南オセチア「戦争」
北京オリンピックが世界の耳目を奪っているさなか、グルジアの中で以前から独立を求めていた南オセチアで、グルジア軍、ロシア軍と三つ巴の戦闘が激化している。
グルジアの中にあるアプハジアでもこの数ヶ月緊張が激化して(コソヴォの独立が今回の契機になっている)いたが、NATO加盟を求めているグルジアとロシアの関係がこれ以上激化するのは得策ではないと見て取ったEU、特にドイツによる調停が行われ(今のところうまくいっていない)、取りあえず緊張は緩和していた。今度は、南オセチアの「番」なのだ。
今回の事態のきっかけは、グルジア兵が数名南オセチアで殺害されたことにある。これに対してグルジア軍が本格的出動をして州都を制圧、これに対してロシア軍が出動して(もともと南オセチアに「平和維持軍」として駐留しているロシア軍がいたので、ロシアはこれを「増強」したのだと主張している)グルジア軍と本格的戦闘になっているということだ。
今回の事態が南オセチアの独立派勢力の動きに挑発されたものであるとするならば、それはアプハジアの独立派が西側の関心を引き寄せることによって好条件での調停を得ようとしていることに、南オセチアの独立派があせって、「自分も」と思った、ということになるだろう。
西側メディアが言い立てるように、「ロシアの拡張主義的性向の表れ」なのかどうかはわからない。南オセチアがグルジアから独立するのを助けたりすれば、ロシアの国内で少数民族が独立を求めた場合どうするのだ、とロシアの識者自身が自問自答している。
ロシアからの独立を求めて90年代2回の戦争を繰り返したチェチェンは、カディロフ大統領を頭にロシアへの帰順を誓っているが、最近モスクワの中央政府との間で予算配分をめぐって軋轢が起きているようだ。
クレムリンも一枚岩ではない。NATO加盟を求めてロシアに楯突くグルジアについては、これをロシアの内政上のカードとして使おうとする動きは、特に昨年目立った。グルジアを敵に仕立てて緊張を激化させ、ナショナリズムを煽って大統領選で勝利しよう、という目論見に基づくものだった。
大統領選も終わった今、グルジア情勢を激化させたい勢力がいるとすれば、それは新政権を試練にあわせ、失敗させてその権威を落とすことに利益を見出す連中かもしれない。
EU、米国がグルジアに本格的軍事支援を行うことは考えにくい。メドベジェフ大統領も本格的介入は望むまい。おそらくアプハジアと同じく、調停への動きに出てくるのではないか。
プーチン首相が北京にいる。オセチアでの戦闘に対する中国の立場は微妙だろう。米国が介入してくれば、「大国の介入には反対」と言っていればいいのだが、そうでなければロシアを支持して「南オセチアの独立を弾圧するグルジア政府を糾弾」できるかどうか。チベットのからみがでてくるからだ。
オバマ米国大統領候補は先般の欧州外遊では、グルジアを強く擁護しながらも、グルジア、ロシア、その双方に自制をよびかけていた。そしてグルジアにPKO(国連のお墨付きは一応得ているが、旧ソ連諸国による身内のPKOである)と称して駐留してきたロシア軍を、もっと本格的なPKOに取り替えることを提案している。
「旧ソ連諸国に国連PKO」---奇想天外に聞こえるかもしれないが、これはもう91年ソ連が崩壊したときから見えていたシナリオなのだ。今やっと、ここまで来た。グルジアに国連のちゃんとしたPKOが出るのなら、日本も大いに前向きに考えたらいいと思う。
以下、南オセチアについて把握している限りの最近の外紙(一部は国内紙)報道を以下に並べておく。すべて確認を要する記事である。
★これまでの経緯(の一部)
○南オセチア、90~92年戦争でグルジアから分離。6万人の人口だが(注:人口についてはいろいろな数値がある)、そのうち5000人以上が死傷(1000人が死亡)。2万人が南オセチアからロシアへ、10万人のオセット人がグルジアから逃げ出した。365の村のうち117が破壊された。
○06,11,12 親ロシア派政権による「南オセチア大統領」選挙と、グルジアからの独立の是非を問う国民投票が行われ、エドワルド・ココイトイ現大統領が再選される。国民投票では、分離独立が99%の支持を得る。
親グルジアのドミトリー・サナコーエフ元大統領は主に地元グルジア人から4万票を得たが、野に下る。
○サナコーエフはその後、同志を裏切り、南オセチアのグルジア系住民の大統領に選ばれる。グルジアに買収されたものと報じられる。
○07年5月 ココイトイ大統領はグルジアとの境界を封鎖。
ロシア政府から、合意の枠組みから逸脱しないよう、たしなめられる。
ライス米国務長官の訪ロ直前だったから(?)
