多国籍企業の経営モデルの一大転換 グローバル・チェーンから地産地消へ
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トランプがこれだけ米国の製造業保護にこだわると、世界の投資資金の流れが大きく変わりかねない。米国企業が1970年代、日本企業の輸出攻勢に押されて(それは米国の労組が賃金や年金の水準を上げ過ぎたのが大きな原因だが)海外に身売り、あるいは海外での生産に移転して以来――当時は米国工業の空洞化ということが盛んに言われたものだ――、低賃金労働の国を見つけてはそこで製品を組み立てるのが世界の製造業に流行のモデルとなった。これは途上国の側にしてみれば、直接投資を誘致して急速な経済成長をはかる機会ともなったもので、その最たるものが1990年代以降の中国の成長モデルなのだ。日本は終戦後、当時の低賃金を活用して世界市場を席巻するが、1985年のプラザ合意による円高以降、海外での生産比重を増大させる。
そして今回トランプは、鶴の一声でこのトレンドに終止符を打とうとしている。彼の言う、米国で売るものは米国で何でも生産するのは、米国の消費者の利益になるわけではないし、それができるかどうかもわからないのだが、世界の企業にしてみれば、メキシコや中国に新たに工場を作るには二の足を踏むようになるだろう。
そうやって地産地消が主流になると、どうなるか? 世界のGDPと貿易額は縮小するだろうか? 結論から言えば、貿易額は減るだろうが、世界経済が停滞に向かうことはないのでないか? と言うのは、多国籍企業が生産を中国から米国に移しても、生産する台数はこれまでと変わらないからだ。中国の景気は冷えるから米国からの輸入も減るだろうが、それを相殺する生産増が米国で起きるだろう。
地産地消は生産原価を上げ、地元の消費者の負担を増やすだろうか? おそらくそうはなるまい。ロボットの多用などで、生産原価は抑制することができるだろう。
地産地消は、多国籍の製造企業にとって打撃となるだろうか? これもそうではあるまい。自動車や家電等、消費財のブランド製品のグローバル販売量は、維持できるからである。製品を差別化するための開発は、数カ所に集約できる。今の時代、それを実際の生産・組み立てに落とし込むのは、コンピューターを使って行うことができる。つまり米国でも途上国でも機械を置いておけば(あるいは組立だけを請け負う専業企業が巨大化して規模の利益を確保してくれるかもしれない)、開発拠点からその機械に製造のための情報をインターネットで送付すればいいからだ。
そして多国籍企業は各国での地産地消を連結決算で総合し、それによって株価を維持し、開発のための資金を確保することができる。但し、多国籍企業はこれから益々「多国籍」になっていくだろう。この点では日本の大企業は、最も後れた存在であり続けようが、それが致命傷になるわけでもなく、スタッフの同質性が力を発揮する時もあるだろう。
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