米国の党派対立の道具となった米ロ 米中関係
(これは12月末発行のメルマガ「文明の万華鏡」第56号に掲載したものの一部です)
米国では、大統領選でトランプにしてやられた民主党、そしてCNN、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなどこれまで米国政治を引き回してきたつもりでいる大マスコミなどが、往生際悪くトランプ叩きを強めています。彼らが使うNarrativeは、「ロシアは民主党本部の情報をハッキングしてウィキリークスに渡し、クリントンに不都合な情報を公開させた。つまりロシアはトランプを勝たせるべく、米国大統領選に介入した。トランプはロシアの支援で大統領になった」というものです。そしてCIAまでが「ロシアが上層部の同意を得てハッキングを行ったと疑うに足る、強い根拠がある」という趣旨の談話を発表しています。
このため、トランプ=親露・反中、民主党=反露・親中という、単純かつ不幸な対立軸が示現しています。ここでは真実は党派対立に押しつぶされてしまいます。これまでに示された「証拠」だけでは、ロシアが民主党本部をハッキングしたとは、言いきれないのですが。
一体なんで、米国では反露気運の根が深いのか? ロシアの体力は世界に覇を唱えるには到底不十分。それなのに、米国がロシアのことを気にし過ぎることで、ロシアが実力以上の影響力を行使、それにまた米国がヒステリックに反応する。こういう悪循環になっています。こうなった原因を探るため、米ロ・米中関係を振り返ってみます。
1)米国は2000年代初期の疲弊したロシアを軽視、NATOを旧ソ連の一部だったバルト諸国に拡張、更にミサイル防衛用ミサイルの欧州への配備を決定することで、プーチンを心理的に追い込んだ。2008年8月ロシア軍はグルジア(ジョージア)に侵入するが、これはサカシヴィリ大統領がNATO加盟をちらつかせて国内のロシア「平和維持」軍を襲撃したからである。更に2011年12月、ロシアでは総選挙開票に不正ありとする反政府デモが起き、ロシアはレジーム・チェンジの危機にさらされたが、プーチンはこの背後に米国NGO等による煽動を疑った。
2)つまりプーチンは、自分の存続、ロシアの存続を米国に脅かされていると感じている。そのために報復・対抗手段をとっている。それは米国でのサイバー操作、欧州諸国の右翼・国粋主義運動への支援であり、その一環としてトランプ大統領候補を「支援」したこともあるかもしれない。もしCIA、FBIがこの点について確かな情報を持っていれば、これからの米国内政上、大きな起爆力を持つ。
米国は、プーチンの被害者心理を理解しない。もっぱら、彼を世界秩序への挑戦者と決めつけ、制裁で黙らせようとする。他方、中国は共産党統治下にありながら、経済関係が緊密であるために、米国は中国での「レジーム・チェンジ」を仕掛けない(また仕掛けようとしても、中国側のガードが堅い)。
3)いずれにしても、米国が対ロシア、対中国関係を国内の政争の具とするのは、同盟国にとっては迷惑である。米中ロの間で、「互いにレジーム・チェンジをしかけないこと。それぞれの周辺地域においては、力による現状の変更を行わないこと」について合意し、世界各国が経済に集中できる、安定した政治枠組みを確立して欲しいものだ。
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/3337