今の世界、日本
(これは、メルマガ「文明の万華鏡」最新号の冒頭部分です。全文は「まぐまぐ」社のサイトでお求めになることができます)
米国トランプ政権の陣容が固まるのが遅く(もしかするとそれは官僚組織を破壊するために意図的にやっているのかも)、米中、米ロ関係を初め、国際関係の大枠は宙ぶらりんになったまま推移しています。世界の多くのことは米国の立場が決まらなければ動きにくい。要するに、いろいろ言われる割には、世界における米国の指導的立場には揺らぎがないことが如実になっています。
その中で米国では、大統領選での敗北が悔しくて仕方ない民主党(本来の支持層である、「恵まれない」人々を脇に置いて、ウォール・ストリートやシリコン・ヴァレーの大金持ち、成功者に擦り寄った結果、恵まれない人々をトランプに取られてしまったわけです)が、「ロシアが民主党本部のコンピューターをハッキングして情報を盗み、クリントン候補に不利な情報をマスコミに流したから、トランプが勝利した。トランプはロシアが担いだ候補だ」という話しを作り上げ、CNNなどは毎日毎晩、そのことばかり口角泡を飛ばして「ディベート」を繰り返しています。
その中で3月7日にはCIAが世界で手広く繰り広げているハッキングの手口がウィキリークスで暴露されました。これは、ロシアがハッキングしてウィキリークスに流したとされる情報は、実はCIAがハッキングしていたものかもしれないと思わせるものでしたが、どうやったのかは知りませんが、このニュースはあっという間にもみ消され、忘れ去られてしまいました。
CIAはこれまで、「民主党本部をハッキングしたのはロシアであると思わせる強い材料がある」という趣旨の発表までして、トランプの足を引っ張っていたのですが、そのCIAが本来の任務ではない米国内、民主党本部の情報を取っていたとするなら、その動機は何だったのか? あるいは特に政治的動機はなく、与党であれ野党であれ、どこの情報でも取っておこうとする諜報機関の性に基づくものだったのか、よくわからないことです。
よくわからないと言えば、トランプの「首席戦略官」であるスティーブン・バノン。この男は米国内の支配構造を引っ繰り返してやろう、官僚主義化した政府を大掃除してやろうという気概はいいのですが、中国、ロシア、日本などについて一体何を考えているのか、あるいは外国については関心を持っていないのか。そこが見えないのが、困ったところです。もしかすると、バノンは外国や世界に関与することにも反対なのかもしれません。
米国外交が宙ぶらりんである中、欧州方面ではこれまでの枠組みを変えてしまうような大きな動きは見られません。中近東では、イスラエル、サウジ・アラビアという米国の伝統的な準同盟国が、オバマがイランとの関係を進めた疎遠になっていた米国との撚りを戻しました。シリアについては7日、米ロ・トルコ三国の軍総参謀長がトルコのアンタルヤで初めて一堂に集まって会談しましたが、その前後には右三国の軍隊がシリア北東部マンジブ周辺で作戦。これがどこまでシリアでの米ロ妥協を意味するものかは不明ですが、少なくとも三国が無用の衝突を避けようとしていることは如実になりました。
アジアでは、韓国の朴政権が倒れ、親北朝鮮政権が誕生する動きになっていることが、朝鮮半島情勢にどう影響するか。もし韓国新政権が、米国に安保を依存していながらTHAADの配備は延期を要請する等、米国に甘えた姿勢を取れば、ひょうたんから駒が出て米国は本格撤退、韓国は仕方なく北朝鮮との連邦・統一国家化に踏み切り、それによって核を持った大国が朝鮮半島に出現する・・・こうなると、日本、中国、ロシアにとっての戦略的環境は大幅に変わることになるでしょう。
世界経済は、失業率が4.7%に低下した(再就職希望を当局に出していない人を入れると、実質失業率は8%以上だとも言われますが)米国を筆頭に回復基調にあると言われ、米国では15日に連銀が利上げをしましたし、EUについても利上げという観測が出ています。利上げはユーロ高につながるので、「対米黒字を減らしてくれ」とトランプに言われているドイツにとっては、悪いことではないでしょう。他方、これまでのユーロ安でも輸出を増やすことのできなかった南欧諸国にとっては、利上げは踏んだり蹴ったりということでしょう。
