シリアの米軍が ロシア兵 を殺しても戦争にならないわけ
(これは、2月28日に「まぐまぐ」社から発売したメール・マガジン「文明の万華鏡」第70号の一部です。その後の情報を入れて、少し改変してあります。
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ロシアの傭兵企業Vagner社はロシア国防省の嫌われ者
2月7日、シリア東部Deir el-Zour地区で、ユーフラテス川対岸のクルド系が支配する石油・ガス田を制圧しようとしたシリア政府軍が米軍の攻撃を受け、「ロシア兵」が何名も(7名から100名以上と報道は錯綜)殺される事件が発生した。すわ、恐れられていた「米ロの偶発的衝突」、これからシリアで米ロ軍が大激突か、と思っていたら、何も起こらない。
報道を読んでみると次のことがわかった。この「ロシア兵」は、ロシアの傭兵企業Vagner社に雇われた連中。傭兵はロシアでは違法なので(今、これを規制するための法案を準備中)、これらの「ロシア兵」は浮かばれない。つまり、この世に存在していない、存在してはいけないことになっているからだ。
しかもこのVagner社を作ったのは、「プーチンの料理人」こと、ホット・ドッグ売りから叩き上げてレストラン・ケータリングの一大チェーンを作り上げた事業家イヴゲーニー・プリゴージン(孤児だったもよう。自分のレストランにプーチンが来たことで取り入った。ケータリングも傭兵派遣も似たような商売)で、彼はクルドが抑えていた石油・ガス田を狙って夜襲をしかけさせたのだ。アサド政府に金で頼まれたのかもしれない。
これまではISIS相手に夜襲はうまくいっていたのだが、今回は米軍が相手で、Vagner傭兵側の動きはずっと前から御見通し。ユーフラテス川のダムの水門を開けて、ロシアがかけていた橋を水没させて、補強を断ったうえで闇の中、ロシア傭兵達を暗視装置つき精密誘導兵器で殺していった。このVagner社のプリゴージン社長は、プーチンと近いのをいいことに、今回のように独自判断で動くものだから、ロシアの国防省には毛嫌いされているらしい。それで、今回米ロ衝突は起きなかったというわけ。
まったく政治の世界は奇奇怪怪。ロシアも相変わらず、90年代の無法状態が続いている。大統領選挙の後、足元での利権闘争はどんどん激しくなって、プーチンは指導力低下を見せつけることになるだろう。日本でも同じような問題が起きているが、スケールが小さい。
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