出したと思ったら、それが国内で非難を浴び、国務省でさえ対ロ制裁を強化する始末。

一言で言えば、トランプは外交をしていない。彼は国内の選挙運動だけやっていて、外国との問題は国内で受けを取るのに利用しているだけなのだ。この中で、米議会が大統領を実質的に禁治産(禁外交)処分にすることが増えている。典型例は対ロ関係で、昨年夏、議会が超党派で採択した法律により、トランプは対ロ制裁を緩和する時には議会の事前承認を取らねばならない。

3) 統合失調症の政策
トランプの「政策」は、受けのいい選挙スローガンの寄せ集めで、全く逆の方向を向いたスローガンAとスローガンBが一つの政策になっていることがある。例えば、国防予算ではロシアが主要なターゲットの一つとなっているが、トランプはロシアは脅威ではないと言い、NATO諸国に対してはロシアが怖いなら自分で国防費を増やせと言っている。
経済政策でも、FRBが利上げをするのに反対しているが、そうなるとドル安になって貿易赤字が増えることには気が回らない。法人向けの大減税をしても、代替財源のことは考えない。

  以上のトランプのやり方は、これからの世界でグローバル・スタンダードになるのだろうか? そうではあるまい。米国でさえ、揺り戻しが起きるだろう。ただ、トランプのしていることは、19世紀以来の世界のガバナンスが目詰まりの状態を示しているのを、根底から刷新するための参考にはなる。例えば彼が外部から大統領選に参入して共和党組織を牛耳ったやり方は、政党を軸とする現代の民主政治の枠を壊すものだし、自分の政策はツイッターで国民に直接売り込み、マスコミを「でたらめニュース」と決めつけていることは、マスコミの存在意義を奪うものである。いずれも、ファシズムすれすれのポピュリズムには特徴的なものなのではあるが。
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