○08年2月コソボ独立直後、ココイトイ大統領は「いくつかの国は年内にでも南オセチア、アプハジアの独立を認めるかもしれない。しかし、ロシアが最初の国とはならないかもしれない」とロシアの議員に述べる。つまり、ロシアにもっと明確な支援を求めているのだ。
○08年3月、グルジアは南オセチアのJoint Control Commission から代表を一時引き上げ。
構成がロシア(平和維持軍つき)、南北オセチア(独立グループ)とグルジアという4者で不公平なため。
OSCEの「グルジア・ミッション」が同席しているが、オブザーバー的。
グルジアは南オセチアのグルジア系政府、EU、OSCEも入れた6者協議とすることを主張。
(ここらあたりが、これからの事態の打開の核となってくるかも)
○08,4,21 プーチン大統領はアプハジア、南オセチアへの支援措置を発表した後、グルジア・ワイン、水等の禁輸、査証制限を緩和することの検討を政府に命ずる。
ここで、ロシアとグルジアの関係は収まったかに見えたのだ。
ところがその直後にグルジア側が、「グルジア政府の無人偵察機がアプハジア上空でロシア戦闘機に撃墜された」としてそのヴィデオまで公開したものだから、両国の関係はまた暗転した。
だがこの「撃墜事件」についてグルジアは、国連安保理ではあまり支持を得られず、ロシア国連大使は「それはアプハジアがやったこと。ロシアはアプハジア、南オセチアと外交関係を持とうとは思っていない」と述べた由。つまり、ロシアはアプハジア、南オセチアの独立をはかる意図は持っていないと言ったのだ。
○他方、ロシア外務省のケニャイキン独立国家共同体(CIS)担当特別代表は4月25日、アプハジア自治共和国と南オセチア自治州でグルジアとの間の軍事紛争が起きれば、ロシアは両地域に住むロシア人を保護するため軍事力を行使すると強く警告した。ケニャイキン特別代表はまた、グルジアが近くアプハジアへの攻撃を開始する恐れがあるとも指摘した。
○その後ロシアではメドベジェフ大統領就任式があって、グルジア情勢はまた静かになってしまったのだ。
○08年5月20日、モスクワで北オセチア併合225年記念祭。
こうすることでロシアは、南オセチアの独立支持をアピール。
(しかしここらへんまでは、リップ・サーヴィスの域を出なかったのだ。ロシアにとってはあたかも面倒ごとででもあるかのように)
★現状
○07年11月現在、グルジア政府は南オセチアの40%しか支配していない。
○ロシアが「南オセチア政府」の公務員の給料を払い、平和維持軍を駐留させている。
07年現在でも、取材は難しいかった。
○オセチア当局者はソ連的である。08年現在、警官多く、警察国家的でもある。
○人口の96%がロシア国籍を有し、旅券も持っている。国防相、諜報機関の長官はロシア人である。
○ロシア領のイングーシ共和国と南オセチア間では、Prigorodny地区の境界が決まっていない。
○ロシアにはシェヴァルナゼ大統領時代のグルジア諜報機関長官ギオルガーゼとその部下達が亡命しており、反サーカシヴィリ勢力として活動していることだろう。しかし、これについて最近は全く報道がない。
★南オセチアのロシア軍
○1992,7 Dagomyssky Agreementに則り、ロシア、グルジア、南オセチアの大隊が平和維持兵力として展開。共同司令部があり、司令官はロシア人。500名。
○08年3月ロシア陸軍副参謀長 ヴァレリー・Yevnevich(?)によれば、オセチアにロシア兵587名。
05年予算(モルドヴァ、アプハジア等への駐留兵も含め)は1.45億ルーブルだが、装備、維持費で手一杯。
★今後
○ロシアはチェチェン独立を正当化するのを恐れ、アプハジア、南オセチアをグルジアから独立させようとはせず、グルジアとの連邦化を追求するだろう、との見方あり。沿ドニエストル、モルドヴァでこの方式が追求されている。
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