「プーチン後」はどうなるのか
(これは、9月27日発行したメルマガ「文明の万華鏡」第65号所載の記事の一部です。
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ロシア経済は2010年代初期、構造的な(要するに石油・ガスでだけ食っているということ)停滞の兆候を見せ始めたところに、2004年末の原油価格暴落の打撃を受けてルーブルは40%も減価、以後マイナス成長を続けてきた。2016年には遂に、「インドネシアよりわずかに大きい」程度にまでその経済規模(ドル・ベース)は矮小化したのである。それが本年央くらいから、底打ちの兆候が見え始め、第2四半期は2.5%(対前年同期比)の成長を示し、インフレは3,2%と近来になく低下している。下がる一方だった実質賃金も、5月には3%の上昇を見せている(対前年同期比)。つまり来年3月(おそらく18日)の大統領選を前に、経済情勢は好転している。
社会の関心は諸世論調査を見るに、クリミアやウクライナなどのナショナリズムから、暮らしに完全に移行している。大統領選を意識してだろう、プーチンは8月15日与党幹部に、国防費を削減することを公言している。ソ連崩壊以降、「崩壊」の様相を強めていたロシア軍は、原油価格高騰の恩恵で2008年以後、国防費が倍増、シリアでは巡航ミサイルをお目見えさせる等、軍事大国として復活したかの幻想を内外に振りまいたが、原油価格の低落とともに一休止というわけである。そのことは、ソ連時代の「バターより大砲」ではもはや大衆の納得は得られず、大ショッピング・モールが林立するロシアの現状では「大砲よりバター」になってしまったことを意味している。
そしてモスクワはソビャーニン市長の下で美観化が進むと同時に、IT活用の点では世界でも先頭を切る「住んで気持ちのいい」街になってきた。このことは、ロシア経済を上から目線で見がちな我々が心しておかなければならないことである。
こうした環境下―もちろん帝国主義的な対外膨張、あるいは社会主義的な「何でも分配」風潮は強く残っている、他方屈託のない青年世代も育っている―で、来年3月18日に大統領選が行われる。プーチンはまだ立候補を宣言していないが、7日ウラジオストックでの安倍総理との首脳会談で、「来年5月サンクト・ペテルブルクで行われる恒例の経済フォーラムで会う」ことを話しており、これは事実上の立候補宣言、そして「当選」宣言なのである。
問題は、「三選はない」(憲法で禁じられている上、プーチンは次の次の大統領選が行われる2024年には72才と、ロシアの平均寿命を超えている)ことが明らかであるために、プーチンは当選早々から「プーチン後を意識して動く」政治家、側近、官僚たちに囲まれる、つまり当選早々レームダック化する可能性があるということだろう。それは、「日本との北方領土問題を自分の任期中に解決する」という決意がどこまで実行できるかという問題にもつながってくるのである。
現在、ロシアの政府、大統領府では若返りが進行中である。プーチンがロシアのことを真剣に考えるのだったら、ここで大統領も若返りさせるというワイルド・カードを使うだろう。しかし、改革を進めつつも、拙速な改革政策で国内を不安定化させることもなく、プーチン側近達の利権も冒さない――というような有為な人材がいるだろうか?
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