米中経済コネクションの深度
(これは、3 月28日に「まぐまぐ」社から発売したメール・マガジン「文明の万華鏡」第71号の一部です。
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ワシントンでは対中警戒心が高まっていると報じられているし、トランプは関税率引き上げ(まだ実施されていない)、南シナ海での「航行の自由」作戦の再開、「台湾旅行法」の成立(これで米国と台湾の間では首脳相互訪問さえ可能となる)等で中国を追い詰めようとしているが、米国は果たして中国とどこまで対決するつもりなのか。
米国は最初は西部、次に太平洋訪問に伸びることで大きくなった国だ。そして太平洋方面での最大、そしてほぼ唯一の関心事は中国での経済的利益を獲得することだ。1905年、日ロ戦争で、セオドア・ルーズベルト大統領は「日本のために」ロシアとの和平を仲介してくれたことになっているが、彼はこの機会に満州の経済利権に米企業が入り込むことも目論んでいただろう。だから彼と親しい鉄道王のエドワード・ハリマンが南満州鉄道の運営権を手に入れるのに失敗すると、日本に冷たくなっていったものと思われる。
その後(詳しいことはこの文章の末尾にある拙著「米中ロシア―虚像に怯えるな」参照)、米国は満州の利権を日本が独占しようとするのに不満を強めたし(当初は日本を協調融資団に引き込んでコントロールしていたのが、日本側の窓口の井上準之助蔵相が1932年に暗殺されて不信感を決定的なものにした――「ウォールストリートと極東」(三谷太一郎著)に詳しい)、日華事変が始まってからは、国民党政権が米国を対日戦に引き込む工作を強化した。浙江財閥の御曹司で国民党政権の財政部長を務めた宋子文はワシントンに滞在してロビー工作、大統領と話の出来る関係を作り上げた。彼の妹で蒋介石の妻、宋美齢は昔米国に留学して磨いた英語を駆使して米国内を講演行脚、反日ムードを煽り立てた。そして彼女は米軍人シェンノートを中国に高給で連れ帰り、ビルマの「援蒋ルート」を叩こうとする日本軍を空爆させたのである。そして日本が「最後通牒」だと見なして開戦決定をするに至った、例の「ハル・ノート」は事前に蒋介石に見せられて、トーンを大いに激しいものにされたのである。つまり、中国人移民問題で大いに悪化していた当時の米中関係は、日華事変を契機に180度転換、黄禍論は「可哀想な中国」に転化していったのである。
同じことは現代でも起こるのか? それは、米国が中国から得る利益と脅威のどちらが大きいかによるだろう。米国が対応を誤まれば、それは先端技術の決定的な流出につながって、米国は本当に「世界2位の経済大国」に転落してしまうかもしれない。米国は、その判断を曇らせるだけの利益を中国に持っているか?
一つには、中国が米国の国債を大量に保有していることがある。しかし売れば、価格が暴落して中国の手持ち分の額が縮小する。また売っても、日本などがそれを買えば、米国にとって問題は生じない。
米国企業は中国に大量の半導体を輸出している。例えばQualcommは台湾のTCMCを使って、中国の携帯電話の半導体回路をほぼ独占供給している。しかしこの多くは、中国で組み立てられているアップルやサムソンのスマホに組み込まれているものなので、アップル(実際には台湾のFoxconnだが)やサムソンが中国以外に組み立ての場所を移せば、中国はQualcommにとって死活的に重要というわけではなくなる。逆に中国は、Qualcommのチップなくして性能の良い携帯を作れないので、困るだろう。
ジェネラル・モーターズは中国で大衆用モデルを作って米国に輸入しているので、中国での生産台数の方が米本土でより多い。しかしこれも、米本土やインドに移転することができるだろうから、死活的な利益と言うほどではない。
他にゴールドマン・サックスなどの投資銀行は、中国経済の台頭期、中国株の米国上場を請け負ったりして莫大な利益をあげたはずである。今はどうかと言うと、中国の資本規制が厳しくて、もうかるビジネスをできずにいるのではなかろうか? 中国政府は米国投資銀行に中国国債を買わせたい、これはもうからないので米国投資銀行は中国国債を買うそぶりを見せつつ、もっと儲かる分野での規制緩和を中国政府からせしめようとしている――現状はそう見える。米国の投資銀行は、中国に危険なほど引き込まれてはいないはずだ。
他方、「チャイナ・コネクション」は、ワシントンの政治面で嵐を巻き起こし得る。トランプとその周辺がチャイナ・ビジネスに随分手を出しているからである。例えば王岐山の親族がやっていて、関係者が最近逮捕された海航集団傘下のHNAキャピタルは、トランプ大統領の顧問だったアンソニー・スカラムッチ氏の投資会社、スカイブリッジ・キャピタルの持ち株を約2億ドルで買収することで合意している。彼は、クシュナー氏の親友でもある。先述の保険大手、安邦集団の呉小暉も、クシュナー氏と会談、ビルの再開発を話し合ったようだ。(以上、「選択」18年2月号)。今はロシア・ゲートでワシントンは一色だが、米中関係が悪化すれば、「トランプのチャイナ・ゲート」も始まり得る。だからトランプは、いくら中国と対決しているように見えても、けっこう早い段階で手を握ってしまうかもしれない。
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