また米国については、14.3兆ドルの住宅ローン貸し越しがありますが、これら債務が利上げのために返済が難しくなると、2008年のリーマン危機以後の金融緩和で積み上がったバブルが破裂し、また金融恐慌の繰り返しになるでしょう。米国経済、EU経済は過熱かバブル崩壊かの間の綱渡りをしていくことになります。
その中で日本経済も先行き不明なところがあり、株式市場は膠着状態にあります。政権の一部は、「放漫財政の継続を保証することでインフレ期待をあおり、それによって企業家の景況感を改善して投資の増大をはかる」という、素人からは狂気の沙汰としか思えない「シムズ議論」なる似非理論で武装して、2019年10月の消費税引き上げを阻止する構えを今から見せています。
ここには、似非理論に特有の、原因と結果の倒置が見られます。つまり「需要が供給を超過するから価格上昇が起きる。すると企業は投資をして増産する。それによって経済が伸びる」というのが本筋なのに、似非学者は「需要が供給を超過する」ところを無視し、「価格が上昇すると投資が増える」という無理な「理論」にすり替え、価格上昇をしゃにむに実現しようとするのです。主婦感覚、消費者心理を全く知らない、机上の空論でしょう。価格が上がれば、消費者は財布のひもを絞ります。その結果、投資も、GDPも伸びはしないからです。
それに今は、クロネコヤマトも音を上げるほどの人手不足、つまり完全雇用状態になっているのですから、シムズ理論とやらで世間をたぶらかして放漫財政を実現すれば、高インフレが示現して、経済はバランスを失うでしょう。
そうなれば、安定性と経済回復を期待して安倍政権を支持してきた国民はそっぽを向くでしょう。既に森友学園問題で、言を左右にひるがえす安倍総理は、これまでの高支持率の要因の一つ、「総理の人格に対する信頼」を大きく傷つけています。今は欧州歴訪の旅に出ていますが、23日に予定される国会での喚問で籠池理事長が何か爆弾発言をすれば、総理が帰国する時には日本はすっかり政局ムードになっているかもしれません。1956年吉田茂総理がくしくも欧州歴訪の外遊の間、足元の日本では政争が激化、総理は帰国後3週間後には内閣総辞職を余儀なくされていることが思い浮かばれます。
森友学園は、大阪の右派勢力の象徴的プロジェクトであり、また稲田防衛大臣はその勢力の申し子でもあり(父親の椿原泰夫氏は昨年10月逝去されていますが、右派運動に関与していました)、大阪維新の会もこの勢力の支持を是非とも必要としています。森友学園問題で、安倍政権というダムに穴があき、あっという間に崩壊してしまうかもしれません。
安倍政権も、自民党や周囲の利権目当ての支持層が長期政権に慢心し、それぞれ勝手なことをして政権を贔屓の引き倒しし始めています。ここで兜の緒を締め直さないと、政権はレームダック化するでしょう。
ところでこの頃、「ロボットが無限とも言える生産力を発揮するので、人間は働かなくてもすむ共産主義社会が到来するだろう」という見方が増えています。私もそう思っていますが、他方厳然たる限界も存在しているのです。それは鉄や非鉄金属など資源の量の限界(地球のマントルまでロボットが潜って取って来れば、ほぼ無尽蔵にありますが)、そしてエネルギーの限界です。
つまり「無限の生産力」というのは無理で、経済にはやはり「不足」という宿命がつきまとうのです。と言うことは、ロボットの生産したものを、欲しい人に無料で上げることはできない。価格をつけて、需要と供給のバランスをはからなければならない。また国民の間で購買力に格差が付き過ぎないよう、政府が購買力=通貨を国民にうまく分配しなければならない。例えば日銀がデジタル・マネーを発行。今話題になっている「フィンテック」や「ブロックチェーン」の技術を使って、国民一人一人の口座に、「その月のお小遣い」を振り込む、誰にいくら配分するかを決めるのは、政治家たちが作る法律。こういう究極の管理社会がやってくることになりかねないのです。
ここで筆者の思考は止まり、やる気が失せて来るのです。「そんな社会にどうせなってしまうなら、もう世界や社会のことを考える意味はない」・・・
前置きが長くなりました。今月の目次をお目にかけます。
中央アジアの風向き変わる
ポーランドの憂愁
INF(中距離核ミサイル)騒ぎ再来
トランプはWTOを破壊するのか?
超過勤務騒ぎと日本の特異な雇用慣行
随筆:宅配便の人手不足を救う道
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