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世界はこう変わる

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2017年10月24日

中国が北朝鮮を 懲罰 する時

(これは17日発行の日本版Newsweekに掲載された記事の原稿です)

 日本では脳天気な総選挙をやっているがー最大の「成果」は民進党の分裂と保守の焼け太り―、日本の周囲ではパラダイム・シフトが進行中だ。米国の北朝鮮制裁に、ロシアと組んで抵抗してきた中国が、石炭輸入の停止、原子力工学分野での北朝鮮留学生受け入れ停止等、本気を見せ始めたからである。中国は北朝鮮の核への対処を、単なる対米協調を超え、自分自身の安全に関わる問題と捉えはじめたのだろうか。これをきっかけに極東は、「G2」=米中共同支配の方向に向かうのだろうか。

 9月中旬、賈慶国北京大学国際関係学院院長は外国誌への寄稿で、米韓による武力介入(陸軍兵力での北朝鮮進入は認めないとしている)に向けてすり合わせを開始する用意があること、接収した北朝鮮核兵器の管理は中国が行ってもいいことを述べた 。そして9月24日朝日新聞とのインタビューで同院長は、北朝鮮の核がテロリストの手に渡る等、中国の安全を直接脅かす可能性にも言及している 。

2日には、米海軍大型空母「ロナルド・レーガン」が朝鮮半島沖での米韓共同演習を行う途上 、香港に寄港した。米空母の香港寄港はこれが初めてのことではないが、昨年は南シナ海情勢緊張の中、寄港を許さなかった ことに照らして見れば、北朝鮮に対して米中接近を見せつけようとしたのだろう。

 1979年2月、中国の鄧小平は「同盟国カンボジアに武力侵攻したベトナムを懲罰する」と宣言して中越戦争を始めた。中国軍は実質的に撃退されたが、鄧小平は人民解放軍への抑えをこれで盤石なものとした。

今回、米国は巡航ミサイルと爆撃で北朝鮮中枢施設と核関連施設、そしてソウルを狙う砲撃陣地を破壊、中国は陸軍で国境を固める一方、特殊部隊を送って北朝鮮の核兵器を鹵獲、かつ政権交代を後見する。

例えばこんなシナリオがうまくいけば、習近平は軍掌握を確かなものにできるだけではない。台湾や南シナ海の制圧に乗り出して外交上孤立するより、北朝鮮を「懲罰」することで対米協調を演出、「アジアは中国に任せる。但し米国とはきちんとつきあうこと」というお墨付きをトランプから得ることもできよう。米国は、太平洋戦争の成果物である在日基地を捨てないし、日米同盟は続くだろうが、アジアでの日本の地位、発言力は大きく落ちることになる。

しかし、米中は本当に武力行使に踏み切るだろうか? やるのなら、指導者を交代させ、核施設を破壊・制圧するのでなければ意味はない。しかも、ソウル等を狙う砲撃・ロケット弾陣地を短時間のうちに破壊しないと、ソウルが本当に火の海になってしまう。そして落下傘降下の特殊部隊の投入程度で、文字通り「地下にもぐっている」金正恩を捕捉できるのか? それができても、北朝鮮の上層部、国民を納得させられる後釜はいるのか? そして何よりも米中は、北朝鮮の保有する核兵器・核開発能力の全てを捕捉して、報復攻撃、あるいは海外への流出を防ぐことはできるのか?
 
大規模な武力行動の前には、きな臭さが漂ってくるものだ。朝鮮半島周辺にはもっと多数の米軍艦艇が集結するだろうし、中国の大軍が北朝鮮との国境地帯に移動するだろう。そのきな臭さが、今回はまだ感じられない 。

ということは、トランプと習近平は、核開発の是非は話し合いの対象にはしないと言い張る金正恩を押さえつけ、交渉のテーブルに引きずり出すため、圧力を最大限かけているだけなのではなかろうか。

この方向で収拾できるなら、極東でパラダイム・シフトは起こらない。しかしもし、トランプが韓国を防衛する負担の軽減を狙って、北朝鮮と平和条約を結ぶ決心をすると―米国務省、国防省は反対している―、極東の国際政治の枠組みは大きく変わる。在韓米軍は撤退、そして裸になった韓国は北朝鮮との統一を指向、ということになるだろう。

何度も言うように、その時は日本の隣にロシア以上のGDPを持つ核保有国が出現し、中国、ロシア、米国を相手にバランス外交を繰り広げることになる。

こうした動きの中で何もできず、しないでいる日本。敗戦国の耐えられない軽さ・・・選挙戦の虚しき喧噪のなかでそんなことを感ずる今日この頃だ。
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