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2017年12月 5日

大統領選を前にして不透明なロシア情勢

プーチンは2000年以来ずっと、ロシアの頂点にいる。石油価格の高騰にちょうど行き当って、ロシアは90年代の混乱をすっかり克服したように見える。しかし、ソ連時代の集権経済が残した傷(と言うか、宿痾)は治っていない。そして来年3月に大統領選が迫っているのに、本命のプーチンはまだ出馬を表明していない。シリアやウクライナでは米国の鼻を明かしたプーチンも、実は米国のオウン・ゴールに乗じただけ。国内では米国のような便利な敵はいない。
というわけで、最近のロシアの情勢をまとめておく。一言で言えば、クレムリンの選挙戦略が全く見えないこと、そしていつかは必ずやってくる「プーチン後」の国家のあるべき姿も全然見えないこと、この二つが基本的な問題なのだ。

内政の方向感不在
・プーチンは外交では華々しい成果を挙げているかに報じられているが、肝心の対米関係が宙ぶらりん状態になっている。トランプがレジーム・チェンジはやめると公言しているのはロシアに好材料なのだが、民主党がトランプのロシア・コネクションを批判材料にしているため、トランプはロシアに手を付けられない。先般APEC首脳会議の際には米ロ首脳会談もできず、米中接近ばかりが印象に残った。さりとてプーチンはトランプ批判・反米に転ずることもできず、そのため大統領選で反米ナショナリズムを支持獲得の手段として使うことができずにいる

・2014年のクリミア併合では、反米・ナショナリズムが燃え盛り、プーチンの支持率は90%周辺に上昇したが、今ではその熱も冷め、世論の関心は「生活」に戻っている。2014年の原油価格下落で不振に陥ったロシア経済は(西側による制裁は目立った被害を与えておらず、西側資本市場での起債も次第に増えている)底打ち傾向を示していたが、第3四半期の成長率は再び年率で1.8%に下落(第2四半期は2.5%)、トンネルの先はまた見えなくなっている。しかも1990年代の大混乱期に出生率が大幅に下がった影響が今、労働年齢人口の劇的な減少として顕現している。右減少は2010年―2016年で既に660万に上っているが、オレシキン経済開発相はこれからの6年で労働年齢人口は480万人更に減少するだろうと述べている。

・この中で、本来なら国内政治を引き回すべき大統領府第一副長官のキリエンコは上からの指示待ちで自らは明確な方向を示していない。最近のプーチンは「マクロ経済について担当大臣たちと(何度も)話し合」ったり、IT大手のYandex社を訪問して産業革命4.0について語ったり、スターリンの大粛清の犠牲者追悼碑の除幕式に出席したりで、政治家より評論家と化し、一貫した方向が見られない。(但しシリア情勢の収拾ではトルコ、イラン首脳等を相手に活発に動いている)

見えない大統領選
法律によれば、大統領選は3月18日となる。選挙日前の90~100日の期間に選挙日が正式に明らかにされ、立候補の受付、認定と共に選挙戦がスタートする。しかし前回選挙ではプーチンは半年前に出馬の意向を表明していた。今回の状況は、メドベジェフの立候補が選挙の3カ月前に明らかにされた2008年の選挙を想起させる。但し今回はメドベジェフへの信頼度は、3月にナワリヌイがYouTubeに流し、2000万人以上が視聴した、彼の特権濫用告発のビデオで大きく落ちており、彼を再び出馬させるのは大きなリスクを伴う。

・従って、刑事裁判の決着が未だついていないナワリヌイの出馬を中央選管が認めるかどうかが、大きな注目点となる。認めれば、ナワリヌイはプーチンも含めての上層部の腐敗を大々的に暴く挙に出るだろうし、認められずとも同じことをして、今のところ盛り上がっていないクセニヤ・ソプチャク(有名なテレビ・パーソナリティー)に青年・リベラル層の支持を集めようとするだろう。

・こうした状況は、2011年冬を強く想起させるものになっている。当時はプーチンが不透明な手続きでメドベジェフを下して大統領に返り咲く意向を示したことに世論が反発、12月の議会選挙の開票に不正ありと叫んでの反政府・反プーチン集会が全国で燃え盛った 。モスクワのクレムリンの至近距離で開かれた集会では10万人が集まったと言われる。今回は大統領選の結果をめぐって、同様の騒ぎが起こる可能性がある。あるいは逆に、大統領選直前にテロが演出され、非常事態宣言とまでは行かずとも、反政府運動を規制した上での選挙が行われることになるかもしれない。

「プーチン後」に向けて
評論家パブロフスキーが言うように、「プーチン後」こそが最大の問題なのだ。プーチンはエリツィン期の大混乱を収めるとともに、石油・ガス収入を再び国家の手に収め、2000年代の原油価格急騰に乗ってこれを配分、それで国内の支持を集めた一種の「つなぎ」指導者なのである。彼が築いた安定の上に、どういうロシアを作るのか、民主主義体制等、近代化の面では西側に周回遅れのこの国を、産業革命4.0の中で2周回遅れ にしないためにはどうしたらいいのか、解法はいっこうに見えないのである。
それでもロシア人は、西側の文明の最新成果を利用するのには長けていて、インターネットの活用ぶりでは日本人を上回る面を持っている。だからロシア人は周回遅れになっても、結構西側と対等のレースをしている気分でいるだろう。

青年は変化を求めるか

どの国も同じで、ロシアにも変化を求める真面目な青年達はいる。しかし世論調査では青年層の過半も現状支持である 。ロシア世論の大半は、「改革」、「民主化」を信じない。90年代、それでひどい目にあったからだ。汚職には批判的でも、自分の生活に問題なければ目をつぶる。
そして、ロシアの労働力の3分の1以上は政府から賃金を得ているが、その公務員賃金は来年引き上げられ、ロシア全体で4%程度の実質賃金上昇を政府は見込んでいる。従って、一部のリベラルな青年達は、今回もデモや小規模テロなどの「騒ぎ」を起こすのがせいぜいだろう。
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